がんの寛解や、難病が急に好転するといった現象は、医師に引き起こせるものではありません。患者が自分の力で起こすしかないのです。
病にかかっている人は自分の内面を探求する方法を身につけるべきです。自分の心の状態をはっきりと認識する、それが自分を変えるための第一歩だからです。(p67)
これは、ケリー・ターナー博士のベストセラー、 がんが自然に治る生き方――余命宣告から「劇的な寛解」に至った人たちが実践している9つのことという本に載せられている、中国伝統医学の治療家、ブライアン・マクマホンの言葉です。
難病から回復するためには、患者が抜本的に人生を変えなければならない、と説明するこの本の主旨をうまく言い表しています。
ケリー・ターナー博士は、現代医学に見放された患者が、がんから劇的な回復を遂げた1000の論文を研究し、彼らは共通して、生活をガラリと変え、9つの習慣を実践していたことを発見しました。
Web上の著者インタビューによれば、この方法により、慢性疲労症候群も治った事例があるそうです。またこの本には、化学物質過敏症のため、抗がん剤治療などができない人にも役立つことが記されています。
非常に興味を持ったので、さっそく読んで、内容を整理してみました。
これはどんな本?
この本の著者、ケリー・ターナー博士は、医師でも患者でもありません。しかし、がん病棟のカウンセラーとして働いていたときに、がんの劇的寛解と出会い、興味を持ちました。(p367)
がんの劇的な寛解、つまり西洋医学で見放された患者が回復することは、しばしば生じている現実の現象です。しかし彼らは、西洋医学の医者からは、がんが「自然退縮」した事例とみなされ、何の関心も示されていませんでした。
ところが、それら「自然退縮」の事例を研究していくうちに、ケリー・ターナー博士は、医師たちの重大な見落としに気づきます。
劇的な回復を遂げた患者たちは、何もしていないわけではなかったのです。
むしろ、1000件の論文、100名のインタビューを通して、彼らが、西洋医学では異端、非科学的と一笑に付されることも含めて、合計75項目の点で、治療のための努力をしていたことが明らかになりました。
そして、そのうち上位9項目は、劇的回復した患者のほぼすべてに共通していたのです。
ケリー・ターナー博士は、それら9項目が、がん治療に役立つと実証されたわけではなく、仮説に過ぎないと認めています。あくまで、医学が治療薬を見出すまでのつなぎだと述べています。(p16,364)
しかし、この本は、どの項目にも、豊かな実例と、関連する科学的裏付けをふんだんに盛り込んであります。統計と質的分析によって見出された、現時点での信ぴょう性の高い治療法のエッセンスといって差し支えないでしょう。
この本で取り上げられている9つのポイントは、Web上のインタビューで公開されており、その中で、慢性疲労症候群も治った人がいる、という情報も明らかにされています。西洋医学では治療の見込みがない難病の治療に役立つのです。
本書の訳者も、この本の内容はがん患者以外にも役立つとして、こう述べています。
命の危機という究極の困難から立ち上がってきた人の心の持ち方は、誰にとっても、耳を傾ける価値があるだろう。(p379)
劇的回復を遂げた人の9つの習慣
9つの習慣は、Web上でも公開されているので、知っている人も多いと思いますが、それぞれ抽象的なので、リストとして見ただけでは理解しにくいようにも思います。
それで、9項目それぞれについて、概要や印象に残った点を説明したいと思います。
ケリー・ターナー博士は、がんが治った人の習慣というと、たとえば「サメ軟骨を摂る」のような、サプリや健康食品や治療法が上位に来ると思っていたそうです。
ところが、意外なことに、9項目のうち7項目までが、心の在り方に関わることだったのです。(p175)
1.抜本的に食事を変える
最初の一つ目は、食事を変えることです。それも、かなり大規模に変化させます。
がんの食事療法というと、マクロビオティックや、ゲルソン療法などが有名で、この本にも出てきます。しかし、特にどの食事療法がいいと勧められているわけではありません。
