先日発足した、山口大学の体内時計の専門家、明石真教授らによるボディクロック研究会が調べたところによると、小中高生の6割以上が夜型、高校3年生の8割が夜型だったそうです。
国立精神神経センターの三島和夫先生も、社会全体の睡眠不足に対して警鐘を鳴らしています
3月18日の世界睡眠デーにちなんだ記事を2つ紹介します。
睡眠時間に50分の差
調査は昨年12月、小中高生の母親936人を対象に、インターネットを介して行われたものだそうです。結果は以下のようになっています。
■高校3年生の8割が夜型
夜型の子供では、
■勉強への意欲が18.6ポイント低い
■勉強が得意な割合も18.4ポイント低い
■運動・スポーツへの意欲も10.2ポイント低い
■運動・スポーツが得意な割合も12.1ポイント低い
平日の睡眠時間は
■朝型は8時間29分
■夜型は7時間39分(50分少ない)
■中学3年以上の夜型の子供では、平日と休日の起床時間に2時間以上のズレ
これを総合して考えると、「夜型」と言われている子どもは睡眠不足症候群(BISSS)の状態にあって、概日リズムに乱れがあることがわかります。
夜型の子どもの成績が悪いのは、睡眠不足と慢性的な時差ボケによる脳機能の低下と考えられるかもしれません。
しかし別の見方もできます。
記事では、夜型の要因として、生活習慣が挙げられていますが、思春期の子どもは自然に夜型化することがわかっています。ラッセル・フォスターによると、思春期には体内時計が約2時間遅れます。ですから、単に生活習慣の問題ではありません。
夜型の子どもの成績が悪いのは、、単に始業時間が早過ぎるため、テストの時間などに脳が十分働いていない可能性もあります。
その場合、問題があるのは、夜型の子どもの生活習慣ではなく、少数派の朝型の子どもに合わせて構成された学校社会ということになります。
調査したボディクロック研究会をはじめ、子どもの早寝早起きを目指す団体はいくつもありますが、学校の始業時間を遅らせようとする団体はあまりありません。
そうした団体は夜型に対するネガティブな統計に多く触れますが、夜型には夜型なりのメリットがあることも、研究によって知られています。
そもそも夜型、朝型というのは遺伝子によってある程度決まっています。
なんでもかんでも朝型に合わせ、早寝早起きを推し進めようとするのは、朝型中心の組織を作ってきた人々の驕りとも思えます。
本当に必要なのは早寝早起きではなく、朝型にも夜型にも優しい社会環境なのです。
世界一睡眠不足の国の影響
夜型の子どもが朝型の子どもより、睡眠不足が短いのは事実です。これもまた、朝型に合わせた社会の弊害です。
同じく世界睡眠デーにちなんで書かれたもう一つの記事では、国立精神神経センターの三島和夫先生がこう述べています。
夜間に及ぶ残業、深夜勤務の増加、インターネットの普及、過剰な夜間照明などにより、生活時間が次第に夜型になっている。これに対し、朝の活動時間は変化がないため、必然的に睡眠時間が短くなってきている。
結果として、2009年のOECDの研究によると、日本の睡眠時間は、韓国に次いでワースト2位です。
(1位) 韓国…7.49
(2位) 日本…7.50
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(18位) フランス…8.50
韓国と日本はいつも競り合っていて、どちらが短いかは、調査によって変動します。不名誉にも、日本は世界一睡眠不足の国と言っても差し支えありません。
三島和夫先生は、記事の中でこう述べています。
日本人全体が慢性的な睡眠不足に陥っている。そろそろ限界に近づいていると思う。社会全体の問題として考えなければならない
記事によると、社会全体の睡眠不足は、同時に不眠症も生み出していて、睡眠不足の統計を加速させているそうです。
■寝付きが悪い
■夜中に何度も目が覚める
■朝早く目が覚め、ぐっすり眠った満足感がない
■さまざまな精神・身体症状が起き、QOL(生活の質)が低下する
■症状が週3日、3カ月以上続く
製薬会社「MSD」が昨年夏、20〜79歳の男女7827人を対象にした調査では約4割に不眠症の疑いがあった。
不眠症は一見、朝早く起きたりすることから社会の夜型とは逆の問題と思われがちですが、実際には睡眠のシステムの乱れによる表裏一体の関係にあって、睡眠時間をより短縮させるものなのかもしれません。
記事では、オレキシンに問題がある可能性が示唆されており、昨年発売されたオレキシン受容体拮抗薬ベルソムラ(スボレキサント)が取り上げられています。
睡眠不足は慢性疲労症候群のきっかけにも
まとめると
■子どもを含む社会全体の夜型化
■朝型中心の学校・会社の始業時間
の結果として、
■世界一の睡眠不足
が生じているということになります。
こうした睡眠不足の生活の結果として現れているのが、うつ病などの精神疾患や、多発性硬化症などの神経疾患であり、その一つに慢性疲労症候群も含まれているといえるでしょう。
慢性疲労症候群が睡眠不足の蓄積の結果生じる場合があることは、ナカトミファティーグクリニックの中富院長がこう述べています。
「慢性疲労症候群」の脳内に広範囲の炎症を発見!“怠け”と誤解される異常な疲れとの因果関係|男の健康|ダイヤモンド・オンライン
睡眠時間が短くなっていっても、そういう状態が習慣化され、頑張れてしまう人は少なくない。
しかし、睡眠時間は、人によって必要な長さが違う。 最近、睡眠時間が削られていく方向にあって、現代人は睡眠時間が以前よりも少ない。
そんな中で、元々、睡眠時間の長いロングスリーパーのタイプは、周りの睡眠時間が短くなってきているために、自分では寝ているつもりになっていても、実は足りていない状況がよく起きていると、中富院長は指摘する。
「脳がそのときの負荷などを回復させるには、睡眠はとても大事です。そこが障害されると、脳としては戻らないままになる。休みが取れないまま、脳がずっと動いていく状態になって疲弊して炎症が続き、簡単なことでも無理をしたように感じてしまうのだと考えられます」
この脳の炎症こそが慢性疲労症候群の正体だと書かれています。もちろん慢性疲労症候群の原因にはウイルス感染などもありますが、その背景として、睡眠不足で体が弱っている場合もあるのです。
睡眠不足と慢性疲労症候群の関係は、子どもの慢性疲労症候群についても言われていて、生活が夜型なのに、朝はやく起きなければならず、睡眠不足が蓄積して限界に達したときに発症すると言われています。
ボディクロック研究会の調査結果にあったような、思春期の子どもの夜型生活、特に慢性的な睡眠不足の状態にあり、休みの日の睡眠相がずれているようなタイプは、慢性疲労症候群の予備軍ということもできるでしょう。
三島先生、中富先生が述べているように、社会環境の構造が朝型である以上、もともと夜型だったり、ロングスリーパーだったりする子どもや大人は、睡眠不足が蓄積しがちです。
調査にあった子どものうち、特にそうした遺伝的傾向を持つ子どもは慢性疲労症候群や不登校になりやすいかもしれません。
慢性疲労症候群は一度発症すると、そう簡単には治らず、生涯元に戻らないこともあります。睡眠不足の代償としてはあまりに大きすぎるのではないでしょうか。