Quantcast
Channel: いつも空が見えるから
Viewing all articles
Browse latest Browse all 727

発達障害の2つのタイプ「天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル」

$
0
0

才建築家アントニオ・ガウディと、写真家にして童話作家ルイス・キャロル。あなたは自分がどちらに似ていると思いますか?

あまり知られていないことですが、このふたりはともに自閉症スペクトラム障害(アスペルガー)だったと考えられています。ところが、二人の認知特性は正反対で、ガウディは視覚に偏ったタイプ、キャロルは聴覚に偏ったタイプだったと思われます。

同じ発達障害という呼び名でくくられている人であっても、この二人のように、正反対のタイプが存在するようです。

そしてもちろん、自閉症「スペクトラム(連続体)」障害と呼ばれるように、健常とされる人であっても、発達の凸凹、つまり認知の偏りが存在します。わたしたちはだれしも、ガウディかキャロルのどちらかに幾分似ているはずなのです。

では発達の凸凹の二つのタイプ、すなわち視覚優位と聴覚優位にはどんな特徴があるのでしょうか。 天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル (こころライブラリー)という本にもとづいて、これから考えたいと思います。

わたしにとってこの本は、身体がノーというとき以来の良書でした!

これはどんな本?

この本は、自身が映像思考であり、常に頭の中に明確なイメージが湧いているという発達障害の当事者、室内設計家の岡南さんと、医師として発達障害を診てきた聴覚優位の専門家、宮尾益知先生の共同研究の結果誕生しました。

先日読んだ杉山登志郎先生の本によると、発達障害の認知特性を解説した、「決定版といえる本」とされていたので、読んでみることにしました。

あまり知られていない「発達障害のいま」の5つのポイントあまり知られていない「発達障害のいま」の5つのポイントはてなブックマーク - あまり知られていない「発達障害のいま」の5つのポイント

わたし自身は発達障害ではないものの、発達の凸凹があるとは思っています。しかし、自閉症スペクトラムについて学んだところ、自分に当てはまる部分とまったく違う部分があることに戸惑っていました。

この本を読んで、その謎がかなり解けたように思います。なんと自閉症スペクトラムやADHDといった発達障害にも二通りあるのです。わたしは自分がガウディとは似ていなくて、ルイス・キャロルにそっくりであることを発見しました。

視覚優位と聴覚優位

わたしたちの認知は、おもに視覚と聴覚の組み合わせで更正されています。しかし決して両者をバランスよく用いているとは限りません。

あなたは何かを考えるとき、言葉で説明するのが得意ですか? そのような人は聴覚優位です。それに対し、頭にイメージは湧くのに、言葉にするのが難しい、絵に描いたほうが早い、という人は視覚優位です。

■自分のタイプを知る方法
自分が視覚優位か、それとも聴覚優位かを確実に知る方法はあるでしょうか。

あります。本書によると、視覚優位と聴覚優位は、心理検査(ウェクスラー成人知能検査など)における「動作性」「言語性」の項目に相当するようです。発達障害では、どちらかの値がもう一方より高く、ばらつきがあることが知られています。(p17)

わたしの場合は、言語性が動作性よりいくらか高かったので、聴覚優位ということができます。

ウェクスラー成人知能検査(IQテスト・WAIS-III)受けてきました。ウェクスラー成人知能検査(IQテスト・WAIS-III)受けてきました。

■学生時代の特徴から
心理検査を受けたことのない人であっても、自分がどちらのタイプであるかを知る方法があります。学生時代のできごとを考えてみるのです。

学校の授業は、ほとんどが文字と言葉で行われますから、もし成績が良かったとすれば、聴覚優位であることを示唆します。中には、ノートをとらないでも、集中して聞いているだけで覚えられる人もいます。(p29,48)

子どものころはしりとりといった言葉遊びを好み、おとなになってからは音楽やフィクション文学、二次元的なイラストを好むこともあります。(p29,50)

