理化学研究所のマウスを使った実験で、過去の楽しかった記憶を活性化することでうつ状態を緩和できることが示されました。
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Nature ハイライト:快い記憶はうつ様行動を抑える | Nature | Nature Publishing Group
楽しい体験の記憶は、海馬歯状回の神経細胞の活動によって保存されることがわかっています。
うつ病になると、過去の楽しい体験を正しく思い出せなくなるので、それらの海馬の神経細胞を直接活性化することで、症状を改善できないか、と考えたそうです。
うつ病では楽しかったことも楽しかったと思えなくなる一方、回復するとそうした体験も思い出せることから、発病している間は楽しい記憶を楽しいものとして想起できなくなっている可能性があるそうです。
今回の研究は以下のような手順で行われました。
■楽しい記憶を作る
オスのマウスにメスのマウスと一緒に過ごすという楽しい体験をさせ、その時に活動した海馬の歯状回の神経細胞を特定。
それらの神経細胞で、チャネルロドプシン2(ChR2)と呼ばれる、光をあてると神経活動を活性化させることができる特殊なタンパク質を作りました。
■うつ状態にする
次に、そのオスのマウスに体を固定する慢性ストレスを与えて、うつ状態にします。「嫌な刺激を回避する行動が減る」「本来なら好む甘い砂糖水を好まなくなる」といった症状が表れました。
■光を当てて記憶を活性化
このうつ状態になったマウスに対し、楽しい体験の記憶のある海馬歯状回の神経細胞群に光をあてて活性化するとうつ状態の改善がみられました。
最初は光を当てているときだけ行動が改善されましたが、慢性的に光を当てると、それが終わっても行動の改善は続いたそうです。
このうつ状態の改善は、海馬歯状回から扁桃体や側坐核へとつながる回路の活動によるものであることがわかりました。
扁桃体は「恐怖」「喜び」といった情動の記憶に関わる領域であり、側坐核はやる気や意欲、さらに報酬をもらった時に感じる喜びなどと関連する領域だと考えられています。このことから楽しい記憶が実際に活性化されたと推測されました
今回の研究を主導した利根川進センター長はこう述べています。
今回の研究では、楽しい体験の際に活動した神経細胞群を直接活性化することで、マウスのうつ状態が改善することを初めて示しました。この成果は今後のうつ病の新しい治療法開発に役立つかもしれません。
楽しかった出来事の時に働いた細胞群を特定したり、それを光ファイバーで活性化させたりと、どれもなかなか人間には応用するのが難しそうな研究です。
しかし人為的に過去の記憶の想起の仕方などを調整できるようになるとすれば、興味深いなと思いました。
うつ病の対策として、3つの良かったことエクササイズが効果を上げているのは、この実験と同じようなことを、手軽にやっている可能性が高いのではないでしょうか。