夢の中に自分がいる。私はこの夢の世界にいるが、夢の中にいることに気づいていない。
次の段階にいくと、「これは夢か」みたいな感じで、その夢の外側に自分がいる。その夢に登場していながら、これは夢かなと思っている。
…さらにうしろに引いていくと、夢を見ていると思っていない最初の夢の中の私と夢を見ているとわかっている私の次に「夢の中で夢を見ているな」と感じている私が現れる。(p159)
これは、解離の専門家、柴山雅俊先生の、解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論という本に載せられている、ある解離性障害の女性が語った、子ども時代からの夢体験です。
解離しやすい人は、このような謎めいた独特な夢を頻繁に見るといいます。もちろんオカルトなどとは関係のない医学的な現象です。
じつは今朝、夢の中で夢を見ている自分が夢を見ている夢というややこしい夢を見て、「ああ、こういう夢はときどき見るなぁ」と感じました。そして、解離性障害について学んだ今では、これが解離に関係したものだとピンときたのでした。
せっかくなのでこの機会に、解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)などを参考に、解離しやすい人はどんな変な夢を見るのか、なぜそうなるのか、ということを記事にしておこうと思いました。
わたし自身はものすごく解離しやすい体質ではないですが、体験談も書いておこうと思います。
解離しやすい人の夢の特徴
解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)という本やその他の資料によると、解離しやすい人は、次のような夢をよく見るそうです。(p6-8)
■夢から覚めたと思ったらそれもまた夢
■夢の中で離れたところから自分の姿を見る
■夢の中で傷つけられたり殺されたりする
■夢の中で誰かに追いかけられる
■夢の中でせっぱつまって高いところから飛び降りる
■夢の中で空を飛んだり宙に浮いたりする
■夢の中で誰かに見られていると感じる
■同じ夢を反復して見る
■夢の続きを見る
■スクリーンに映った映像のような夢を見る
■いくつかの夢を同時並行して見る
■触覚や聴覚などリアルでありありとした感覚の夢を見る
■金縛りに遭う
■体外離脱する。
こうした夢は、よく言われる明晰夢(lucid dreaming)の訓練などで身につけたものではなく、子どものころから自然に見ているものです。
また金縛りや体外離脱はオカルト的なものではなく、科学的な根拠のある脳の現象です。
解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論によると、専門的には別の言い方で3つに分類されるようです。(p157)
…夢の中で映画のスクリーンやテレビを観ているように夢を見る
■離隔型夢体験
…夢の中で自分の姿を見たり(夢中自己像視)、夢を見ている自分を見る(夢見自己像視)。
■過敏型夢体験
リアルな夢、被追跡夢、墜落夢、被殺害夢、被注察夢。背後にいるのは誰だかわからないが、それを自分だと感じることもある。
この表象幻視、離隔、過敏というのは、それぞれ解離性障害の症状の名前です。表象幻視は、目の前にありありと映像が見えること、離隔は現実感がなくなり、自分が分離したように感じられること、過敏は気配察知など周囲世界に敏感になることを指します。
こうした解離性障害の症状は、日常の現実世界で起こるのですが、それが夢世界で似たような現象として生じているため、その名前が付けられているようです。
このうち、いくつかのものを調べてみましょう。
▼解離とは何か
解離とは、心を守る働きを担う防衛機制のひとつです。普通の人も日常的に解離現象を経験していますが、特に機能不全家庭で育ったり、虐待・犯罪の被害に遭ったりした人は病的な解離を示すことがあります。詳しくは以下の記事をご覧ください。
夢の中で夢を見る
まず最初に挙げた、夢の中で夢を見るという体験です。非常に複雑なもので、何重もの入れ子構造になっていることがあります。