それに対し、視覚優位の人は、言葉を逐一脳内でイメージに変換しながら聞いていますから、長々しい授業についていくことができません。読む速度も遅くなります。学校の授業の大半は苦手ですが、副教科が得意です。(p37)

子どものころは、積み木やパズルを好み、やがてノンフィクションや三次元的な芸術、 建設にも興味を示すようになります。(p50)

■NLPにおける視覚型と聴覚型
視覚型、聴覚型、というとNLP(神経言語プログラミング)では有名な分け方で、本書にもそれに言及しているかのような記述があります。(p8)

しかしNLPでは世の中の人の多くは視覚型とされているのに対し、この本における視覚型の人は少数派であるように思えます。似て非なる概念としてとらえたほうがよいかもしれません。

「聞き手を熱狂させる!戦略的話術」に学ぶ話し方(上)NLPとは?「聞き手を熱狂させる!戦略的話術」に学ぶ話し方(上)NLPとは?

優位性と優位性

視覚優位と聴覚優位は、より詳しく説明すると、色や線の見え方の違いという形で現れることがあります。関係しているのは、脳の第四次視覚野(V4)と呼ばれる領域です。

視覚優位の人の場合、この領域が優れているので、微妙な色の違いを見分けることができるようになります。これを色優位性といいます。

色優位性を持つ人たちは、物体の明暗をよくとらえ、きわめて立体感のある絵が描けるようになります。デッサンの達人たちは色優位性を持っています。色優位性をもつ画家には、アンドリュー・ワイエスやモネがいます。(P44,135)

しかし、色優位性を持つ人たちは、逆に線を見分けるのが苦手になるので、文字が読めないディスクレシア(読み書き障害)を伴うことがあります。ダーウィンやガウディがそうでした。(P85)

これに対し、聴覚優位の人は、V4の働きが弱いので、色の微妙な違いを把握できず、線による認知に頼ります。これを線優位性といいます。

線優位性の画家には、フランスのアメディオ・モディリアーニやアンリ・ド・トゥルーズ=ロートレック、アンリ・マティスなどがいます。キャロルも、線優位性が目立つイラストを描いていたといいます。(p42,235)

こうした人たちの絵の特徴は、現代のアニメーションのような二次元的なイラストを描いたこと、また微妙な中間色をあまり使わず、発色の良い色を選びがちだということです。(p255)

聴覚優位の人の、この明度が見分けにくいという色の問題は、世の中の見え方や人間関係にも波及します。

わたしたちが立体を意識できるのは、明度差がわかるからです。たとえば、自分のいる部屋の壁と天井が、どれも同じ色に見えているとしたら、奥行きが把握できません。(p252)

二次元に描かれた写真であれば立体を意識できますが、三次元の空間になるとわかりません、空間認知が悪いため、文字情報に頼ることが多く、道に迷いやすくなります。(p254-255)

また、人の顔を見分けることにも、微妙な明度差を見分ける力が必要です。聴覚優位の明度を見分ける力が弱い人は、ときに相貌失認症(失顔症)を生じ、写真を用いないと顔が覚えられないようになります。(p264-269)

ルイス・キャロルは、「鏡の国のアリス」の中で、色彩や人の表情の表現をほとんど用いていないといいます。それどころか、登場人物であるハンプティーダンプティーに、自分の相貌失認経験を語らせてさえいます。(p244,275)

全体優位性と局所優位性

視覚優位の人と、聴覚優位の人を分ける別の特徴は、全体優位性か局所優位性か、ということです。

視覚優位の人は、同時処理という方法で思考するので、全体から部分へ考えをめぐらす、全体優位性を持ち合わせているそうです。

この本には書かれていませんが、マインドマップのように全体を一望しやすいノートは、このような思考パターンに向いているとも言われます。

視覚優位の人は、コンピュータの3Dモデルのように、物事のスケールを自在に変化させ、全体を見渡す縮尺フリーとでも呼ぶべき能力を持っていることがあります。(p170)

