「私のこと信じられないのに、いろいろ…付き合ってくれてたんだ…」
「そりゃ目の前で実際 苦しんでるかおぴゃんを、放っておくわけにはいかないからね」 (p167)
化学物質過敏症闘病マンガ「かびんのつま 2 (ビッグコミックススペシャル)」を読みました。
とても体調が悪くて、ここ半月から一ヶ月ほどブログを書けていなかったのですが、ようやくこのマンガの感想を書けそうです。
このマンガを読んで思うのは、化学物質過敏症の資料としてとても貴重なだけでなく、マンガとして読んでも魅力があるということです。
それで、今回は、ストーリーなどは書かないで、気になった部分について、同じような病気の当事者としての感想を書こうと思います。
これはどんなマンガ?
このマンガは、漫画家のあきやまひできさんが、化学物質過敏症の妻かおりさんと過ごす独特の日常を漫画化したものです。
一般に理解されにくい、化学物質過敏症の症状が、マンガとしてわかりやすく解説されていて、身近にこの病気の人がいる場合など、とても勉強になります。
「かびんのつま」のあらすじについては、以前の書評をご覧ください。
かびんのつま(1)感想 化学物質過敏症(CS)の妻と漫画家の愛に満ちた闘病記| いつも空が見えるから |
今回のまとめには書きませんが、化学物質過敏症の症状については、このマンガには次のようなものが出てきます。当事者にとっては、思い当たるところがおおいかもしれません。
■歯医者の麻酔でショックを感じたり、削った金属で体調がひどく悪化したりする(p14)
■ポリエステル製の下着がつけられない。(p19)
■ニオイが見える。(p21)
■車の排気ガスで打たれたように感じる(p38)
■合成ゴムのスリッパで喉が詰まる。(p61)
■牛や豚、ニワトリの肉は抗生物質で食べられない。(p78)
■スーパーの売り場は化学物質に満たされていて近づけない。(p119)
■お風呂の水のカルキに反応する(p156)
たとえ理解できなくても
第二巻を読んで気づくのは、夫のあきやまひできさんが、妻の多彩な症状を目にして戸惑う場面が何度も出てくることです。
「これまでと様子が違う…一体どうしちゃったんだ…!?」 (p57)
『ニオイが見えるだって? まさか…確かにタバコは吸ったけど、「見える」なんてそんなこと…』(p22)
「なんてことだ… 急に悪化したってことか…? とても信じられない……が、でも現実にかおびゃんはこんなに苦しんでいる…」(p64)
「にわかには信じられないが…少し調子が良さそうに見えるな…」(p90)
どの場面でも、これらの言葉は、あきやまさんの心の中での声として描かれています。心の中では疑問に思うことがあっても、それを口にだすことはなく、妻の体調を第一に優先して行動しています。
化学物質過敏症をはじめ、検査に出ない病気というのは、周りから理解されないものです。
わたしの慢性疲労症候群(CFS)も、知らない人が見たら、怠けているとしか思えません。
血液検査ではまったくの健康ですし、まだ20代なので、いつも「とても元気そう」と言われます。
CFS仲間からさえ、「今日は元気そうに見える」と毎回言われるのでびっくりします。あまつさえ最近は、市大の専門医の先生からさえ、「もっとできると思うから、運動をがんばるように」と言われました。
実際にはとてもしんどくて、だれかと会うだけでも辛くて、病院に行くだけでも精一杯なのに、そう言われると傷つきます。わたしがしんどいというのはやはり「にわかには信じられない」ことなのだ…ということを実感します。
また、慢性疲労症候群と線維筋痛症と化学物質過敏症は一般に似ていると言われますが、慢性疲労症候群の人が「痛い」と言う場合、と線維筋痛症の人が「痛い」という場合とでは、雲泥の差があると、最近、線維筋痛症の友人が言っていました。
同様に、わたしにも多少の過敏性はありますが、化学物質過敏症の人の過敏性は別次元のものであることを、この本を読んで再認識しました。似たような病気の人同士でも、理解するのは難しいのです。
その場合、最も嬉しいのは、たとえ理解できなくても、苦しんでいることをわかってもらえることです。
ちょうどあきやまひできさんがマンガの中でなさっているように、たとえ理解できなくても、実際目の前で本人は苦しんでいるのだから、それを信じてほしいのです。冒頭に引用した会話はまさにそのことを言っている部分です。