ケリー・ターナー博士が統計から導き出した答えは、次の4つでした。(p22)
■砂糖、肉、乳製品、精製した食品をやめる
■果物と野菜を増やす
■有機食品を選ぶ
■浄水器の水を飲む
どれも論争がある点であり、中には肉はできるだけ食べるように、と言う人もいます。しかしとりわけがんとの関係で言えば、肉は食べないほうがいいという研究があるそうで、この結果に落ち着いています。
化学物質、農薬、添加物についても、有害か無害かの論争は続いていますが、がんからの劇的回復を遂げた人たちは、危険は避ける選択をしていたそうです。
そのほか、断食に関しても内蔵の浄化や免疫細胞の活性化に効くと言われています。甲田療法を取り上げていたこのブログとしては興味深い内容です。(p37)
食事療法はたいへん辛いものですが、ある患者は次のように述べています。
嫌いだよ。食べたいものを食べられないなんて。昔は友だちとよくパーティーをしていたのに、もうできないんだ。毎日、毎日、こんなものを食べるなんてつまらないよ。
ただね、僕はいつもドクロの指輪をしているんだ。もしこの規律を破れば、いつ死んでもおかしくないことを忘れないためにね。(p55)
食事療法はそれくらいの強い覚悟を持って臨む必要があるのです。
2.治療法は自分で決める
2つ目は医師の言いなりにならないということです。がんの劇的寛解者は、「よい患者」であることをやめ、自分で治療法を探した人たちだったといいます。
がんにかかりやすい人は、受け身で主張せず、他人の顔色をうかがうという「C型性格」の人が多いことがわかっているそうです。劇的回復を遂げた人たちも最初はそうでしたが、ある時点でその生き方をやめました。(p74)\
3.直感に従う
3番目は直感を信じるということです。実際は危険なものであっても、科学者や医者は安全だ、と言い張ることがあります。たとえば、1950年代は、医師がタバコの宣伝をしていました。
今日では、ある種の化学物質や電磁波、添加物などについて同じことが言えます。一般に無害と言われていても、直感的に危険だと感じるなら避けたほうがいいかもしれません。
ケリー・ターナー博士は、がんの治療法には、たった一つの決定的なものがあるわけではないといいます。治療法は一人ひとり違うので、直感に従って必要なものを探す必要があるのです。(p107)
ある患者はこう述べています。
がんを克服した著者の本の中に、こんな一節がありました。「がんと静かに向き合って、がんに聞いてみたらいい。どういう理由で君はやってきて、どうやったら去っていくのかな、と」。
さっそくわたしも聞いてみたんです。「どうして来たの」って。わたしは運動もしていたし、食べ物には有機食材を選んできました。
…返ってきた答えは衝撃的なものでした。「だってあなたは人生を楽しんでこなかったでしょ。いつも、膨大な『仕事のリスト』に振り回されて。人生の喜びなんて、あった?」(p108)
わたしたちも、自分自身の場合について、洞察を働かせる必要があります。
4.ハーブとサプリメントの力を借りる
4番目はハーブとサプリメントを利用するということです。
現代の工業化された農業では、化学肥料が使われているため、作物の微量ミネラルが含まれていません。
長距離輸送に備えて、熟す前に収穫されるので、ビタミンも減っています。研究によると、50年前に比べて、ビタミン・ミネラルともに40%も減っているそうです。(p152)
そのため、サプリメントやハーブによって栄養素を補う必要があると言われています。この章では、特定のサプリメントの名前や、プレバイオティクス、プロバイオティクスなども挙げられています。
ただし、食生活を改善せず、サプリメントだけを服用するのは、家の家事を水鉄砲で消化するようなものだ、という警鐘も鳴らされています。(p148)
またがんや自己免疫性疾患の原因は細菌やウイルスにあり、その排出にサプリメントを用いるという日本の西原克成博士の見解も引用されています。
このブログでは副腎疲労のサプリメントの記事が役立つかもしれません。
5.抑圧された感情を解き放つ
5番目はネガティブな感情の処理についてです。