たとえば、今朝わたしが見た夢では、夢の中で外に出かけて、面白い出来事に遭遇しました。家に帰って、そのことを親に話そうとすると、こんな面白い話は夢だったに違いないと思いました。
すると、ベッドの上で目が覚めました。やはり夢だったのかと思いましたが、外出したときの服装のままだったので、家に帰ってすぐ寝てしまっただけかもしれないと思いました。面白い話はやっぱり現実のことだったのでしょうか。
すると家の前に停めた車の中で目が覚めました。車の外を見ると、家にお客さんが来るところだったので、あわてて起きてその人たちをもてなしました。ようやく起きたので変な夢を見たものだと思いました。
しかし親に話そうとしたところで、現実の部屋のベッドの上で寝ている自分に気づきました。これもまた夢だったのです。しかし金縛り状態で起きられません。
物音がして、部屋のすぐ外に親がいることがわかったので、声を上げて助けを求めましたが、親は気づいてくれません。悲痛な気持ちになって大声で叫びました。するとついに目が覚めました。部屋の外に親はいませんでした。それも夢だったのです。
起きてしばらくはクラクラして、現実と夢との区別がつきませんでした。まだ夢を見ているのかもしれないという思いが、5分くらい抜けませんでした。
わたしはいったい何重の夢を見ていたのだろう、と思いますが、この夢には、夢の中で夢を見ることのほかに、現実と区別がつかないリアルな夢、金縛り、気配察知などいくつかの解離的な特徴が出ています。
夢の中で夢を見る、という体験は、現実と夢の境界が曖昧になる解離の特徴を反映しているようです。
夢の中に自分がいる
解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論にはこんな夢の経験談があります。
誰かから追いかけられている自分がいるけど、追いかけられている自分を見ている私がいる。近いところから見ている時もあるが、映画のカットを見ている感じがする。(p159)
解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)によると、解離しやすい人は、自分が登場する夢をよく見るそうです。
健康な人も10-20%が夢の中で自分を見る夢中自己像視を経験します。しかし解離しやすい人はそれを毎日のように見るのです。(p59)
そのような人は、夢の中に登場する自分の姿を上や後ろから第三者視点で見ていることが多いそうです。眠って夢を見ている自分の姿を見ることもあります。
自分が何かに追いかけられる夢や、傷つけられたり殺されたりする夢、せっぱつまって飛び降りたり空を飛んだりする夢を見るといいます。
わたしは基本的に自分が登場する夢しか見ませんが、第三者視点から見ていることはないと思います。
追いかけられる夢、殺される夢はほんの数回あったようにも思いますが、覚えているのは、だれかを殺してしまい、呆然としているところから始まった、裁判にかけられる夢です。そのときは、妹が弁護してくれて、その話を聞いているうちに、自分は実際には人を殺したわけではなく、誰かにはめられたのだ、ということがわかるというサスペンスタッチの夢でした。
また追い詰められたわけではないものの、空をとぶ夢は、月一ペースくらいで割と頻繁にあり、自由自在にビルの上などに飛んで行けて、とても気持ちいいものです。
解離性障害は、心が二つに分かれてしまう病気です。多くの場合、現実にいる自分と、現実を見ている自分とに分離してしまいます。
そのため、現実にいる自分に現実感がなくなる「離人症」が生じたり、現実を見ている自分からの視線を感じる「気配過敏」になったりします。
そのような「私の二重化」が夢の中でも起こっているために、自分を客観視していたり、追いかけられる自分と追いかける自分に意識が分裂したりするようです。空を飛ぶ夢は、現実を見ている自分の側の浮遊感を反映したものでしょう。
リアルな夢
解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理 (ちくま新書)にはこんなことが書いてあります。
