マクロビオティック、一日一食、糖質制限食、穀物vs肉など、食事法には古今東西いろいろなものがあります。どれが正しいのでしょうか。
管理栄養士 幕内秀夫さんが去年発行された病気にならない夜9時からの粗食ごはん (青春新書PLAY BOOKS)を読みました。
この本は、幕内さんの食事論を説くと同時に、さまざまな健康法にも意見する内容となっています。このブログで取り上げてきた甲田療法についても書かれています。
さまざまな健康法・食事法を実践するときに気をつけるべきことは何でしょうか。この書評ではその点に触れたいと思います。
これはどんな本?
著者の幕内秀夫さんは、伝統食と民間療法の研究し、「FOODは風土」を提唱している管理栄養士です。
どんな動物も地域の産物を食べていますが、それは偏食とはいえません。同じように、日本人も風土の食事を中心に生活することが健康につながるという趣旨のようです。
幕内秀夫さんは、特に著書粗食のすすめ (新潮文庫)によって有名になりました。
健康法には決まった特徴がある
世の中には前述のようにさまざまな健康法がありますが、どの健康法にも同じような特徴があるといいます。
これまで流行したあらゆる食事法には、すべてに共通した流れがありました。極端な方法のものは話題になります。…たくさんの人が実践すると必ず、良くなる人がいます。そのため大きなブームになります。
…ただし、それだけたくさんの人が実践すると、「何も変わらない」、あるいは逆に具合が悪くなるということが出てきます。(p81)
そして、ブームになった健康法や食事法にはもう一つ特徴があります。提唱した人の九◯パーセントが、その方法で自らの病気を治した人なのです。(p82)
どの健康法も、一部の人には効果があるけれど、すべての人に効くわけではない。提唱者が死ぬとブームは終わり、しばらくして別の人物が現れ、再燃する…、その繰り返しだと書かれています。
西式健康法も甲田療法もそうでした。
人の体質はそれぞれ異なりますから、健康法は人それぞれだと書かれています。実践する人が多ければ、体調がよくなる人もいれば、悪くなる人もいるのです。
わたしも、甲田療法をいくらかやっていますが、人に勧めないよう気をつけたいと思います。
極端は危険
健康法にのめりこむと、それが一種の宗教になってしまい、客観的に見られなくなるという危険が書かれています。わたしも自分の経験から、そうだと思います。
極端な食事法というのは、なかには良くなる人がいるから厄介なのです。…そういう経験をすると客観的になれなくなってしまう傾向があります。
これは、いわゆる民間療法に共通した難しさです。治った人にとっては、まさに宗教と同じ。「こんな奇跡を信じないのはおかしい」とまで思い込んでしまいます。(p95)
どんな健康法にしても、原理主義者になるのではなく、ある程度“いい加減”なほうがよいと勧められています。
著者が勧めるポイントは、砂糖や精製油など、健康を害するものをできるだけ少なくし、素食に徹することです。
マイナス100点から、いわゆるある各健康法におけるプラス100点を目指すのではなく、マイナス30点くらいをまず目指してはどうかと書かれています。(p108)
各健康法についてのアドバイス
その上で、各種健康法について、著者の視点からアドバイスがなされています。
1.減塩
減塩については、心臓や腎臓に持病をもっている人以外は、むしろ減塩しないほうがいいとされています。血圧が塩分に敏感に反応するタイプの人(食塩感受性高)は、2割にすぎないといわれているそうです。(p72)
むしろ塩分を少なくすると、他の合成調味料が増えて、精製油と砂糖だらけになってしまうという問題をはらみます。(p76)
また塩によって食べ物の腐敗を防ぐことができず、防腐剤や殺菌剤が増えてしまいます。(p78)
2.糖質制限食
糖質制限食はこの本ではかなり否定的に書かれています。
体重のリバウンド、精神面への弊害、経済的な問題、腎臓や心臓への負担があるとして、厳しく批判されています。
ある精神科医によると「やせる食事法は100%リバウンドします。唯一リバウンドしないのを摂食障害といいます」とのことです。(p179)
著者の近刊は糖質制限食を問題視するものです。