精神神経免疫学の登場により、こころと体は別のものだ、と考えられていた「心身二元論」の偽りが証明された、ということは、このブログでも取り上げてきました。
はるか昔にプラトンがこう述べていたとおりです。
医療の犯した最大の過ちは、身体を診る医者と心を診る医者を分けてしまったことだ。身体と心は分けられないのに。(p282)
抑圧された感情が身体に害を及ぼすことを示す研究として、抗がん剤のノセボ効果に関するものがあります。
ある新しい抗がん剤の試験で、抗がん剤だと言われて、偽薬を点滴されていたグループは、なんと30%(40人)もの人が、髪の毛が抜けてしまったそうです。抗がん剤に対する恐れに、身体が反応してしまったのです。
また、もともと恐れを感じやすい人がストレスを受けたとき、血液を調べてみると、ナチュラルキラー細胞がまったく無くなっていたという研究もあります。(p188)
抑圧された感情は、免疫系を弱らせ、病気を悪化させてしまうのです。
6.より前向きに生きる
6番目は、5番目の逆、つまり、ポジティブな感情をいかにして感じるかということです。
ノーマン・カズンズはその著書「笑いと治癒力」で、ユーモアが病気に効くことを説明しました。
がんから劇的回復を遂げた人たちは、死と隣り合わせの、非常に困難な状況のもとでも、日々幸せを感じるよう努めたといいます。
これは、うわべだけのポジティブを装ったわけではありません。そうではなく、たった5分でもいいので、幸せを探し、実感することを習慣づけたのです。(p224)
ある患者はこのように述べています。
わたしは娘に言いました。「これから毎日、必ず笑うって約束しよう」。娘は「それって、毎日遊ぶ約束をするってこと?」。
「そうよ。お母さんと笑いごっこをしてほしいの。今日から毎日、必ず二人で笑わせ合うのよ」。(p228)
…(中略)…
わたしたちの姿を見た人たちは、「すごいわ、あなたとお嬢さんはとっても幸せそう。がんの治療で身体は辛いはずなのに、見て、この様子。二人で踊って乗り越えてるわ」という感じになります。(p229)
劇的回復を遂げた人たちは、幸福でない状況で、幸福を作るよう努めたのです。
この点は、以下の記事も参照してください。
7.周囲の人の支えを受け入れる
人とのつながりが健康にもたらす影響は、運動やダイエット、飲酒や喫煙の習慣より大きいという研究があるそうです。
つまり、健康的な習慣を実践している孤独な人より、不健康な習慣にひたっている社交的な人のほうが長生きしたりするのです。(p254)
その点は、以前、ポジティブ心理学についてブログで取り上げたときにも説明しました。人とのつながりは、幸福の必須条件なのです。
治療期間中に周囲からのサポートを増やすことのできた乳がん患者の死亡率は70%も低くなったそうです。(p255)
病気と闘うには、家族、配偶者、患者グループ、コミュニティやサークルの仲間の助けを受け入れることが必ず必要なのです。
8.自分の魂と深くつながる
この章の内容は、信仰や霊性に関わることなので、抵抗のある人は読みにくく思うかもしれません。著者もそのことを認めていますが、「霊」や「魂」に抵抗があるなら、「深く」「安らかな」という言葉に置き換えて読むよう勧めています(p283)
この章では、「神様のジョン」というブラジルのトランス治療師の話が出てきます。具体的に描写されていますが、著者は最後に、あくまで例として挙げただけで、治療のためにブラジルに行く必要はないと断言しています。
むしろ、外を歩いて黙想する時間をとったり、祈りの習慣を作ったりするという、簡単なことを勧めています。ただし、理論ではなく、実践ベースの活動を重視するよう忠告しています。(p324)
9.「どうしても生きたい理由」を持つ
多くの人は、がんや難病になると、「死にたくない」と感じるといいます。「死の恐怖」です。
ところが、がんから劇的に回復した人たちは、その全く反対の「どうしても生きたい」という思いを持っていました。「生への渇望」です。彼らは死ぬのはまったく怖くないとさえ思っていました。(p329)
