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脳科学が明らかにした発達障害と愛着障害、その違い

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誌、小四教育技術 2015年 01月号 [雑誌]に載せられた、福井大学の友田明美先生による、発達障害と愛着障害の特集を読みました。

発達障害や愛着障害は、近年注目されることが多くなっています。他の子どもと違ったり、大人になってから周囲と馴染めなかったりすることで、もしかすると自分や子どもが、発達障害や愛着障害なのではないか、と考える人も増えてきました。

しかし本当に発達障害なのだろうか、あるいは発達障害と愛着障害のどちらなのだろうか、といったことは見分けにくく、医療の場でも混乱しているように見えます。

そんな中、この雑誌の特集の研究では、

■2歳になる前に自閉症スペクトラムの診断を下せる可能性がある

■ADHDと愛着障害では、脳の報酬系の働きが異なる

ということについて書かれていました。興味深かった部分についてメモしておきたいと思います。

顔テレビによる自閉症スペクトラム(ASD)の判断

友田先生の研究室では、福井大学医学部のある永平寺町の子どもたちを対象にAge2という研究を進めているといいます。

これは、子どもが2歳になるまでの早い段階で、発達のリスクを発見したり、早期療育を行ったりすることを目指した取り組みだそうです。

多様な研究成果があるそうですが、そのうちの、「顔テレビ」を用いた研究によると、自閉症スペクトラム(ASD)の子どもを早期に判別できる可能性があるそうです。

たとえば、人の顔に似た模様と幾何学模様を映すと、定型発達の子どもは人の顔の模様を見るのに対し、ASDの子どもは、幾何学模様を見ます。また、人が現れて指をさすと、定型発達の子どもは指が指し示す方向を見ますが、ASDの子どもはそうしません。

さらに、唾液中のオキシトシン濃度を測ると、定型発達の子どもは、指差しの方向を見るときにオキシトシン濃度が上がるという相関関係が見られますが、ASDの子どもでは、まったく相関が見られなかったそうです。

このように「顔テレビ」と「オキシトシン濃度」を組み合わせることで、自閉症スペクトラムを早期発見できるそうです。

この研究についてはこのブログでも、以前に取り上げました。

【9/30】自閉症スペクトラムはオキシトシンの機能不全?| いつも空が見えるから

愛着障害とADHDの違い

発達障害ととても良く似た症状を示す病態として、愛着障害(RAD)があります。

その多くは「他人を信用する」ことを学習できておらず、「好かれるために何をすべきか」を知らない子どもで、心理学用語でいう、愛着形成に課題を抱えた子どもです。

それらの子どもたちが示す行動異常は、ADHD、自閉症スペクトラム等、発達障害の子どもが示す症状と酷似しています。(p26)

幼少期にマルトリートメント(大人の子どもへの不適切な養育、広範な意味での児童虐待)を受けた子どもはうつ病になると、発症年齢が若く、経過が悪く、長期化、重症化し、さまざまな診断を受けるそうです。(p4)

愛着障害(RAD)は、不適切な養育環境によって生じますが、さまざまな病気の基盤になりやすいと言われています。

程度の差こそあれ、幅広く見られるとして、愛着スペクトラム障害という概念を提唱している医師もいますし、虐待によって生じる特に重度のものは、第四の発達障害として捉えるべきだと述べている医師もいます。それらの点はこのブログでも取り上げました。

長引く病気の陰にある「愛着障害 子ども時代を引きずる人々」| いつも空が見えるから
本当に脳を変えてしまう「子ども虐待という第四の発達障害」| いつも空が見えるから

どちらの場合にしても、遺伝や環境ホルモンなどの要因で生じる先天的な発達障害と見分けがつきにくく、医療分野を混乱させているようです。

今回の雑誌に載せられていた友田先生の研究によると、愛着障害の中でも、ADHDに似ているタイプ(脱抑制性愛着障害?)と、ADHDとでは、表面上の症状は似ていても、脳の活動領域が異なっているということがわかったそうです。

その実験とは、子どもたちにカードめくりをさせ、当たりが出ると、お小遣いを上げるという実験で、与えるお小遣いの量が多い場合(300円)と少ない場合(150円)とに分けてデータをとる、というものです。(p5)

定型発達の子どもでは、お小遣いの量にかかわらずドーパミンが出て、脳の血流量が増加しました。

次に、ADHDの子どもは、お小遣いの量が多くないと、ドーパミンが出ませんでした。つまり、なかなかやる気がでないようです。

最後に愛着障害の子どもでは、お小遣いの量が多くとも少なくとも、ドーパミンが出ませんでした。何を与えられてもやる気が出ないということです。

ADHDの場合には、メチルフェニデートを服薬することで、お小遣いが少なくても、脳の血流量が増加するようになったそうです。対して愛着障害の場合には、小児期の虐待により、脳脊髄液中のオキシトシン濃度が下がっていることがわかっているので、オキシトシンを投与することで、症状が改善する可能性があるそうです。(p6)

この雑誌の他の部分では、愛着障害を持つ子どもに学校で、どのように対応するかが書かれていました。複数人が母親役となり、子どもを無条件に愛するとともに、担任は父親役となり、規則を教えるのがよいそうです。(p26)

また、ペアレントトレーニング(PT)を当てはめ、良いことをすれば注目し、悪いことをした場合には相手にしないようにします。そのようにして、子どもたちとの愛着形成に努めた、山形市立第三中学校の経験談などが載せられています。詳しくは本書をご覧ください。(p27)

発達障害や愛着障害は、とても似ていて、相互に関連している場合もあると言われています。たとえば、発達の問題があるために、愛着形成が難しくなる場合などです。

とはいえ、治療を考えると、別個の問題として考えることも必要であり、脳科学の観点から両者の違いがわかったのは重要なことだと思います。

今後も、早期発見の方法や治療法の違いなどがわかってきてほしいですね。


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