●8時間睡眠が理想的
●体内時計は25時間
●眠れなくても横になって休んでいればいい
●10時-2時は成長ホルモンが出るゴールデンタイム
●深い睡眠が大切
●週末に寝溜めすればいい
●訓練すればショートスリーパーになれる
驚くかもしれませんが、すべてウソなのだそうです。睡眠については、事実無根の話がまかり通っています。正しいことを知ろうにも、相反する情報の海に溺れそうになってしまいます。
そんなとき、正しい海路を示してくれる羅針盤のような書籍が、先日発売された、8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識です。睡眠の専門家、国立精神神経センターの三島和夫部長の話をまとめた内容です。
ようやく読んだので、内容を紹介したいと思います。
これはどんな本?
この本の内容については、このブログで何度も取り上げてきたので改めて書評にするまでもないかもしれません。
【1/17】「8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識」が発売| いつも空が見えるから |
大きな反響を呼んだWebナショジオの連載「研究室に行ってみた。」の「睡眠学」の回が、追加取材による書き下ろしと修正を加えて単行本になったものです。もとになったという連載記事はこちらです。
三島和夫先生についても、もはや説明不要の有名人です。睡眠の研究の権威であり、このブログでもたびたび名前が出てきました。
三島和夫 医師,【不眠症、睡眠・覚醒リズム障害、冬季うつ病】,『不眠症』,国立精神・神経医療研究センター病院-精神生理研究部(みしまかずお,) | 名医を探すドクターズガイド |
そのようなわけで、このブログの過去記事をご覧いただければ、この本の要旨はわかるのですが、せっかく読んだので、簡単に記事にしておきたいと思います。
8つの新常識とはなにか
この本の表題になっている8つの新常識とは何でしょうか。順を追って、簡潔に解説していきましょう。
1.日本人は世界屈指の睡眠不足
日本人が世界屈指の睡眠不足である、ということは、さまざまな大規模な調査および研究により、紛れもない事実と判明しています。
この本にもいくつかのデータが図表入りで説明されています。
たとえば、1941年の戦時下の調査では午後10時50分には90%が眠っていました。ところが30年後の1970年には、午前0時で90%担っています。そして2000年には90%が午前1時に眠っています。日本人の睡眠時間は日に日に短くなっているのです。(p33)
その理由は、時期的に考えて、テレビやゲーム、インターネットという単独要因では説明がつかないといいます。
「実は眠れないんですね。メディアがいろいろ増えて、楽しくて起きているというよりも、眠れない人が増えてしまっているんです」(p37)
2.シフトワークは生活習慣病やがん、うつ病のリスクを高める
こうした睡眠不足に因る経済損失は年間3兆5000億円といわれています。それどころか、チェルノブイリ事故やスリーマイル事故、チャレンジャー号の爆発事故などはすべて交代勤務や睡眠不足が関係していたと判明しているそうです。(p43)
特に夜勤シフトワーク(交代勤務)には受動喫煙以上の健康への危険性があるそうです。
「夜勤シフトがこういう疾患のリスクを高めるということがきちっとデータとして出ていて、厚労省の労働者健康リスク一覧にも登録されています。
世界保健機関(WHO)でも結構論議になっていまして、これだけリスクが上がるなら、たとえば喫煙の問題と同様に公衆衛生として進めるべきことだけれど、交代勤務をなくすわけにもいかないので、どうするべきか、と」(p48)
また日本では女性に家事負担がかかり、女性の睡眠時間が少ないことも問題とされています。女性の睡眠時間が短いと、それにつられて、子どもも睡眠不足になるからです。(p50)
子どもの睡眠不足の破壊的影響については、以下の記事を参考にしてください。
発達障害や慢性疲労症候群と関わる「子どもの夜ふかし脳への脅威」| いつも空が見えるから |
3.こま切れの睡眠はNG
睡眠は、90分おきのレム睡眠と、砂時計のようにだんだん減っていくノンレム睡眠の組み合わせによってなりたちます。これをメジャースリープというそうです。(p16)
