あらわれる精神症状はさまざまな原因によって生じるが、それらの原因は低血糖症が関係している
―米国の精神科医マイケル・レッサー (p55)
慢性疲労症候群やその周辺の病気の治療を考える際、低血糖症という病気を見過ごすわけにはいきません。分子整合栄養医学(Orthomolecular-nutrition-and-medicine)は慢性疲労症候群を治療する手段のひとつだと考える人もいます。
わたしたちのふだんの食習慣がうつ病や慢性疲労症候群といった脳の中枢神経の病気を引き起こす可能性があるのはなぜでしょうか。新宿溝口クリニックの溝口徹先生の著書図解でわかる最新栄養医学 「うつ」は食べ物が原因だった!を紹介します。
これはどんな本?
この本は、溝口先生の著書「うつ」は食べ物が原因だった! (青春新書INTELLIGENCE)をわかりやすく図解版にしたものだそうです。
わたしは前著は読んでいませんが、この本は確かに図やイラストで分かりやすく思いました。ほとんどの見開きで、右半分が解説、左半分が図となっており、一つの内容を二通りの仕方で学べるので記憶に残ります。
このブログでも何度か取り上げたように、溝口先生は、無反応性低血糖症や栄養素の欠乏という観点から慢性疲労症候群の治療に取り組んでおられる方です。
分子整合栄養医学(Orthomolecular-nutrition-and-medicine)とは何か、また低血糖症と慢性疲労症候群はどう関係しているのかという点については過去に以下のエントリでまとめていますので参考にご覧ください。
【11/7 NHKあさイチ!】CFSに似た低血糖症とはー「ちゃんと知りたい!糖質」まとめ |
この本は三章構成です。
第一章「脳の栄養不足」が「うつ」を引き起こす! 食べ物が心をつくっていた では、脳の栄養不足がどんな病気を引き起こすかが書かれています。
第二章 この食べ方が脳のトラブルを招いていた! 心に効く栄養学入門 ではどのような栄養素をとればよいかについて書かれています。
第三章 「うつ」がよくなる食べ物、栄養療法の実践 空腹を満たすだけでは脳は満たされない では具体的な食事療法や運動の方法がまとめられています。
食習慣が脳の病気をもたらす
本書図解でわかる最新栄養医学 「うつ」は食べ物が原因だった!の題名によると、食べ方がもたらす病気のひとつは「うつ」です。溝口先生はこう述べています。
必要な栄養が過不足なく供給されなければ、神経細胞も神経伝達物質も、その役割を果たすことができません。
そのことは、うつの人に共通する(偏った)食傾向がある、ということともピタリ符合しています。
「食傾向の偏り→脳の栄養不全→神経伝達物質のバランスの乱れ→うつ症状」という構図です。 (p10)
うつの人には特に、(1)食べないタイプ、(2)糖質依存タイプ、(3)ドカ食いタイプ、(4)単品食いタイプ といった偏った食習慣がみられるそうです。
そのような人がうつと診断される場合、精神科医は、DSM-IVという基準に基づいて、そう診断しているに過ぎません。実際にはそれは食習慣が引き起こす「脳の栄養不足」かもしれませんが、通常の血液検査では脳の栄養不足は見つけられないのです。
溝口先生は、たとえば、パニック障害の診断に必要とされる13の症状のほとんどが鉄欠乏の症状と重なっていることを指摘しています。純粋なパニック障害と診断するには鉄欠乏かどうかを調べる必要がありますが、そのような検査は行われていません。
もしかしてこれが原因?
