NHKスーパープレゼンテーションで、自閉症スペクトラム(ASD)の有名人、テンプル・グランディン(Temple Grandin)のTED「世の中には いろいろなタイプの脳が必要だ」(The world needs all kind of minds)が放映されていました。
2015/6/17(水)に放送されましたが、先日8/19(水)にも再放送があり、今日8/23(日)の深夜(日付変更後)の24:45~25:10にも放映されるそうです。
公式ウェブサイトで、動画が公開されていたので、それを参考に内容をまとめてみました。
以下の内容は、書き言葉として、わかりやすく表現を調整している部分もあり、放送の字幕に忠実ではありません。省略したり補ったりしている部分もあります。一部、話の順番を入れ替えて整理しているところもあります。
テンプル・グランディンとは
テンプル・グランディン(Temple Grandin)は、1947年生まれのアメリカの動物学者です。2歳のときに自閉症と診断されましたが、様々な訓練によって大学も卒業し、動物科学の博士号を取得しました。
動物に優しい家畜の施設の設計したことで有名で、女性・自閉症として社会的に成功を収めた先駆者として知られています。現在はコロラド州立大学教授で、自閉症の啓発活動に携わっています。
自閉症としての才能を活かして活動してきた人物で、「もし、指をパチンと鳴らしさえすれば、自閉症が消えるとしても、私はそうはしない」という言葉は有名です。
自閉症とは
(以下はTEDの内容です)。
自閉症スペクトラム(ASD)は症状に幅があります。喋れない子どもから、天才技術者・科学者まで、さまざまな人がいます。どこまでがオタクでどこからがアスペルガーなのかは難しい話です。
今なら、アインシュタインやモーツァルトも自閉症スペクトラムと診断されるでしょう。わたしは自閉症の子が発明者になれるようにしたいと考えています。
細部に注目する脳
わたしは言葉でなく絵で考えます。自閉症は細部に注目します。
全体と細部、どちらに先に注目するか。自閉症の人は細かい文字のほうに注目しますが、普通の人は細部を無視します。しかし、たとえば橋を作るときなど、細部の構造は重要です。
今の世の中は抽象的になりすぎています。多くの学校で実技で学ぶ授業がなくなっています。わたしの得意だった美術もなくなっています。
わたしは牛が何を嫌がるかわかります。
たとえば動物病院の前の旗。パタパタして牛は嫌がりますが、だれもわかりませんでした。
1970年代後半、わたしは牛が何を見ているか調べて、柵にかかっているコートや影やホースを嫌がると知りました。
わたしの伝記映画にも、この研究のシーンは出てきます。わたしの描いた絵も。
絵で考える脳
わたしは絵で考える脳であり、これは画像検索に似ています。わたしはこれが普通だと思っていました。しかし人々の思考について調査したら、違っていて衝撃を受けました。
たとえば教会の尖塔。普通の人はぼんやりとしか思い浮かびません。しかしわたしは画像検索みたいにどんどん頭に浮かびます。1つずつ出てきて、背景の天気も変えられます。
わたしの映画にも、昔の靴が次々に頭に浮かぶというシーンがありました。
こうした絵で考える脳は、家庭用設備の設計に役立ちました。わたしは設計する時、頭の中で設備をテスト・シミュレーションできます。
わたしの映画を作ったスタッフにも自閉症の視覚思考らしい人が多かったです。
自閉症の若者の将来が心配です。彼らをちゃんとIT業界に入れるように!
視覚思考・言語思考・パターン思考
わたしは社交的でないので、作品で勝負すると決めました。絵を武器に家畜の仕事をしてきました。
また、小さいころちゃんとしつけを受けました。
小学校3-4年で視覚思考だとわかる子もいます。しかし視覚思考でない自閉症者もいます。
わたしは数年前、脳スキャンを受けました。すると脳の視覚野につながる線が 普通の被験者と比べて2倍のサイズだと分かりました。自閉症の人は一時視覚野をつかって考えるという説もあります。
しかし視覚的でない自閉症もいます。自閉症は得意なこと・苦手なことがはっきりしています。
わたしは代数ができません。代数ができなくても幾何学をとれるようにしてほしいです。
その他の思考タイプには次のものがあります。
パターン思考の折り紙などが得意で数学・音楽が好きな人たちがいます。
言語思考の物知りな人たちがいます。
読字障害がある人もいます。
感覚の問題もあります。わたしはこのヘッドセットに抵抗があったので30分早く装着し慣れるようにしました。
蛍光灯を嫌がる人や、音に過敏な人もいます。人によって違います。
視覚思考は分類が得意
わたしは視覚思考だから動物の気持ちがわかります。動物は感覚的に考えるからです。絵、音、匂いなどを手がかりに。
犬なら消火栓の匂いでいろいろわかります。だれがいたか、仲間かどうか、といったことです。
こういうところに注目し、わたしは動物への理解を深めました。
動物や自閉症の人の脳は、情報を分類できます。
馬にとって、乗っている男と地面にいる男は別物です。絵が違うからです。乗られると嫌でも立っている人は平気な馬、乗る人は大丈夫でも装具士は嫌な馬がいます。
黒い帽子なら怖がるけれど白い帽子なら大丈夫な馬もいます。
多くの人はこんな分類が下手です。