全体を見渡すことに慣れているので、全体の中にある不都合(つじつまのあわなさ)を人より早く見つけられます。(p90,179)

ガウディはサグラダ・ファミリアを建設するとき、常に全体を意識し、施工に長くかかっても、全体像がわかるような方法(全体→細部)で、建物を作っています。(p179)

これに対し、聴覚優位の人は、細部にこだわる局所優位性です。同時処理とは反対の経時処理(順を追って)という方法で思考するので(細部→全体)、ときに全体のバランスが悪くなります。

ルイス・キャロルが描いた絵や、つむいだ文章には、細部にこだわる局所優位性が現れています。(p234-243)

4次元と2次元

視覚優位の人と聴覚優位の人の思考を決定的に隔てているのは、その次元の違いです。

視覚優位の人は、3次元の空間+物体の動き(時間軸の変化)を映像のように記憶しています。いわば映像思考とも呼ぶべきものです。時間軸がはっきりした4次元的な考え方なので、昔のことを順序良く思い出せます。

動きを把握できるため、アニメーターのような職業には映像思考の人が向いているといえます。

ただし、すべてが映像に変換されるため、読んだり聞いたりできる速度は遅くなります。(p37,97)

ガウディは、美しい3次元の建物を建てただけでなく、そこで生活する人々の動線を意識して、快適な居住空間を設計しました。(p138)

これに対し聴覚優位の人は、前述のとおり、空間認知が弱く、動きも把握できません。映像思考に対して、いわば写真思考とでもいうべき、2次元的な記憶に頼っています。

そのため、会話するときは、芋づる式に写真が現れ、次々と話題が飛ぶ「おしゃべり」になることがあります。その分処理速度は早く、次から次に発想が現れます。特にADHDの人はこのような特性があります。(p4,129)

記憶の時間的関係性はあいまいなので、過去に起きたことが、今起きていることのように感じられるフラッシュバックや、タイムスリップ現象を起こしやすくなります。(p129)

アスペルガー症候群としての特徴

最後に、ガウディとキャロルについて、アスペルガーらしい特徴と本書で解説されている点を取り上げたいと思います。一般の発達障害についての本とは異なる踏み込んだ表現でたいへん興味深いものです。

■健康の問題
多くの発達障害の人は、表面的にはあまり理解されにくい脆弱性を持っています。さまざまなアトピー、喘息、リウマチ、不器用さや疲れやすさ、持続力のなさなどです。

さらには眼球周辺の筋肉の弱さがあり、文字に焦点を合わせ続けることや、動くものを追い続けることが難しいといった眼球運動障害を抱えていることがあります。(p82,222,290)

ガウディも病弱な子どもで、リウマチの発作に悩まされました。家族や兄姉も早くに亡くなっています。

■怒りっぽさ
発達障害の怒りっぽさには二つのタイプがあります。ひとつは聴覚優位のため、前述のようなタイムスリップ現象が起こり、昔のことが突然思い出されて腹立たしくなるということです。(p128)

もうひとつは、4次元を認識している視覚優位の人の場合、同時処理によって理解が早いため、なぜ他の人はそんな簡単なことがわからないのか、と感じてしまうようです。(p129)

視覚優位の人は、年をとるにつれ聴覚の不全が目立ち、「聞く耳を持たなく」なることがあります。(p193)

■緩やかな成長あるいは老けにくさ
アスペルガーの子どもは学齢期には年齢相応よりまじめで周囲の冗談になじめず、見かけとしては成人になってからも実際の年齢よりはるかに若く見えます。

キャロルはしわひとつなかったそうで、表情筋をあまり使わないためかもしれないとされています。(p215)

■発達性協調運動障害
アスペルガーの人の多くに運動制御に関する問題があり、たとえば歩き方がぎこちなかったりします。(p216)

ほかにも逆上がりができない、文字を書くとき適切な筆圧をかけられない、ボールをけるのが苦手など、いわゆる不器用さの症状が現れます。(p222)