こま切れに睡眠をとると、夜の深い睡眠が激減してしまいます。脳の冷却の効率が悪くなってしっかり休むことができません。眠り始めてから3時間ほどの間に出る成長ホルモンも減ってしまいます。(p17)
ちなみに夜10時から深夜2時までを、成長ホルモンの出る睡眠の「ゴールデンタイム」「シンデレラタイム」などと呼ぶことがありますが、深い睡眠は眠り始めからの3時間に出るので、必ずしもその時間帯でなくても構わないそうです。
「これは完全な間違いです」と断言されています。(p21)
4.日本人の体内時計は平均で24時間 10分
古い本では、体内時計の周期は25時間で、太陽の光などによって24時間に調節しているという記述がしばしばみられます。いえ、しばしばどころか、ほとんどの本でそうなっており、近年発行された本でも堂々とそう書かれています。
しかし、体内時計が25時間というのは、厳密な暗闇で測定していなかった昔の洞窟実験による研究結果であり、最近の隔離施設を用いた研究では、ほぼ24時間であることが判明しているそうです。
ハーバード大のデータでは平均24時間11分、三島先生らのデータでは平均24時間10分だったそうです。もちろん、これは平均値であり、人によって体内時計の周期にはバラつきがあります。
この体内時計の周期については、毛髪や血液などの検査によってもわかるようになりました。
【6/10】体内時計の乱れを調べる検査法| いつも空が見えるから |
体内時計の長さは生活にどんな影響を及ぼすのでしょうか。
「24時間に近い体内時計を持っている人は、毎日苦労しなくても同じ時間に眠たくなって、目覚ましなしでも起きられる。
でも、体内時計が長い人は、ちょっと気を抜くと、どんどん夜更かしの方にずれていってしまう。
だから、もともと苦労しないでも寝起きができる人と、なんとかカツカツで体内時計を調整してる人がいるんですよ」(p73)
体内時計の周期が長い人は、ふだんから、全然朝起きられず、宵っ張りの朝寝坊になりがちです。(p93)
さらにストレスや疲労が上乗せされると歯止めが効かなくなり、睡眠相後退症候群(睡眠相後退型:DSPS)や非24時間型睡眠覚醒障害(非同調・フリーラン型:Non-24)になりやすいといわれています。
これらは概日リズム睡眠障害、あるいは睡眠覚醒スケジュール障害と呼ばれる病気です。
夜型の人たちの中にも極端に周期が長い人は、社会時間の縛りが弱くなると容易に「非同調型」に移行する可能性が高い。強い夜型生活者は「概日リズム睡眠障害」のリスク群と言える。(p98)
その点については、下記の記事で詳しく取り上げました。
慢性疲労につながる「非24時間型睡眠覚醒症候群(non-24)」にどう対処するか (2)特徴と原因| いつも空が見えるから |
概日リズム睡眠障害の患者はメジャースリープが崩れているので、経過中にうつ病になる割合が8割にものぼるそうです。(p19)
5.睡眠時間は人それぞれ、年齢でも変化する
よく、理想の睡眠時間は8時間といわれます。それについてはこう書かれています。
しかし、それには根拠がないというか、事実に反しており、むしろはっきり「嘘」と言ったほうがよいほどのものだという。
というのも、後で述べるように、「理想の8時間睡眠」にこだわるあまり、自分は眠れていないと悩む人が多いからだ。(p112)
実際には、その人の基礎代謝や、年齢によって睡眠時間は変わってきます。一日8時間も眠れるのは15歳くらいまでで、あとは年々短くなってくるそうです。
若年者の方が、基礎代謝が高くてたくさんエネルギーを使って生活していて、その分しっかり眠らなければならないわけです。
アスリートが現役引退した途端に基礎代謝が落ちて、睡眠も短くなることがあります。引退がストレスになって眠れないと感じる人も多いんですけど、それだけじゃなくて、体がエコ型に移行して、以前のような睡眠が必要なくなるんですね。
高齢者が最たるもので、赤ちゃんに比べて体重あたりのエネルギー消費量が3分の1ですから。(p121)
理想の睡眠時間を知る方法は今のところないそうです。
睡眠時間は、体調によっても変化します。たとえば、ものすごく疲れているときは睡眠時間が長くなります。また、風邪をひいたときには、インターロイキン1β、インターロイキン2といった免疫物質が出て、徐波睡眠を増やすそうです。(p138)
わたしの睡眠が10時間を超えるのも、このあたりに原因があるのかもしれません。