問題が生じたとき、人材育成の問題か、設備の問題か、分類・判断ができません。設備の問題なら簡単に直せるのかどうか、といったことも。
たとえば飛行機の安全性を高める仕事の場合、わたしなら飛行機の尾翼に注目します。なぜなら20年間で5件の大事故が尾翼の故障で起こっているからです。こうした故障はパイロットには見えません。
わたしは細部に注目します。これはさまざまな細かい情報を組み合わせる思考プロセスです。
あらゆるタイプの人をサポートすべき
自閉症の子が科学などに興味をもつようにする取り組みなどが行われていないのはクレイジーです。学校で自動車整備や美術がないのはおかしい。
わたしの科学の先生、カーロック先生は、高校時代、わたしが勉強が苦手だったとき、人間の目の錯覚のおもしろさを教えてくれました。自閉症の子には、TEDなどおもしろいものを見せるのもいいでしょう。ネットにはいいものがいっぱいあります。
脳は変えられます。認識力をとるか社交性をとるかです。自閉症の脳はある部分が活発だが、社交性の部分はそうではありません。一方を取ると他方を失います。
普通の脳では、言葉が視覚思考を封じています。
だから、認知症で言語障害が起きてから、すばらしい絵を描けるようになる人がいます。
ゴッホの絵の渦巻きは、乱流の数学モデルと一致するそうです。もしかすると人の脳に数学パターンがあるのだろうか。わたしはこんなおもしろい話を集めています。(※ゴッホもアスペルガー症候群だったとする説もある)
自閉症の人には良い指導者が必要
自閉症の脳は今後社会で大事になります。
会社はもっと自閉症の人を雇い、仕事の内容を細かく具体的に説明すべきです。
問題なのは、時間を守れない自閉症が多いこと。テーブルマナーも。わたしはこれらをちゃんと教わりました。
13歳のとき洋裁工房で働き、大学ではインターンで、振られた仕事をどうこなすか学びました。 好きなことをしているだけじゃだめだ、ということです。
たとえばブロック遊びが好きな自閉症の子には、何か別のものを作らせてみます。
自閉症の脳は執着します。車に熱中している子なら、距離や時間を計算させるといいでしょう。こだわりを利用してやる気を起こさせることができるのです。
そういうことを先生がしないのはクレイジーです。
視覚思考の人は、デザインや写真に向いています。
パターン思考の人は、数学関係、プログラミングに向いています。
言語思考の人は、記者や舞台俳優などに向いています
自閉症は対人スキルを芝居感覚で身につけるとも言われています。
わたしの科学の先生は本職はNASAの職員でした。こうした人は、教員免許なしでも教壇に立てるようにしている州もあります。これをもっとやるべき。彼らを高校に呼べばいい。IT業界を引退した人に教えてもらうなどもよいでしょう。
大事なのは子どもにきっかけを与えることです。指導者(メンター)が必要なのです。
(TEDの内容終わり)。
要点のまとめ
要点をまとめると次のようになります。
■自閉症の人は特に、得意不得意がはっきりしている
■視覚思考、「絵で考える脳」の人
■パターン思考、数学やプログラミングが得意な人
■言語思考、物知りで記者や俳優に向いている人
■大切なのは、興味を広げてくれる指導者(メンター)との出会い
■こだわりを利用して、興味を広げていくことが大切
わたしは視覚思考ではないので、視覚思考のテンプル・グランディンがどのような思考をしているのか、という点はとても興味深かったです。
学校で、いろいろなタイプの子どもがサポートされないのは「クレイジーだ」と何度も言っていたのが印象に残りました。その解決策として、教員だけに頼らず、さまざまな分野で成功している人を教壇な立たせるべきだとしているのは理にかなっていると思いました。
アスペルガー症候群の人の多くが、学校で嫌な経験をしたり、学校のカリキュラムに強い不満を持ったりするそうです。現在の教育制度が、彼らの興味を満足させるものでないのは明らかです。
学校の先生になるような人は、当然、子どものころ学校に適応し、既存の世の中の枠組みである程度の成功を収め、教育者となるための画一的な過程に沿って資格を取った人が多いでしょう。
そのため、アウトサイダーな子どものことを理解できない、あるいはいくらか理解はできても手本にはなれないのかもしれません。
(似たような点が、朝型中心のカリキュラムにもいえます。なぜ生物時計は、あなたの生き方まで操っているのか?によると、学校社会が夜型の子どもを受け入れようとしないのは、朝型社会で成功した人でないと教員になれないからだと言われています)
自閉症スペクトラム(ASD)は、得意なことと苦手なことがはっきりしていていて、定型発達の人と比べて劣っているのではなく、一方を取れば他方を失う、といった問題なのだ、と述べている点も、印象的でした。
もちろん、中には、非常に能力の限られた自閉症の人もいれば、天才と呼ばれるような人もいるわけですが、得意なところ、興味のあるところを活用して、幅を広げていくという取り組みは大切だと思います。
先駆的な成功者としてのテンプル・グランディンは、やはり自閉症の中でも「天才」「ギフテッド」と言われる方面の人なので、彼女の言葉がすべての自閉症者に参考になるかといえば、そうではないように思いますが、ひとつの貴重な意見ではあると感じます。
▼自閉症スペクトラム(ASD)・アスペルガーの人の思考のタイプ
自閉症の人の視覚思考と言語思考についてはこちらもご覧ください。