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親子の愛着が育まれないと動物でさえいじめっ子になる

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脳の考える部分は薄い層にすぎないが、その一方で大脳の回路の多くの領域が、愛着にかかわる心理的な活動に使われている。

「愛着脳」とも呼べるこの装置には、私たちの無意識の感情と本能が存在している。私たち人間は他の生物と同じ脳の構造をしているが、愛着のプロセスを意識する能力を持っているのは人間だけだ。(p42)

の説明は思春期の親子関係を取り戻す―子どもの心を引き寄せる「愛着脳」という本によるもので、2つの点を教えてくれます。

■人間も動物も、「愛着脳」を持っている
■人間だけが、そのプロセスを意識できる

愛着とは親子の親密な関係のことですが、もしそれが損なわれると、愛着障害という深刻な情緒的混乱を来たすことがわかっています。

それは何も、人間特有の現象ではありません。この本の著者ゴードン・ニューフェルドは2種類の動物の例を挙げて説明しています。

愛着の欠如は、動物たちにもどんな影響を及ぼすのでしょうか。動物たちの例を通して、いかに人間にとって愛着が大切かを再確認してみましょう。

 

これはどんな本?

この本は、子どもの発達の研究の第一人者として知られているバンクーバーの臨床心理学者ゴードン・ニューフェルドの子育て論を記した本です。

共著者として、ニューフェルドのところに子育ての相談に行ったことをきっかけに、その理論に共感した医師のガボール・マテがいます。ガボール・マテの本は以下の書評で取り上げました。

病気の人が習慣にしがちな偽りのポジティブ思考とは何か | いつも空が見えるから

この本の中心的な話題は「愛着」「仲間指向性」です。親との愛着が適切に結ばれず、仲間との愛着がそれにとって代わると、さまざまな問題が表出するというのが、彼の主張です。

子どもが同年代の友人とばかり付き合っていると問題が起こるので、親を含め、拡大家族のように、多種多様な年齢層の友人を持たせるべきだ、というアドバイスが提案されています。

そのうち、ほんの一部分ですが、p202から始まる第十章「いじめの加害者と犠牲者」に動物の愛着の話が出てきます。

親がいないアカゲサル

アメリカ国立衛生研究所のサルの研究では、子ザルのグループが親ザルから分離され、親がいないまま、子ザルたちだけで育てられた。

親ザルに育てられたサルと違って、これらの仲間指向性のサルの多くはいじめ行動を示し、衝動的、攻撃的、自己破壊的になった。(p204)

この研究は有名のものであるのか、愛着関係の本でたびたび目にします。

メリーランド州国立小児保険発達研究所の霊長類学者スティーブン・スオミによる研究で、若いアカゲザルの行動に及ぼす養育環境の研究を行ったものです。

親がいない状態で、孤児として育ったサルたちは、衝動的、攻撃的、自己破壊的になったと書かれています。

これは、愛着障害を抱えた人間の子どもが、ADHDや反抗挑戦性障害、反社会性パーソナリティ障害と診断されるのとよく似ていることがわかります。

そのようなサルたちは「仲間指向性」になったとありますが、愛着障害を抱える子どもたちも、仲間同士で集まり、不良集団を形成することがよくあります。

親がいないアカゲザルに関する研究は、ほかにも多く報告されていて、いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳には、次のような例が載せられています。

ひとつ目は、親子の愛着が育まれなかったアカゲザルでは、脳梁が小さくなっていたという研究です。

幼い頃の経験が脳梁の発達に影響を及ぼすという結果は、エモリー大学のSanchez(サンチェス)によるアカゲザルの研究でも確認されている。

生後2~12ヶ月のアカゲザルを親や集団から離して育てられた群とそうでない対照群の頭部MRIの容積を比較すると、全体の脳の容積は両群で差がなかったが、親や集団から離して育てられた群の脳梁の後ろ部分のサイズが著しく小さくなっていた。しかも脳梁の容積と認知力(認識能力)は正の相関があった。(p66)

もう一つは、ウィスコンシン大学のハーロウによる非常に有名な研究です。

Haelowは、ぬいぐるみの“母”に育てられた子ザルと、本当の母ザルに育てられた子ザルを比較してみると、ぬいぐるみを母として育ったサルは、社会的に異常な行動をとり、成体になるとひどく攻撃的になるというストーリーはあまりにも有名である。(p67)

こうした研究をみると分かるように、親子の愛着が損なわれると、子どもの「愛着脳」の機能がうまく発達せず、社会的に異常な状態で育つようになるのです。

ここまでは、人間とよく似たサルの場合について引用してきましたが、何も「愛着脳」を持つ動物はサルだけではありません。次に挙げるのはゾウの場合です。

ゾウのギャングたち

南アフリカの野生生物保護区で、公園管理官たちは珍しい白いサイが虐殺されたのを見つけた。当初は密猟が疑われたが、その後、若いはぐれゾウの集団の仕業であることが明らかになった。(p204)

この話は、非常に興味を呼び、60ミニッツというテレビ番組で紹介されたそうです。

その番組のウェブサイトには、このように説明されています。

この物語の始まりは、公園がゾウの増加に耐えられなくなった10年前にさかのぼる。公園管理者は、親を必要としないところまで成長した子ゾウを持つ親ゾウを殺すことを決めた。それが実行され、若いゾウは父親なしで育っていった。

