多分けっこう前から置いてあったのに気づいていなかっただけだと思いますが、大阪市立大学の疲労外来のところに、「慢性疲労症候群 疲労と上手くつきあうために」および「疲れたあなたに 疲労と上手くつきあうために」というリーフレットが置かれてあるのを知りました。
大阪市立大学医学部付属病院、疲労クリニカルセンターの公式の、慢性疲労症候群と疲労の説明リーフレットです。一枚の紙を三分割で折りたたんであり、表紙を含めて6ページの体裁になっていました。
慢性疲労症候群について手軽に説明する道具として、役立つものかもしれないので、読んでみた感想と簡単な内容を書いておきたいと思います。
1.慢性疲労症候群 疲労と上手くつきあうために
一つ目のリーフレットは、「慢性疲労症候群 疲労と上手くつきあうために」です。ページごとの見出しは、「慢性疲労症候群とは?」「診断方法は?」「慢性疲労症候群の治療は?」「生活上の注意事項は?」「家族・職場の人へ」となっています。
それぞれについて簡単にまとめると、次のような内容になっています。
慢性疲労症候群とは?
最初のページは慢性疲労症候群の概念の説明です。
慢性的な疲労や疼痛、認知機能低下、睡眠障害等の多彩な症状のために健全な社会生活を送ることができなくなる原因不明の病気で筋痛性脳脊髄炎と呼ぶこともあります。
という言葉から始まり、筋痛性脳脊髄炎(ME)の名称もしっかり記載されています。昨今の病名変更を求める声が反映されているのだと思います。
現在、世界中でCFSの原因検索が進められています。ウイルス等の病原微生物による感染説や免疫異常説、アレルギー説、内分泌異常説、代謝異常説、精神疾患説が議論されていますが、どれか一つだけでCFSの成り立ちを説明できる説はまだありません。おそらく、複数因子が関与する複合病態であろうと考えられています。
と説明されていて、複雑な病気であることが窺えます。ふつうの検査では異常が見られないものの、特殊な検査では異常が出ることもいろいろ書かれています。特に、近年の脳の炎症のことも書かれていることから、最近作られたリーフレットなのかな、と思います。
診断方法は?
次のページでは、診断方法として、平成25年3月に発表された厚生労働省研究班によるCFS臨床診断基準が用いられていることが書かれています。専門用語や聞きなれない病名がいろいろ出てきて読みにくいです。
慢性疲労症候群の治療は?
このページでは、特効薬的な治療法はないとことわりつつも、薬物療法、段階的運動療法、認知行動療法の3つが説明されています。
薬物療法は、次のようなものが挙げられています。
◯ビタミンC大量投与(1日3000-4000mg)
◯ビタミンB12
◯漢方薬(補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯、加味逍遥散、当帰芍薬散)
◯抗うつ薬(三環系、四環系、SSRI)、抗不安薬
◯線維筋痛症を併発している場合にプレガバリン
◯ウイルス関与が疑われる場合に抗ウイルス剤(アマンタジン、アシクロビル)
抗ウイルス剤について記載されているのが、あまり見かけない点だと思いました。とはいえ、わたしが最終的に治療で使っている薬はこれらのどれでもないので、医師によりけり、患者によりけりなのかもしれません。
段階的運動療法のやり方としては、理学療法士のもとで、1日10-60分の有酸素運動を週1-5回と書かれていますが…実際に実施されているのでしょうか?
生活上の注意事項は?