これらは発達性協調運動障害と呼ばれます。

■クラタリング
吃音障害と類似した「噴出口から豆がはきだされるように、不明瞭な言葉が次々とほとばしり出る」、クラタリングと呼ばれる症状があります。衝動的に会話スピードが早くなり、つまずき、言いよどみ、言い直しが繰り返されます。(p221)

わたしとあなたは認知が違う

天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル (こころライブラリー)を読んで、わたしの心に留まったのは以下のふたつの文章です。

人は見方によっては五体があり、ほぼ同じ形をしていますから、他人とは感じ方や考え方が同じであると思いたがるふしがあります。他の人との違いがそれとなく分かっていながら、それを認めたくない部分も、実はあるのです。

みんなが同じだとすると、できない苦手な部分は「努力の不足」や「怠けている」という評価になりますから、これはたいへんですが、すでに書いたように、これはもともとの神経の特徴によるものですから、努力ではどうしようもないのです。

…ということは、一人ひとりが違っている、ひして凹凸があることが自然であり、当たり前ということなのです。(P34-35)

こうしたキャロルを私たちは、うらやましいほどの豊かな才能に恵まれているように思っていますが、しかし彼にもまた認知の偏りがあり、その苦悩から生じた表現を、私たちはキャロルの才能と言っているに過ぎないのかもしれません。(P204)

わたしとあなたは認知が違うのです。みんな違った認知方法で世界を見ているのです。

わたし自身が、聴覚優位であることは、さまざまな点から明らかです。このブログの存在もそれを証ししていますし、ウェクスラー成人知能検査の結果もそうです。

キャロルは30歳から66歳までの間に98721通の手紙を書き、挿絵を入れるなど読みやすさに工夫をこらしたそうですが、わたしも筆まめで、そうした手紙を書いています。(さすがにいちばん書いていたころでも年間100通でしたが…)(P205)

わたしの絵を見てもらえるとわかるとおり、わたしには、色の微妙な明度をとらえる才能はありません。立体感を出すのが難しいのです。線優位性であることは明らかです。とはいえ線優位性の画家もいますから、才能がないと落ち込むことはない?ようです。

また以前書いたように、わたしは相貌失認ぎみです。この本には相貌失認の人の生活について書かれていて、自分から相手に声がかけられない、笑ってごまかすなどとされていますが、まさにそのとおりです。

軽い相貌失認なので、5回くらい会ったら顔を覚えますが、それでも外でばったり会ったりしたら見分ける自信はありません。

本書にはこう書かれています。

本書に初めてキャロルの相貌失認を書くにあたり、宮尾先生と私には一つの思いがありました。

相貌失認は本人の中でも極めて意識しづらく、それ以前の色の問題を含め、相貌失認にまつわるさまざまな問題を周囲は理解することができません。

…本書では特にこのような人たちの日常の行動特徴を具体的に述べました。それはとりもなおさず、身近にいるかもしれない同様な人々や子どもたちへのご理解をいただきたいと考えたからです。 (P294)

相貌失認のある人には、この本や、以前紹介したオリヴァー・サックスの本をおすすめします。

文章の意味が分からない「後天性の失読症」にどう対処するか(上)文章の意味が分からない「後天性の失読症」にどう対処するか(上)はてなブックマーク - 文章の意味が分からない「後天性の失読症」にどう対処するか(上)

天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル (こころライブラリー)は、「天才」という言葉がタイトルに入っているので、自分には関係のない話と思いがちですが、実際には天才について語られた本ではないと思います。

この本のAmazonレビューはたいへん興味深いものです。褒めはやしている人もいれば、懐疑的な人もいます。おそらく前者は認知の偏った人で、後者は認知の平坦な人であり、各々自分の視点から評価しているからでしょう。

わたしにとってこの本は「わたしとあなたは認知が違う」ということを発見できた、とても含蓄に富む一冊でした。

自分には他の人と異なる認知の特徴があるかもしれない、と思う人にとって、この本は自分への理解を深める一助になると思います。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 727

Trending Articles