うつ病と睡眠障害の関係についてのニュースがふたつありました。うつ病と関係する脳の領域「外側手綱核」が興奮すると、睡眠のバランスも崩れるということ、また、うつ病では生体リズムの混乱がさまざまな症状をもたらしているということが書かれています。
外側手綱核の過剰な活性化が不眠をもたらす
まず、日本に理化学研究所の研究では、「外側手綱核の過剰な活性化が、セロトニン神経系を過度に抑制し、うつ病の症状を悪化させる」という仮説について書かれています。
うつ病の患者の多くは不眠になりますが、それは「レム睡眠が強固に安定化し、入眠後より短時間でレム睡眠が出現したり、レム睡眠中の急速な眼球運動が増加したりする傾向」があるためだそうです。つまり深いノンレム睡眠がなくなり睡眠時間が減ります。
これまで、うつ病の不眠については、例えば次のような説明が試みられていました。
第12回 寝過ぎもダメ!なこれだけの理由 | ナショナル ジオグラフィック(NATIONAL GEOGRAPHIC) 日本版公式サイト
基本的には長く眠りすぎると抑うつ、断眠(徹夜)は気分をもちあげる効果があるんです。特に深い眠り、徐波睡眠をとり過ぎると、うつ傾向が強くなるといわれています。
うつ病のときに睡眠時間が短くなったり、深い眠りが減るのは、自己調節して治癒しようとしているという考え方をする学者もいるくらいです。深い眠りを減らして、気を晴らそうとしている、と
しかし、fMRIによって、うつ病患者の脳を調べると、外側手綱核という領域の血流量が異常に増加して、神経活動が活性化していることがわかってきました。
外側手綱核は、セロトニンの分泌に関わっていると考えられていましたが、今回の研究では、レム睡眠のコントロールも担っていることがわかったそうです。外側手綱核の過剰な活性化が、気分の落ち込みと特徴的な不眠の両方に関わっているのかもしれません。
研究は次のようにまとめられています。
うつ病関連物質セロトニンを制御する外側手綱核は睡眠調節も担う | 理化学研究所
今回、セロトニン制御中枢として知られてきた外側手綱核が、睡眠制御という新たな機能を持つことを示しました。
これは、うつ病関連物質であるセロトニンと睡眠との関係を明らかにする手がかりとなります。
また、外側手綱核の過剰活性化が、うつ病患者に見られるレム睡眠の強固な安定性の原因である可能性が出てきました。
以前のエントリでは、うつ病のメカニズムには、扁桃体の機能低下と、背外側前頭前野や帯状回膝下野の機能異常が関わっているという説を紹介しました。さらに外側手綱核も関連しているということでしょうか。
わたしは専門家ではないので脳の各領域のつながりはわかりませんが、うつ病の脳機能異常のポイントが特定されつつあるのかもしれません。
逆に、慢性疲労症候群(CFS)では過眠が多く、ノンレム睡眠に異常があるという点は、両者が異なる脳機能異常であることを示唆しているように思います。
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1日の遺伝子の発現パターンがバラバラになっている
また、米国・ミシガン大学のJun Li博士によると、うつ病の患者では、1日の遺伝子の活動パターンがバラバラになっていることがわかったそうです。
うつ病の原因は“体内時計の故障”にあることが判明:米研究 - IRORIO(イロリオ)
Li博士は、うつ病とそうでない人の脳の比較をおこなった。
すると、健康な人の脳内では1日の遺伝子の活動パターンが明確に決まっているのに対し、重度のうつ病患者の場合はぐちゃぐちゃで、日中の活動パターンが夜型になるなど、昼夜逆転現象が見られるという。
それはまるで”異なるタイムゾーンにいる”かのような状態だそうだ
体内時計のリズムの混乱が全身のさまざまな症状をもたらすことは以前のエントリでも書きました。この研究では、体内時計の故障がうつ病の原因なのか、それともその逆なのかはわかりませんが、うつ病と生体リズム混乱が深く関わっていることはわかります。
以前のウォール・ストリート・ジャーナルの記事で、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の精神医学教授、オーウェン・ウォルコウィッツ氏がこう述べていました。
うつ病やストレスが「老化の加速」につながる=研究/ WSJ日本版 - jp.WSJ.com - Wsj.com
知識を深めるにつれて、私たちはうつ病を『精神疾患』や、まして『脳の病気』と考えることは少なくなり、むしろ全身的な病気と考えるようなった」
慢性疲労症候群でも、時計遺伝子が刻む生体リズムの異常が、全身のさまざまな症状を引き起こしていると言われていますから、両者はある部分では共通するメカニズムをもつ病気であるように思います。
慢性疲労症候群とうつ病を合併する人もいますし、戸田克広先生が紹介しておられる海外の概念によると、両者とも中枢性過敏症候群に属するそうです。
睡眠に関するうつ病と慢性疲労症候群についての研究が進めば、両者の違いや治療法がわかってくるかもしれません。