私などは夢の記憶は曖昧で訳が分からないことが多いのだが、解離の人たちは、視覚はいうまでもなく、聴覚、触覚など五感のすべてが、こうして覚醒しているときと何ら変わりがないという。
先の今日子は、「夢は現実よりもその画素が多い。あまりに鮮やかで綺麗で印象的。それに対して現実はあまりにぼんやりとしている。夢の方がずっと現実的なのです」と述べている。(p61)
解離しやすい人は、現実と区別がつかないようなリアルな夢を見るそうです。特に内容があまりに日常的なので、現実と混同してしまうことがあるといいます。
わたしの場合は、先に挙げた今朝の夢は、かなり日常と混乱するような夢でした。
夢の中で、虹色の夕焼け、とでもいえばよいのか、現実にはありえないような美しい色合いの景色を見て、必死にスケッチしようとしたことがあります。
夢の中で名曲とも思える音楽が思い浮かんで、ずっと鳴り響いていて、起きたあともしばらく覚えていたこともあります。
うとうとして、寝ているか起きているかの はざまにいるようなときに、夢の内容を自由にコントロールして、見たい夢を見ることができる、という時もときどきあります。
解離しやすい人は、子どものころから、現実から離れて空想の中にのめり込みやすい性質、「空想傾向」(fantasy-proneness)を持っていることがよくあります。
たとえば、解離の専門家、岡野憲一郎先生による、わかりやすい「解離性障害」入門には、学校でシャーロック・ホームズを読んでいると、現実にベーカー街にいると思えるほど没頭してしまい、ふと気づいたら、なぜ自分が学校にいるのかわからず混乱した、という学生の話が出ています。(p4-5)
そのような空想世界への のめりこみやすさが夢にも反映されるのでしょう。
金縛り
金縛りはオカルトと結び付けられることが多いですが、医学の世界ではありふれた睡眠現象、「睡眠麻痺」として知られています。
骨格筋が脱力しているREM睡眠の間にたまたま目が覚めてしまったときに起きる現象で、目以外動かすことができません。
昼寝や断眠、不規則な睡眠習慣で睡眠覚醒リズムが乱れていると生じやすくなります。特にナルコレプシーという病気で頻繁に生じます。
この睡眠麻痺の最中には、だれかが近くにいるような気配や幻視を伴う、入眠時幻覚が生じることもあります。また、息苦しさや重さを感じることもあります。呼吸筋は動いていますが、自分の意思で呼吸することはできません。
睡眠麻痺は、手足を動かそうと必死になっても動かせないので、疲れ果てますが、唯一動く目をぐりぐり動かせば簡単に解けます。あるいは誰かが体に触ってくれても解けるそうです。
わかりやすい「解離性障害」入門では、睡眠麻痺は、「誰にでも起こりうるものであり、生理的に生じる正常な解離」と説明されています。(p13)
わたしの場合、慢性疲労症候群になりたてのころ、毎日のように金縛りに遭っていて、幻覚もときどきありました。睡眠麻痺についての知識を得るまでは、恐ろしく、自分はどうなってしまったのだろうと思っていました。
無理やり手足を動かそうとすると、そのままベッドが砂のように崩れて、体が落ちていくリアルな夢を伴うこともありました。
睡眠麻痺について知って、目を動かせばいい、ということがわかってからは、脅威ではなくなりましたが、金縛りの最中にそのことを思い出すのには、なかなか時間を要したと思います。
今朝のわたしの異様な夢も、金縛りと、その最中の気配が伴っていましたが、以前よりは軽くなったのか、夢の中で叫んでいるうちに解けました。
しかしながら、睡眠麻痺は、睡眠状態が良くないことを示唆しているので、起きたあとは泥のように疲れていることが多いです。
体外離脱
体外離脱または幽体離脱というとオカルトや臨死体験と結びつけて考えがちですが、実際には解離の一つの症状です。
夜中に寝ていると体外離脱して、下の方に寝ている自分が見えたり、そのまま外出して外を見て回ったりできるそうです。
体外離脱は夜寝る時以外にも生じます。
親に怒られたときに意識を飛ばして体外離脱し、怒られている自分を見ていたという人や、悲惨な事件に遭遇したときに体外離脱して、傷つけられる自分を見ていたという人もいます。どれも解離によるものです。