これは、病気と闘う意欲とは違います。「死にたくない」という人も、病気と闘う意欲はもっているかもしれません。しかし闘争精神は、むしろ身体を興奮させ、弱らせ、がんに弱くしてしまいます。(p339)
「どうしても生きたい」と考えている人は、何かと闘おうとはしていません。むしろ、がんは自分の病んだ子どもみたいなものだ、と考えて、がんに愛を送った人もいました。(p85、218)
「どうしても生きたい」理由を持つ人たちは、人生の喜びに目を向けているので、「闘争・逃避反応」はオフに、「休息・修復反応」はオンになるといいます。オキシトシン、エンドルフィンなど安らぎのホルモンが出ます。(p340)
(10.体力がついてきたら運動する)
もうひとつ、リストに含められていないものとして運動があります。もちろん運動は大切で、10項目めとすることもできたそうです。
しかし、がんからの劇的回復を遂げた人たちは、最初は体調が悪すぎて運動などできませんでした。この9項目を実践した後に、はじめて運動ができるようになりました。
それで、「あまりに衰弱していて運動なんかできない」という状態の人にも、治療の道はあるということを示すために、あえて含めなかったそうです。
慢性疲労症候群の患者の中にも、運動なんてできないと感じる人は多いと思いますが、それほど衰弱していても回復の可能性があるという点は励みになります。
難病からの劇的回復は夢ではない
この本は、劇的回復を遂げた人の、なまの経験をそのまま伝えることを意識しているため、常識から考えて、受け入れがたく感じる経験がたくさん出てきます。
怪しい代替治療の経験談や、エネルギー治療、スピリチュアルな話など、敬遠する人には、読んでいて首をかしげる部分も多いかもしれません。
しかしあくまでも著者は、それらの治療そのものに効果があったと述べるのではなく、一貫して、それらの治療に臨んだ心の状態に効果があったと述べている点を見落とすべきではありません。
またがんや難病の治療において、これらの9つの習慣を身につけたら、必ず治るというわけでもないでしょう。たとえば、小児がんの患者はもっと遺伝的な要因が強く、環境や心の在り方を変えても、治癒は難しいかもしれません。
それでも、これらの9つの習慣は、難病を治したいと考える人にとって、ぜひトライしてみる価値があるといえます。
この記事では、それぞれの項目を簡単に解説しましたが、本書は400ページ近い本です。それぞれの項目はここで紹介した量とは比較にならないほど詳しく解説されています。ひとつでも興味を持った点があれば、実際にこの本を読んでください。
それぞれの章の終わりには、すぐに実践できることを箇条書きしたリストも掲載されています。ぜひ取り組んでみるといいでしょう。
興味深い点として、この本には、化学物質過敏症(CS)の経験談が2例出てきます。どちらも、化学物質過敏症のため、標準の医療を受けられませんでしたが、代替医療で回復できました。(pp78,149)
化学物質過敏症のため、抗がん剤などの治療ができないという人にとっても、朗報となる本でしょう。
わたし自身について言えば、9項目のうち、8項目は、わりと実践していると思いました。でも、劇的回復を遂げた人ほど、努力してはいないかもしれません。
その理由は、最後の9番目の項目、「どうしても生きたい理由を持つ」が実践できていないことにあります。
この最後の項目は、それ以外の8項目すべてを徹底する動機づけになるものですが、わたしはそれが弱いのです。
わたしはあまり生きている実感がありませんし、大きな夢も思いつきません。いつ死んでもいいかなー、と思うくらい、これまでの人生に満足してしまっています。
この本のアドバイスに従って、生きる喜びや、やりたいことのリストを書き出すことが必要そうです。
この本の意義は、これまでいろいろなところに散乱していた、がんが治った人の体験談を科学的に分析し、まとめあげたところにあると思います。
いわば、難病と闘う地図、方向性を示すコンパスのような本でしょう。この本を参考にしながら荒れ狂う海を見渡し、進むべき道を見つけることが、治療への第一歩となるのではないでしょうか。