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新刊「起立性調節障害がよくわかる本 朝起きられない子どもの病気」の特徴

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「起きなさい」と声をかけても起きないと、多くの親はただの寝坊だと思うでしょう。

前日の夜更かしを知っているだけに、「だから、早く寝なさいって言ったでしょう!」と怒ってしまいます。原因が病気だとは、気付きづらいものです。 (p10)

日発売された、田中英高先生の新刊、起立性調節障害がよくわかる本 朝起きられない子どもの病気 (健康ライブラリーイラスト版)を読んでみました。

「ワイドで見やすいひと目でわかる」をモットーとする健康ライブラリーイラスト版の書籍だけあって、これまでの起立性調節障害(OD)の本より格段にわかりやすいと思いました。あらゆるページが、図解で解説されています。


これはどんな本?

表紙にはこう書かれています。

朝起きられずに遅刻や欠席を繰り返す…
全国で700万人の中高生が発症している!!
症状の見極め方から治療法までがわかる決定版。

この本は、これまでも何冊か起立性調節障害(OD)についての本を書いてこられた、大阪医科大学附属病院の田中英高先生による最新書籍です。

これまでの主な著書、起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応起立性調節障害の子どもの日常生活サポートブックの焼き直しかと思いきや、そうではありません。

起立性調節障害がよくわかる本新しい情報はないのですが、植木美江さんと、千田和幸さんによる、ほぼ全ページに挿入されたイラストや、見やすいレイアウトのおかげで、まったく違う印象を受けます。

写真のように全ページが二色刷りです。フルカラーでないのは残念ですが、前著二冊の要点をすべて含んだうえで、イラストと図解入りに編集されている本、といった感じです。

各章は、それぞれ最初に典型的なケーススタディが紹介され、ポイントごとに対策がとても具体的に説明されます。

第一章「一見怠け者? しかしその実態は……」では、「朝起きられないのに夜更かしするAさん」の経験から、健康な子どもとの違いや、うつ病との違いについて書かれています。

第二章「医療機関で正体を見極める」では、「複数の医療機関で診断が異なるBさん」の経験から、内科や精神科ではなく、まず小児科にかかるように勧められています。診断の流れや治療方法もしっかり図解してあってとてもわかりやすいと思います。

第三章「家庭で子どもを見守る」では、「親に叱られて悪化してしまったCさん」の経験から、起立性調節障害(OD)の家庭でありがちな親子の意見の衝突をうまく回避し、親子一緒に病気に対処していくアドバイスが書かれています。

事あるごとにガミガミ言う代わりに、あらかじめ家庭内のルールを話し合っておく、朝起こすときはどうすればいいか、学校関係者とどう接すれば、子供だけでなく親自身のストレスも減らせるか、といった実践的な内容になっています。

第四章「学校を過ごしやすい環境にする」では、「無理に授業に出席して不登校になったDさん」の経験から、教師の視点からODをどうとらえればよいかが説明してあり、「教師へ」というページが4見開き(p76-83)用意してあるので、先生に読んでもらうといいかもしれません。

それぞれ、「本人は行きたくても行けないことを理解する」「保護者への批判はせず、負担を少なくする」「体調が悪くなったら横になれる環境に」「了解を得たうえで生徒たちに説明する」「子どもの希望に合わせて選択肢を示す」といった内容です。

第五章「自立して生活するために」では、「大学生で再発したが、就職や結婚も乗り越えたEさん」の経験から、子ども自身が、体調を自己管理して大学へ、社会へ出て行くための心構えについて書かれています。

ODのために思春期を棒に振ったかのように感じるとしても、辛い経験を乗り越えて幸福な人生を送ることは可能だ、という励みになる内容になっています。

▼起立性調節障害(OD)とは?

起立性調節障害は、「体の機能を調節する自律神経の病気」です。夜は交感神経が興奮して眠れず、朝は副交感神経優位のため起きられなくなり、生活習慣の乱れ、と勘違いする親と、理解してほしい子どもの衝突を引き起こしかねません。(p16,40)

時間、季節、天気によって血圧が変動するので、午前中は調子が悪いのに午後になればよくなる、雨の日は調子が悪いのに、晴れの日はそうでもない、春から夏は調子が特に悪いのに、秋から冬、晴れの日は割りと元気になる、といった症状のばらつきが生じます。(p19)

そのため、怠けや心の問題と誤解され、先生から怒られたり、友だちからからかわれたりすることもあります。先生から目をつけられたり、いじめのターゲットにされたりして、ストレスがたまり、不登校になってしまうこともあります。(p22)

起立性調節障害については、以前に以下の記事で詳しく解説していますので、よろしければご覧ください。

朝起きられないもう一つの病気「起立性調節障害(OD)」にどう対処するか(上)朝起きられないもう一つの病気「起立性調節障害(OD)」にどう対処するか(上)はてなブックマーク - 朝起きられないもう一つの病気「起立性調節障害(OD)」にどう対処するか(上)

起立性調節障害の一番分かりやすい

わたしが読んだ限りでは、全ページ、図解&イラスト入りのこの本は、起立性調節障害(OD)という病気について理解するのにベストだと思います。

もっと具体的な実例を知りたくなったら、患者家族の目線から闘病の記録がしっかり書いてある、朝起きられない子の意外な病気 - 「起立性調節障害」患者家族の体験から (中公新書ラクレ)がお勧めです。個人的には一番共感できた本です。

そして、もし学校にいくこと自体が不可能な、完全な不登校の状態になってしまったら、不登校そのものについての専門書不登校外来―眠育から不登校病態を理解するが役立ちます。

起立性調節障害(OD)という自律神経症状は、体のアラーム(危険信号)であり、本格的な不登校病態の前段階です。引きこもりになって、自律神経症状が消失する段階にまでなってしまうと、さらに重い病気、慢性疲労症候群として治療することになるかもしれません。

慢性疲労症候群について詳しくは小児慢性疲労症候群(CCFS)と起立性調節障害(OD)ー何が違うか(上)をご覧ください。

起立性調節障害は多くの場合、思春期に自然に生じる一過性のものですが、慢性疲労症候群は、慢性的な睡眠欠乏状態があり、次に生体リズム混乱を伴う長時間睡眠(10時間)が起こる経過が重要です。

朝起きるのが辛いなら ODと診断されたら 本格的な不登校になってしまったら

 これらの三冊に共通している特徴は、不登校につながる子どもの不調を、しっかり医学的な観点から調査し、解決策を提示していることです。

世の中には、教師やカウンセラーによる不登校対策の本があふれていますが、多くの場合、精神論だけでは役に立ちません。心身ともに元気な不登校はありえないのです。

起立性調節障害がよくわかる本 朝起きられない子どもの病気 (健康ライブラリーイラスト版)の特徴は、分かりやすいイラストなので、ここで文章を書き連ねたところで、魅力が伝わらないと思います。ぜひ実際に読んでほしい書籍です。

子どもが朝起きられない、午前中調子が悪い、めまいや立ちくらみがする、といったときには、一冊目として、子どもがすでにODと分かったなら、理解を深めるための本として、手に取る価値が十分にある良書です。


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