発達障害の専門家、杉山登志郎先生の子ども虐待という第四の発達障害 (学研のヒューマンケアブックス)にはこんな話があります。
さらに彼女は、母親から殴られるときに、いつも意識を飛ばして、幽体離脱をしていたことが分かった。天井に上がってそこから殴られる自分を見ていたので、全然痛くなかったという。
しかし時々、母親もまた幽体離脱をしていて、母親とDさんとが幽体離脱同士のバトルとなり、必ず母親に負けていたそうだ。(p47)
もちろん母親も幽体離脱をしていたというのは、Dさんのありありとした空想によるものです。
すでに述べたように、解離性障害は現実にいる自分と、それを見ている自分とに意識が分離してしまう病気です。自分の意識が身体からずれて浮遊感を伴うこともあります。
この分離が進んだ状態が体外離脱体験です。もちろん実際に離脱しているわけではなく、意識が自分から離れたように感じられ、遠くから自分を見ているようなありありとした幻視や夢が生じているのです。
体外離脱体験は、金縛りと同時にみられることも多いそうですが、わたしは経験したことはありません。しかし夢の中で空を飛ぶのは、それなりに似ているものかもしれません。
わかりやすい「解離性障害」入門によると、体外離脱は脳の側頭-頭頂接合部と呼ばれる部分で、側頭葉と頭頂葉のさまざまな感覚情報がうまく統合されないときに生じることがわかっています。薬物によって再現することもできます。(p9)
わたしの悪夢体験
わたしは異常に多く夢を見ます。もっとも、だれでも大量に夢を見ているものの、起きたタイミングのせいで覚えていないだけだと言われています。それにしても、わたしは毎晩毎晩、見た夢をよく覚えています。
今までで一番多く見た夢は、慢性疲労症候群(CFS)を発症した直後、身体が鉛のように重くなって学校にいけなくなる、という夢でした。
今から思えば、あれは突然CFSを発症して学校に行けなくなったショックによるPTSD(心的外傷後ストレス障害)だったのです。
ちょうどプールの中で歩くのを想像していただけたら良いと思います。一歩一歩踏み出すのも大変です。特に流れるプールで、流れに逆行して歩こうとしているのに似ています。どれだけ力をこめても、手足がほとんど動かないのです。
同級生が普通に談笑して、次の教室に行こうとするのに、わたしはそんな調子で、死に物狂いで身体を動かそうとするのですが、のろのろとしか動かせず、しまいには疲れ果てて倒れこんでしまうのです。
そんな夢を一日に一回、一年近くほぼ毎日見ました。毎回ちょっとシチュエーションは違うのですが、展開は同じです。もちろん起きたら疲れ果てています。ひどい悪夢でした。
未だにその夢はときどき見るのですが、半年に一回くらいの頻度となり、とても少なくなりました。
その代わりに雑多な夢を異常なほど見ます。緊迫し、時には気持ち悪いサスペンスものや、ちょっと楽しい冒険もの、リアルな日常もの、断片的で支離滅裂なものなど、ジャンルはさまざまです。
睡眠障害の病院の先生が、悪夢を見るのなら、リボトリールという薬が効くことがある、と処方してくれましたが、効きませんでした。そのときにはすでに悪夢は少なくなっていたので、関係なかったようです。
ちなみに副腎疲労(アドレナル・ファティーグ)の専門家、本間良子先生によるしつこい疲れは副腎疲労が原因だった ストレスに勝つホルモンのつくりかた (祥伝社黄金文庫)には、悪夢を見るのはビタミンB6の欠乏ではないかとの指摘があります。(p129)
悪夢を見るという人は、これらの対策を試みてみるとよいかもしれません。
わたしの夢やその他の体験が解離性障害と関わっているかというと微妙なラインです。わたしは普通の人より解離しやすいようですが、解離性障害のような病的なレベルではありません。
とはいえ、解離性障害の人が見やすい夢について知ることは、わたしにとって参考になりました。頻繁に変な夢を見るという人は、解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)などの本を見て、自分が解離性障害に近いかどうかをチェックしてみるようお勧めします。