次のページでは、睡眠、食事、運動、ストレス、療養態度などの注意事項が載せられています。
ごくふつうのことが書かれているだけですが、ストレスに関して、
CFS患者さんの病前性格に完璧・理想主義的傾向、過剰適応傾向があります。時と場合によれば「手を抜く」という生き方も大事です。
と書かれています。この点は、次の最後のページにも、もう一回でてきます。慢性疲労症候群と完璧主義は関係ないという研究者もいますが、日本の研究機関の見方としては、病前性格がある、という意見のようです。
次に代替医療について、医学的に根拠のないものが多いので、必ず担当医と相談してほしいと忠告されています。
最後に予後調査について書かれているのですが、興味深かったので引用します。
これまでの予後調査では、漢方とピタミンによる治療で、ほぼ完治した患者の割合は、2年で10-15%、4年で約40%です。復職等、社会生活が可能な状態に回復した人を含めれば、治療開始後4年で全体の60%程度が回復しています。
疲労とともに、身体表現性障害や気分変調症を伴なう場合は10年以上経過しても寛解しない例もしばしばあります。
これを読んで少し驚きました。慢性疲労症候群は、60%もの人が回復するのでしょうか。もっと予後の悪いものだと思っていました。
そして、10年以上長引いている患者は心理的な問題があるような書き方がされていますが…。わたし自身の場合、身体表現性障害の傾向を伴っている可能性はあるとは思いますが、複雑な気持ちになる人は多いかもしれません。
10年以上長引いていても身体表現性障害や気分変調症でない人も多いと思うのですが…。
とはいえ、長引いている人は、抑圧された感情などの影響を確かめたほうがいい、ということかもしれません。
家族・職場の方へ
最後のページでは、「根性、気合が足りないだけ」と言われたり、仮病扱いされたりする問題について書かれています。家族や同僚に読んでもらうとよいかもしれません。
とはいえ、上に述べたように、ここでも病前性格として完璧主義などがあることに触れられており、読む人によっては、精神的な問題だと誤解してしまうかもしれません。
CFS患者さんの病前性格は完璧主義で過剰適応な側面があり、周囲の期待に答えようと自己犠牲を払ってでも無理をする特性があります。
実際、そのような傾向がある人はわたし自身も含めて多いのかな、とは思います。しかし消極的なニュアンスを含む「完璧主義、過剰適応」という表現で書くのではなく、「まじめで頑張り屋さん」というポジティブな言葉で書くわけにはいかなかったのでしょうか。
最後に、
当院疲労クリニカルセンターへの受診は、かかりつけ医に相談の上、一般的臨床検査で異常が認められず慢性疲労症候群が疑われる場合、必ず診療情報提供書持参でお願いします。
という注意書きが書かれています。つまり紹介状がいるということです。
全体として、慢性疲労症候群をバランスよく説明するリーフレットにはなっているのですが、だれかに説明するときに使いたいかというと、微妙なところです。
文字が小さく、難しい用語が多いので、CFS患者が読むと頭が痛くなるかもしれません。もう少し易しい言葉で、簡潔に説明してくれたらよかったかなと思います。
2.疲れたあなたに 疲労と上手くつきあうために
ここまで、一枚目のリーフレットについて、少し気になる部分を書いてきましたが、もう一枚のリーフレットは、比較的読みやすい体裁です。文字が少し大きめで、図・絵も多く、パッと見て文字に圧倒されて気持ち悪くなることはありません。
それぞれのページは、「疲労とは?」「解明されてきた疲労のメカニズム」「疲労回復に必要なこととは?」「疲労回復方法は?」「健康食品等について」という見出しになっています。
ただ、生活習慣に気をつけるように、など当たり前のことしか書かれていないので、大した情報はありません。
その中で「解明されてきた疲労のメカニズム」のページには、興味深い最近の研究が一つ書かれていました。
脳血流量の測定により疲労を感じる脳の部位が分かったという内容で、
この部位は、意欲や情動と関わり、うつ病でも活動変化を来たす前頭皮質BA10野と呼ばれる部位で、ここが疲労の中枢であることが分かりました。
この部位は新しい計画を考え、意欲を司る前頭前野の活動低下と関連し、集中力や注意力を担う脳部位でもあります。
自律神経中枢でもある前帯状回とも密接なつながりを有しており、これらのネットワークは、セロトニン、ドーパミンといった神経伝達物質により働く神経細胞が多い部位です。
と書かれています。内容はともかく、その場所は目の少し上であると図で説明されていて、いつもこのあたりの頭重感やしんどさは感じるな、と思いました。(脳には感覚はないので関係ないのかもしれませんが)
以上が、大阪市立大学附属病院の疲労外来のところに置かれていた、二種類のリーフレットでした。あくまでわたしの感想にすぎないので、中には、とても使いやすい、家族や友人に説明するとき便利、と思う人もいると思います。
CFSを手軽に説明できる薄い出版物はとても貴重だと思います。外来に行ったときには、何枚かもらってくるのもよいかもしれません。