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絵の描き方から分かる自閉症スペクトラムの特徴

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僕は時々、こんなに美しい世界をみんなは知らないなんてかわいそうだと思います。…たぶん、見えているものは同じでも、見えるものを受け取る力が違うような気がします。

みんなは物を見るとき、まず全体を見て部分を見ているように思います。しかし、僕たちは、最初に部分が目にとびこんできます。その後、除々に全体が分かるのです。(p80)

れは自閉症の僕が跳びはねる理由―会話のできない中学生がつづる内なる心にある自閉症の作家、東田直樹さんの言葉です。自閉症スペクトラムの人の独特な認知の仕方を言い表していると思います。

この認知の仕方は、生活のさまざまな点に影響を及ぼしますが、そのひとつは、とりわけ絵を描くことに表れます。

自閉症スペクトラムの人の中にも、絵の上手い人もいれば、そうでもない人もいます。しかしその描き方は定型発達の人とは少し違っているようです。

ここでは芸術と脳: 絵画と文学、時間と空間の脳科学 (阪大リーブル)という本に基づいて、「木を見てから森を見る」「窓やドアから描き始める」「細部を描き込む」「三次元モデル」などの特徴を解説したいと思います。

1.木を見てから森を見る

最初に挙げた東田直樹さんの言葉がすべてを物語っていますが、自閉症スペクトラムの認知の特徴の一つは、部分を見てから全体を見ることです。

これを「木を見てから森を見る」と表現することができます。例えば、定型発達の人が森の写真を見ると、まず集合体としての森が眼に飛び込んでくるはずですが、自閉症の人は、その中の一本の木という細部が、最初に眼に飛び込んでくるのです。

このことは、カナータイプの自閉症を見つけたレオ・カナーが、1943年に早くも報告しており、「構成要素の細部にわたって注意を払わずには全体を経験することができない性質」としています。

しかし決して「木を見て森を見ず」ではありません。部分にとらわれて全体が見えないわけではなく、木を見る傾向があるものの、森を見ることもできる、というのが自閉症の人の認知特性です。

たとえば有名なミュラー・リヤー錯視に引っかかりにくく、部分を見ていることは明らかですが、ネイヴォン図形の全体の形が何であるか、わからないわけではありません。

こうした部分に注目するという特徴は実験でも裏付けられています。人物が映る動画を見せておいて、そこにテロップが流れると、定型発達の人は主に人物の顔をそのまま見ているのに対し、自閉症スペクトラムの人は子どもも大人もテロップの文字に視線が集中してしまうそうです。

こうしたことは日常的にもよく起こり、自閉症スペクトラムの人は漢字博士になったり、カタログや図鑑を熟読したりするのに秀でています。細かい違いがわかるのです。

2.窓やドアから描き始める

では、このような認知特性は絵を描くときに、どんな影響をもたらすでしょうか。たやすく想像できるように、まず部分から描き始めて、全体を描くといった画法を取ります。

家を描くように、と言われたら、定型発達の人は、まず家の輪郭、つまり屋根や壁を描き、それからドアや窓を描きます。

ところが自閉症スペクトラムの人は、まず窓やドアから描き始める傾向があるそうです。(あくまで傾向なので、必ずそうなるとは限りません)

同様に、人物を描く場合でも、定型発達の人は顔や輪郭から描き始めますが、自閉症スペクトラムの人は眼などのパーツから描き始めるかもしれません。

3.細部を描き込む

このように、自閉症スペクトラムの人は、全体ではなく、部分に注目していています。その結果、細かい細部が見えているので、作品は、ときに細部を描き込んだものとなります。

たとえば、この本では、アメリカのジェシー・パーク、フランスのジルス・トレヒン、アメリカのステファン・ウィットシャイアの例が挙げられています。それぞれの作家の名前に、グーグル画像検索のリンクを貼ってあるので、作品を見てもらえたらと思います。

特にウィットシャイアの描き方は独特で、いきなり町の一部を詳細に描き始め、次いでまったく別の場所を詳細に描き込み、やがてそれらの隙間を埋めていくそうです。街並みを部分から描いたら、全体のバランスが破綻しそうですが、決してそうならないのです。

4.三次元モデル

このように、部分から描き始めても、全体が破綻しないような人は、頭のなかに鮮明な画像モデルを持っていると考えられます。

前述のウィットシャイアは、ヘリコプターから30-1時間街並みを見れば、その通りの絵を、描き始めることができるそうです。部分から描き始めて、全体が完成します。

こうしたことができるのは、頭のなかに三次元モデルを作り上げているからです。

実際に「見た対象をすぐに三次元のモデルとして構築し、頭の中で好きな方向から眺めて書く能力に恵まれた自閉症児(EC)」をモントリオール大学のモトロン教授が報告しているそうです。

認知特性のいろいろなタイプ

ここまで、自閉症によく見られる認知特性として、部分から全体を見ることや、細部に注目すること、三次元モデルを構築できることなどを挙げてきました。

とはいえ、自閉症スペクトラムにもさまざまなタイプがあることは、アスペルガーの2つのタイプ「天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロルで取り上げたとおりです。

その本によれば、自閉症スペクトラムでも、全体を見渡すことに慣れている人がいることが書かれています。もちろん、今回取り上げたように、細部にこだわったり、三次元モデルを頭の中に構築できたりすることも書かれています。

ちなみにわたしはというと、絵を描くときは普通の描き方で、窓から家を描いたり、目から人物を描いたりすることはありません。細部を描き込む観察力もないですし、頭の中に三次元モデルもないので、見本がないと立体的な絵は描けません。

とはいえ、何気なく描いているような絵の描き方だけを見ても、一人ひとりいろいろ違っていて、そこには個々の人の認知特性が現れていると思うと、とても興味深いものです。自分の描き方を振り返ってみて、認知特性を分析してみるのも面白いかもしれません。


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