子どもの慢性疲労(小児慢性疲労症候群=CCFS)を扱った、2012年12月11日放送の医学講座を見つけました。ラジオNIKKEIのサイトで、自由に聴くことができます。福井大学医学部子どものこころの発達研究センターの友田明美教授によるものです。
内容は、子どもの慢性疲労症候群の国内外の報告、診断基準の制定に関する経緯、CCFSの検査から分かった異常についてです。海外のデータや、サイトカイン産生異常については知らないこともいろいろありました。
成人の慢性疲労症候群については、昨年2014年8月28日に放送された、日本大学医学部附属板橋病院心療内科部長 村上正人先生による慢性疲労症候群の診断と治療がありました。
聞き取った内容を以下に載せていますが、ところどころ省いています。聞き取りなので、正確でない部分もあるかもしれません。
18歳以下の子どもの慢性疲労症候群
小児の疲労に関する訴えは、日常生活の場や学校の保健室で頻繁に遭遇するが、器質的異常のない場合は気のせい、精神的なものとして適切な対応が取られない。その結果、さまざまな心理的ストレスで症状が増悪し、難治化、長期化することもある。
子どもたちが慢性疲労を訴える場合、成人の慢性疲労症候群(CFS)の診断基準を満たす場合が少なからずあることがわかってきた。
1985年には、アメリカで群発の202例が報告され、そのうち65例、33%が18歳以下の子どもだった。日本でも1993年に熊本大学の三池先生たちが、不登校児の中にCDCによる慢性疲労症候群診断基準を満たすものが数多く存在し、不登校状態と小児型の慢性疲労症候群の関係を報告した。
最近の研究によるとイギリスの小児型慢性疲労症候群のうち、毎日登校できるのは11%程度で、62%は規定された全登校日数の40%以下しか登校できておらず、うち28%はまったく登校できていないという。平均年齢は14.6歳だった。
友田先生の大学病院でも、不登校を主訴に外来受診した平均13.3歳の84%が小児型慢性疲労症候群の診断基準を満たし、56%は中等度以上の重症度を示していた。
小児型慢性疲労症候群(CCFS)の制定
日本のCCFSの診断基準は2004年厚生労働科研費研究班で診断基準と疲労の程度を評価する指標が制定された。これはCDCの成人型慢性疲労症候群の診断基準をもとに研究範囲の外来患者の統計データを集計して作成された。
小児期発症のCFSを成人型と区別する意味でCCFSと呼ぶことにした。その症状の程度は成人CFSの病態で制定されたものを小児の病態に合わせて改定した。
これらの制定は軽症期に確実に診断し、早期に対応することで、ひきこもりに至る重症の慢性疲労症候群に陥ることを未然に防ぐことを目標としており、診断に至る期間を30日とした。また大基準を満たすが小基準を満たさない症例を慢性疲労症候群疑診と位置づけたのが特徴。
さらに2005年、国際慢性疲労学会で、小児型慢性疲労症候群に関する討議が始まり、2006年に、国際診断基準案が出された。翌年に承認され、国際的に同一の診断基準が、臨床・研究に用いられることになった。この診断基準も早期診断、早期治療の観点から、診断に至る期間を三ヶ月間に制定してある。
CCFSはさまざまな環境要因、身体的・精神的・物理的・化学的・生物学的なストレスと遺伝的要素、たとえばストレス感受性、ストレス抵抗性が背景となり、神経、内分泌、免疫系が相関して変調を引き起こすというホメオスタシスの低下現象によって引き起こされる。さまざまな検査でも脳機能異常が確認されている。
本人の将来、家族の将来に大きな影響を与え、一部は社会的ひきこもりにつながる。
CCFSのさまざまな機能検査
(1)視床関連電位
脳波を用いた検査。CCFS児を3タイプに分類できる。刺激を与えたときのP300潜時脳波が延長するタイプ1、刺激がなくても(ノンターゲット)、脳波が高い数値を示すタイプ2、健常児童と同様のタイプ3がある。
(2)認知機能検査
さまざまな刺激が脳でどのように捉えられているか。特に注意機能に問題があることがわかる。
(3)自律神経機能検査
心電図やパワースペクトル解析。疲労を訴える子どもの症状は疲れやすい、頭痛、めまい、肩こり、足がだるいなどの自律神経失調症状であり、ほとんどの患児に共通している。簡単な抹消の自律神経機能検査、たとえば皮膚の毛細血管血流測定や、血管運動反応の動き、発汗試験などで測定できる。いくつかの検査を組み合わせて行うと、9割以上で何らかの自律神経機能の異常が見つかる。
心電図R-R感覚測定では、副交感神経構成成分である高周波成分が対照群に比べてCCFS児では有意に低い。心拍のゆらぎがなくなって、自律神経の相互のバランスが崩れている。
(4)前頭葉機能検査
前頭葉ワーキングメモリを評価するかな拾いテストでは、見落としが多く、内容の理解度が低くなる。前頭葉ワーキングメモリが低下している。
(5)脳血流、脳代謝検査
スペクトやキセノンCTで左右前頭葉、後頭葉の皮質領域、左視床での血流低下、側頭葉での血流差がわかった。MRSで前頭葉のコリン蓄積もわかり高次脳機能の異常が示唆される。
(6)抹消血流中のサイトカイン産生
成人のCFSでは、ウイルス感染や再活性により引き起こされるさまざまなサイトカイン産生が報告されている。CCFS児でも血清、メッセンジャーRNAレベルで、抗炎症サイトカインであるTGF-β1が低値で、その産生能も低下していた。TGF-βはおもに免疫抑制的に作用し、TGF-β1は特にリンパ球、P細胞やB細胞の増殖分化を抑制し、ナチュラルキラー細胞活性を抑制する。長期のストレスにさらされていることで免疫異常、特にナチュラルキラー活性低下、自己抗体の産生、サイトカイン産生異常などが起こっている。
(7)糖代謝、脂質代謝の異常
血糖値が高く、糖尿病の患者によく似たパターンで、血糖曲線が変則的、低血糖状態になる者もいた。食後の不快感や低血糖発作を引き起こすデナベーションスーパーセンシビリティ(聞き取りが正確でなさそう?)の状態を示している。
(8)睡眠覚醒リズム
アクティグラフによると、睡眠相後退症候群が最も多く見られ、次に非24時間型も散見された。一日の総睡眠時間は健常児より長く、活動量は特に昼間に低下していた。
治療は、軽症の時期には睡眠覚醒リズムの是正を行う。いったん生活リズムが後退したまま固定すると治療は困難で、難治例では、カウンセリングや睡眠治療も含めたさまざまなアプローチが必要。併存する精神的な問題の治療も必要。過度の登校刺激は行うべきではない。認知行動療法、家族療法も有効。
CCFSを発症しやすい小学生高学年や中学生よりも若年の子どもたちに、疲労回復の原点である睡眠覚醒リズムの形成を促し、脳疲労の回復機構を維持することにより、慢性疲労に陥るのを予防することが重要。