3.肉vs穀物
人間はもともと狩猟生活で肉ばかり食べていたのだから、肉は必要だ、という論議はよく聞きます。分子整合栄養医学の医師もそう言っており、わたしはこの点をずっと疑問に思っていました。
この本では明快にその説明が論破されています。
狩猟をしていた時代には、人間の寿命はわずか30歳くらいだったので、生活習慣病が少なかっただけであり、肉ばかり食べることが体に良いわけではないという意見です。(p93)
個人的には、タンパク質が必要というのはわかりますが、それは豆腐や卵や魚介類で十分です。毎日のように肉を食べるよう指導する医師には不自然さを禁じえません。人間が誕生以来ずっと食肉としての家畜が食べほうだいだったとでも言うのでしょうか。
4.飲尿療法
これについては著者も末期がんや胃潰瘍が良くなった人たちをじかに見たそうです。それで実践してみたそうですが、強烈な信念による治癒ではないかとしています。真偽はわかりません。(p96)
5.マクロビオティック
マクロビオティックは日本の伝統食に近いため、日本人にとって比較的無理がなく、ずっと生き残ってきたと述べています。特に都会の美食家の人は、マクロビをしばらく試みることで体調がよくなることが多いそうです。
それでマクロビは美食家の反省食と名づけられています。(p98)
ただしマクロビの原理主義者は体調を悪くする危険があると、実例を挙げて警鐘が鳴らされています。(p106)
6.西式甲田療法
西式甲田療法は、慢性疲労症候群(CFS)に効果があったことが知られている食事療法です。
学校を捨ててみよう!―子どもの脳は疲れはてている (講談社プラスアルファ新書)には、「成人型慢性疲労症候群において飢餓療法が功を奏する症例の報告がある」と書かれています。(p205)
このブログと関わりの深いものなので、少々詳しく引用します。
ポピュラーになったのは、私の尊敬する甲田光雄先生(1924-2008)による甲田式という健康法でしょう。10代のころから消化器系の病気に悩まされた甲田医師は、西式をベースにした菜食による小食の健康法によって病気を克服して、甲田式を広めました。
では、一日一食で本当に健康になるのでしょうか。私は三年ぐらい続けてみました。確かに、かなりやせましたが、仕事になりませんでした。午後4時をまわるともういけません。腹が減ってじっとしているしかないのです。
…それでよくわかりました。一食で平気だなんていうのは、もう、働いていない頭でっかちの人たちのやっていることなのです。
…もちろん、運動不足、食べ過ぎの時代には極めて有効なこともあります。実際、甲田先生の指導のもとに難病を克服した人は少なくありません。(p100-101)
甲田療法の食事は、著者が批判する極端の部類に入るのかと思いきや、意外にもいくらか好意的に書かれていて驚きました。
もちろん、甲田療法は健康な人がやるものではありません。難病の人が、自己治癒の望みをかけて行う、特殊な少食です。前述のような宗教まがいの食事療法にならないよう気をつける必要もあります。
とはいえ、量を少なくすることが目的なのであって、栄養バランス的には一応のところ合格点である、ということなのかもしれません。
わたしはしばらく何ヶ月か甲田療法を続けたあと、睡眠リズムの問題から、中断して今日に至ります。
前回甲田療法に挑戦したときは、体調はよくなったものの、睡眠時間が短縮した結果、持病のnon-24が悪化しました。その睡眠リズムについては、医師の治療を受けて、改善しました。
甲田療法の食事内容は小規模ながら続けてきましたから、まったくやめたわけではありません。
最近、もう一度甲田療法に挑戦したいという気持ちが戻ってきました。
このたびは、睡眠リズムを保ったまま、甲田療法を継続できるかもしれないと思っています。
この本に書かれていたような極端な原理主義者にならないよう気をつけつつ、もう一度努力してみたいと思います。もちろん、極端に走ることの間違いは、甲田先生自身、著書の中で指摘しておられることです。
幕内秀夫さんの病気にならない夜9時からの粗食ごはん (青春新書PLAY BOOKS)は、食養に関するいろいろな極端について警告してくれるいい書籍でした。