人間の遺伝子の4分の1近くが、季節によって活性度合いが変化し、夏より冬に病気にかかりやすい原因となっている、というデータが出ました。
記事では、日本の体内時計研究の先駆けである本間研一先生や、小児慢性疲労症候群も診ている睡眠障害専門の粂和彦先生がコメントしています。
今回の研究はイギリスのケンブリッジ大学のジョン・トッド遺伝医学教授によって主導され、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載されました。
研究では、北半球と南半球、赤道アフリカなど、広い範囲の1万6000人のデータを調べたそうです。すると以下のような点が分かりました。
■遺伝子2万2822個のうち、5136個、つまり23%が季節によって変化。
■「季節性遺伝子」の発現レベルについて、北半球と南半球で採取したサンプルでは発現が逆転している。
たとえば季節差は、アイスランドのサンプル提供者の間で最も顕著。アイスランドは白夜などがある地域。
■季節の区切りが明確ではない赤道地域の人々では、変化は少なかった。
しかし西アフリカのガンビアで採取したサンプルでは、免疫細胞の遺伝子が、マラリアなどが増える6月~10月の雨季に活性化していた。
■免疫系で重要な役割を担う一連の遺伝子は、冬の方が強いので、ワクチン接種は冬が効果的。また冬場にリウマチやI型糖尿病の発症リスクが高い。
■炎症に関与するARNTLと呼ばれる遺伝子も、季節的な影響を受ける。自己免疫疾患に関係。
■心臓病から精神疾患に至るまで、非常に多くの病気が冬に悪化する理由になる。
■時計遺伝子の発現は、夏に高く冬に低かった。16種知られる時計遺伝子のうちの9種が季節変動を示した。
今回の研究について、北海道大学で長年生物時計を研究してきた本間研一先生は、「遺伝子発現の季節変動は、季節病そのもの、あるいは気温や日周期、社会生活の季節変化の結果にすぎない可能性がある」と慎重な姿勢です。
睡眠障害が専門の粂和彦先生も、データの見方に慎重さを喚起しつつ、「春と秋に2回ピークを示すような季節変動遺伝子の検討も、今後の研究対象といえるでしょう」という期待も述べています。
名古屋大学の吉村崇教授は、概年時計の研究につながるのではと期待をよせています。
わたし自身は、特に冬場のほうが体調が悪いということはなく、年間通じて低空飛行です。しかし身の回りには、冬になると痛みが強いとか、冬期うつになるという人もいて、興味深い結果だと思いました。