時が過ぎ、これらの若いゾウたちはギャングのように群れになって歩きまわり、ふつうのゾウがしないことをするようになった。彼らはサイに木の枝や水を投げつけ、近所のいじめっ子のような振る舞いをし始めた。

何頭かのゾウは特に狂暴で、サイを押し倒して足や膝で踏みつけ、ついには圧死させた。(p205)

この話から、親のいないゾウは、愛着が育まれないことにより、反社会的な行動や、攻撃性を示すようになったことが分かります。これもまた、アカゲザルの場合とよく似ています。

一つ違っているのは、「親を必要としないところまで成長した」ときに親を失ったことです。公園管理者たちは、もう親を必要としないと考えたのですが、実際はそうではなかったのです。

人間の場合も、三歳ごろまでの愛着が特に大切と言われますが、その後も親の役割はとても大切であり、思春期以降も方向性や価値観を教える必要があります。

人間の場合のいじめっ子

以上のサルとゾウの例を考えると、人間の場合のいじめっ子にも、愛着の問題が絡んでいることがわかります。

ウィリアム・ゴールディングの小説、蠅の王 (新潮文庫)に出てくる子どもたちは、飛行機事故のため、子どもたちだけで熱帯の島に置き去りにされました。彼らはいじめる側といじめられるに分かれていき、殺人にまでつながりました。

これは何もフィクションの世界特有のできごとではありません。先日NHKで報道された愛着障害の特集では、広島県の殺人事件が例に挙げられていました。

複雑な家庭環境で育った子どもたちが、親から離れて若者集団を形成し、その中でいじめが起こって、殺人にまで至ってしまったという事件です。

NHKクローズアップ現代「愛着障害と子供たち」まとめ&関連情報 | いつも空が見えるから

殺人にまで至らなくても、いろいろないじめの裏には満たされない愛着があるとされています。

「ニューヨーク・タイムズ」に掲載されたある研究では、親から離れて仲間と一緒にいる時間が長い子どもほど、いじめをするようになることが多いことを示唆していた。

同紙の記事によれば、「週に30時間以上母親から離れて保育された幼児は、ありふれたいじめっ子やトラブルメーカーになる可能性が17パーセント高く、一方、週10時間未満保育の幼児では6パーセントだけであった」(p207)

本来、親の権威が子どもをコントロールしている状態では、子どもはその中でいろいろな社会的規範を学び、成熟したときにようやく権威を行使できるように整えられます。

しかし愛着障害が生じると、子どもは統制的になり、親に代わって権威を行使し、他人をコントロールすることを覚えるようになります。

そのようにして、子どもの間で支配する側とされる側が生じることが、愛着の空白によっていじめが生じる一つの要因とされています。

もちろん、理由はそれだけではないでしょう。先述のアカゲザルの研究からすると、心理的な原因だけでなく、脳に構造的な変化が生じている可能性があります。

愛着障害を抱える子どもは、見かけ上ADHDに似てきます。衝動性や不注意、暴力的で多動、といった傾向は、一般に脳の障害とみなされがちですが、それもまた愛着の空白から生じている場合があるのです。

多くの子どもたちの複雑な行動の問題は、遺伝や脳の回線の接続ミスで説明できると考えられている。しかしそれは、人間の脳は誕生してからの環境によって形成され、愛着関係は子どもの環境のもっとも重要な側面であるという、科学的根拠を無視している。

さらには、子どもの仲間や大人の世界との関係を考えないで、薬物療法のような限定的な解決策を押しつけている。実際、それは親の力をさらに弱めている。(p98)

いじめっ子やトラブルメーカーはADHDかもしれない、ということはよく言われますが、遺伝的な要素が愛着の問題を伴って複雑になっている場合もある、という点は考えに入れておく必要があります。

最初に考えたように、愛着には、2つの基本的事実があります。

一つ目は、人間以外の動物も「愛着脳」を持っているということです。アカゲザルやゾウの例を見るとわかるとおり、人間が、動物のひとつである以上、愛着の問題は常に重視すべきものです。

二つ目に、人間だけが、愛着のプロセスを認識できます。つまり、もっと子どもと愛着を深めようと思うとき、工夫できるということです。

この本では、昨今のグローバル化が、親子の関係にもたらした変化について忠告されています。

たとえば、電子機器が発達してきたことにより、かえって親子で過ごす時間が減っていないでしょうか。同じ部屋にいるのに、別々の友だちとスマートフォンで連絡をとっていないでしょうか。

子どもが幼いときから、両親が共働きに出なければならないという経済的圧力から、親子の時間を犠牲にしていないでしょうか。子どもは親よりも、同年代の子どもと一緒にいる時間のほうが多くなっていないでしょうか。

もし思い当たる点があるなら、この本に載せられているゴードン・ニューフェルドのアドバイスは助けになるかもしれません。

この本は、その題名の通り、親子の愛着関係を取り戻すために、行動できる点について多くのことを思い起こさせてくれる一冊です。


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