では「うつ」でないとしたら、その症状の原因は何なのでしょうか。この本の第一章によると、さまざまな不定愁訴を訴える人の問題は、おもに5つのパターンにわかれるそうです。
(1)低血糖症: 糖質に偏った食習慣が原因。3つのタイプがあり、さまざまな症状が表れる。 (p20-23)
1.反応性低血糖症…イライラ、不安、しびれ、頭痛
2.無反応性低血糖症…常にだるい、疲労感。「慢性疲労症候群といわれた人もこのタイプが多い」。(p23)
3.乱高下型低血糖症…気分がめまぐるしく変わる
(2)鉄欠乏: 肉類の不足が原因。ささいなことでクヨクヨしたり、うつ状態になったり、睡眠リズム異常が生じたりする。(p24-25)
(3)亜鉛欠乏: 加工食品が原因。免疫力が低下し、肌荒れやアトピーが生じる。爪に白い斑点ができる。 (p26-27)
(4)ビタミンB群欠乏: 精製食品が原因。 睡眠障害や集中力・記憶力の低下が生じる。情報を処理しきれないため、読書やテレビ視聴が難しくなる。(p28-29)
(5)タンパク質欠乏: ダイエットなどのバランスの悪い食事が原因。さまざまな神経伝達物質の低下につながり、いろいろな症状が表れるので発見しにくい。 (p30-31)
そのほか第二章では、腸粘膜が弱くなっているリーキガット症候群(LGS)や、IgG抗体やIgA抗体が関わる遅延性食物アレルギーについても書かれています。(p48-49,p50-51)
このような腸粘膜の脆弱性や気づかれにくいアレルギーがあると、ごく普通の食べ物が慢性疲労や他のさまざまな不定愁訴を引き起こしてしまうことがあるようです。
詳しくは以下のエントリもご覧ください。
【3/8】遅延性フードアレルギーと慢性疲労症候群 |
▼睡眠リズムと糖代謝異常
この本では、糖代謝異常を食事の観点から治そうと試みていますが、睡眠リズムの問題が糖代謝異常の原因になることも報道されていました。
【4/4】昼夜のメリハリがないと糖代謝異常のリスクが高まる |
【3/26】体内時計の乱れが糖代謝異常、メタボリックシンドロームをもたらす |
食習慣を見直すことは大切
この本の各章の終わりには1ページからなる実際の経験談が載せられています。以下のような精神疾患と診断されていた人が、どのように診断名が変わり、治療に結びついたかが書かれています。
(1) パニック発作 → 反応性低血糖症 (p62)
(2) うつ病 → 低血糖症および重度の亜鉛欠乏 (p60)
(3) 高校で不登校。統合失調症 → 重度の貧血と低血糖症 (p90)
(4) 発達障害(ADHD) → ビタミンB群欠乏と鉄欠乏、低血糖症 (p91)
(5) 双極性障害 → 低血糖症 (p92)
治療期間は2週間で手応えを感じたものから、一年間経って回復を実感しているものまでさまざまです。
また、さきほど引用した通り、この書籍ではわずかながら慢性疲労症候群への言及があります。関連書籍といえるマリヤ・クリニックの低血糖症と精神疾患治療の手引―心身を損なう血糖やホルモンの異常等の栄養医学的治療でも慢性疲労症候群についてこう書かれています。
慢性疲労症候群は低血糖症の症状と非常に重ね合っています。
低血糖症であることが血液検査の結果から明確に判明した方に、このように診断されてきた方は非常に多いので、治療によって改善します。 (p206)
わたしの場合は、基本的に睡眠方面からの治療で回復してきましたが、食習慣を見直すことも必要だと感じていました。以前のエントリに書いたように、栄養療法(オーソモレキュラー療法)と甲田療法のどちらを選ぶか迷った末、個人的な基準から後者を選んだという経緯があります。
とはいえ、甲田療法はどう考えても万人に勧められるようなものではありませんし、体に負担をかける可能性もあります。栄養療法のほうが医師と協力して自己管理しやすいと思います。
慢性疲労症候群や関連する病気に悩んでいて、なかなか治療が功を奏さない場合、食習慣を見直すひとつの方法として、分子整合栄養医学の方面からの治療を試みるのもひとつの手かもしれません。