化学物質過敏症(CS)が難治化する要因について、国立病院機構盛岡病院呼吸器・アレルギー科の水城まさみ先生の論文が、2015年3月付けで、国立医療学会から発行されていました。
多種類化学物質過敏症(MCS)に発展させないために
CiNiiでは内容は見れないのですが、JSA一般社団法人日本アレルギー学会のサイトに、内容らしきものが載っていました。2011年の第61回日本アレルギー学会秋季学術大会 の演目のようですが、著者もタイトルも同じなので、この内容が論文化されたのだと思います。
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これによると、国立病院機構盛岡病院呼吸器・アレルギー科の化学物質過敏症外来を受診した210名のうち長期観察ができている45名の中で,不変,増悪した15名を難治例,その他を改善例として比較検討して難治化要因を調べたようです。
すると、
■受診までの化学物質の曝露期間がより長い
■発症後に環境改善等の化学物質曝露の回避ができていない
■職場などで高濃度の化学物質曝露を受けて中毒症状をきたしたエピソードを有する
■化学物質の関与が改善例に比較してより濃厚
といった点が、重症、難治化の化学物質過敏症(CS)、特に日常生活の多くのものに反応し、多臓器の症状を呈する多種類化学物質過敏症(MCS)につながっていることがわかったそうです。
結論としてCSの難治化の予防には,適切な早期診断と、多方面に亘る早期介入(環境整備などの生活指導や薬物療法,酸素吸入療法など)が必要だとのことでした。
CSを診断するのに役立つ化学物質負荷試験
水城まさみ先生は国立病院機構盛岡病院呼吸器・アレルギー科で、化学物質過敏症の専門外来を開いておられます。
化学物質過敏症外来: 金曜日の午後(14:00~16:00)予約制
(毎月最終週の金曜日は除く)
水城まさみ先生による2009年の別の論文化学物質過敏症の診断 : 化学物質負荷試験51症例のまとめによると、国立病院機構相模原病院臨床環境医学センターと協力して、化学物質過敏症(CS)診断のためのシングル・ブラインド試験を実施しています。
化学物質過敏症は、診断の決め手となるような客観的な検査所見がありませんが、自覚症状に基づくとはいえ、化学物質負荷試験は、確定診断の目安になります。
この論文では、院内の負荷ブースを使って、ホルムアルデヒドやトルエンを負荷したオープン試験またはシングル・ブラインド試験が行われているとされています。
※オープン試験…被験者に何の実験か知らせた上で行う方法
※シングル・ブラインド試験…被験者に、何の実験か知らせない方法
すると、次のような結果になりました。
オープン試験の結果
■40名のうち,陽性例は18名、陰性例は22名
■症状が誘発されなかった例が11名
■実際の負荷が始まる前に症状が出た例が11名
ブラインド試験の結果
■11名のうち陽性が4名、陰性が7名
オープン試験では、化学物質が放出される時間が知らされていなかったのに、そのタイミングで症状が出た場合、確かに化学物質に反応しているらしいことがわかります。
ブラインド試験では、おそらく何の実験か知らせていなかったでしょうから、患者は化学物質を恐れるあまり体調が悪くなったという可能性を除外できます。
これが完璧な方法かというと、化学物質がホルムアルデヒドやトルエンに限られていますし、自覚症状に基づくことには変わりがないので、確実とは言えないのかもしれませんが、現時点ではかなり客観的な診断方法なのではないでしょうか。
今回の論文によると、こうした試験の助けも借りて、化学物質過敏症を早期に診断し、いろいろな治療を始めることが、悪化、難治化させないために大切だ、といえるでしょう。