ただし、詳細なメカニズムはわかっていないものの、長時間睡眠をとるとうつ状態になるということにも注意が必要です。(p23,p132)
6.「深い睡眠」が「よい睡眠」とは限らない
睡眠の長さだけでなく、深さもまた謎に満ちているそうです。脳波上では、よく眠れているはずなのに、ぜんぜん眠れなかったという人もいれば、逆の反応を示す人もいるからです。
これをスリープ・ミスパーセプション(睡眠状態誤認)といいます。脳波上は正常な睡眠でも、本人は眠れていないといい、心身に不調が出てしまうのです。
7.不眠=不眠症ではない
スリープ・ミスパーセプションによって、脳波の上では不眠ではないのに、症状は不眠症という人がいることになります。不眠というのは主観的なものなのです。そのためこう書かれています。
「中途覚醒とか早朝覚醒とか、不眠症状を訴える人は成人の40%ほどもいますが、そのために治療を受けなければならないような人って大体6-8%くらいなんですね。
すなわち、不眠症状があること=不眠症ではない。睡眠の深さや長さ、覚醒回数などの脳波を測ってわかるようなシンプルなパラメーターでは、治療が必要な不眠症かどうかの診断や、不眠の重症度は判定できないんですよ」(p127)
「気にしすぎ」というのはある程度あたっているのかもしれません。たとえば、前述の「8時間睡眠」を信じていて、自分はそれほど眠れない、不眠だと思い込んでいる場合もあるでしょう。つまり不眠恐怖症です。
「不眠=不眠症」ではありません | ナショナル ジオグラフィック(NATIONAL GEOGRAPHIC) 日本版公式サイト8.眠くなるまで寝床に向かってはならない
特に高齢者の中には、不眠症を自分で作り出している人がいるといいます。不眠症の2割が、不眠恐怖がさらなる不眠を招く原発性だと言われています。(p152)
70歳近くなると、平均して正味6時間くらいしか眠れないのが普通です。だけど日本の65歳は平均で9時間も寝床にいるんです。3時間はねどこにいても眠れずに過ごしているということです。…そんなの不眠が悪くなるに決まっているんですね。(p142)
「眠れなくても、横になっていれば体は休まる」という言葉はよく聞きます。しかしそれは間違いなのだそうです。
でも、不眠症では絶対にやってはいけないことです。それをやっているから、みんな不眠症がわるくなっちゃうんです。(p146)
眠れないときにベッドにいると、ベッド=眠れない場所という条件反射が関連付けされて、いっそう眠れなくなってしまうのです。(p153)
10分経っても眠れなかったら寝室から出る、自分の睡眠時間を記録して、それより長く寝床にとどまらないという認知行動療法によって、睡眠薬と同等かそれ以上の効果が得られたというから、驚きです。(p148,155)
睡眠の常識はとても役立つ!
この本には、ほかにも、年齢や立場ごとの睡眠のあり方のアドバイスや、さまざまな睡眠障害についてまとめられています。この書評では紹介できないような図表がたくさんあり、理解が深まります。
この本の序文にはこう書かれています。
ぼくの希望としては、本書によって、まずは睡眠についての嘆かわしい現実について理解していただいたうえで、睡眠の不思議に驚いていただければと思う。
そうすると、そこから先、読者の日々のパフォーマンスをアップするヒントがたくさん見えてくる。
…嘆かわしい、しかし、面白い。結果、なぜかライフハック的に実生活に役に立つ。(p6)
睡眠の常識を知っているかどうかで、実生活は大きく変わってきます。知らなければ、不眠恐怖など睡眠の不安定さに自分が操られます。知っていれば、自分で睡眠をコントロールする方法がわかります。
この本はとてもおもしろいので、睡眠について知りたいと思う方にはぜひご一読をオススメします。
最後に、睡眠の古い迷信や新しい常識については、以下の記事も参考にしてください。JAXAの記事の方は、三島先生も研究に携わったと本書に書かれていました。(p192)
【4/1-5】睡眠に関する6つの幻想―信じていませんか?| いつも空が見えるから |
JAXAが発行する「宇宙医学に学ぶ快眠の秘訣」を読んで| いつも空が見えるから |
三島先生のもともとの連載記事は、以下の記事にまとめてあります。あわせてお読みいただけたら幸いです。
【3/11-3/18】三島和夫先生へのインタビュー第二弾| いつも空が見えるから |