こうした苦しみは、決して気のせいや思い込みではありません。心の中の問題ではなく、苦しんでいることは事実なのです。そのことを尊重してほしいと思います。
もし帰ってこなかったら…
私…深い深い穴に落ちてしまったよ…過敏症という深い穴に…
もし私が呼んでも穴の入り口にひでぴゃんが来てくれなかったら生きていけない。
もし何かあってひでぴゃんが帰ってこなかったら…その時は死ぬしかない
だれにも理解してもらえない、ということと関係しているのは、数少ない理解してくれる人がいなくなってしまったら、路頭に迷うということです…。
わたしもこのことはいつも危機感を覚えています。慢性疲労症候群の先生や、仲間の患者は何人もいるけれど、わたし個人の状況を細かく知っていて、それを信じてくれている人は世界に二人くらいしかいないと思います。
同じ慢性疲労症候群といっても、一人ひとり症状は違います。化学物質過敏症の人は多くいても、かおりさんにはかおりさんの独特の症状があるのと同じです。
もしわたし個人をしっかり理解していて、信じてくれている数少ない人たちがいなくなったら、どうしたらよいのでしょうか。わたしにはまったく生活する能力も方法もないのです。
自分の症状を理解してくれる人を少しでも増やすために、この「かびんのつま」のようなマンガは役立つかもしれません。
個人としても、自分の症状についてできるだけわかりやすくまとめ、説明できるようにしておくことは大切だと思いました。そのためには、同じような状況に置かれている人による情報を調べて参照することも役立ちます。
病名だけではわからない多彩な症状
このマンガの興味深いところは、化学物質過敏症や電磁波過敏症の過敏症状以外にも、いくつかの症状が見られたことをありのままに記しているところです。
たとえば、味覚障害によって苦いものを甘く感じたり(p110)、味がしなかったり(p80)、熱感覚異常でやけどしてしまったり(p112)、動くものを目で追えなかったりなどがあります。(p162)
化学物質過敏症というと、化学物質に過敏なだけなのだろうと思われがちですが、他にもさまざまな困った症状が出るということがわかります。
慢性疲労症候群も同じで、名前だけ聞くと、単に疲れているのだろう、と思われるかもしれません。しかし実際には、さまざまな症状に苦しめられます。
たとえば、この中では、わたしも眼球調節異常のようなものがあり、パソコンの画面をスクロールしたり、人の表情を目で追ったり、字幕を追ったりすることがとても不快で目が回るときがあります。かおりさんとは少し違うかもしれませんが、多分類似した自律神経異常だと思います。
この前主治医が、慢性疲労症候群という名前は、あたかも認知症を「慢性物忘れ症候群」と呼ぶようなものだと言っていました。名称だけでは伝わりにくいさまざまな問題があるのです。
記録しておくから…
ひでぴゃん 記録しておくからいつかこのことを漫画にしてね… (p143)
このマンガはかおりさんが必死に記録していた日記をたよりに記憶をたどって書かれたもののようです。
鉛筆臭が苦しく、少ししか書けなくても、空気の通るベランダで、毎日あったことをメモしていたそうです。
わたしも、情報量は少なくても、毎日のことを少しでもメモするよう努めています。このブログも、何か記録しておきたいという気持ちで書いています。
CFSの症状や感じたことについては説明しにくいものも多くあります。わたしは自分のことを書くのは苦手です。でも、何かしら書いておくことならいつか役立つかもしれません。
そうした日記をもとに、かびんのつまという実録マンガが書かれていることはとても貴重だと思います。
今回の書評では内容についてはほとんど触れませんでしたが、とても読み応えのある一冊です。化学物質過敏症に苦しむ人やその家族、友人にとっては読んで損のないマンガだと思いました。
自閉症の分野では、専門医の見解だけではなく、当事者研究によっても、自閉症の概念が形作られ、むしろ専門医が患者の手記から学ぶことが多くなってきました。
化学物質過敏症や慢性疲労症候群でもそうあるべきだと思うのです。「かびんつま」はまさに当事者研究の一冊といえるでしょう。当事者のありのままの状況を記した、このマンガをこれからも応援しています。
最後にあきやまひできさんとかおりさんの状況がよくなることを心から祈っています。