国立精神神経センター(NCNP)が多発性硬化症(MS:Multiple Sclerosi)の腸内細菌叢(腸内フローラ)についての研究を発表していました。
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特定の細菌減少で発症か 多発性硬化症の腸内環境 :日本経済新聞
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腸内フローラでクロストリジウム属細菌が著しく減少
今回の発表は、東京大学の服部正平教授、麻布大学の森田英利教授、順天堂大学の三宅幸子教授の共同研究です。
研究では、20名の再発寛解型のMS患者と、健常者40名の腸内フローラを比較しました。
数百種類の菌種の同定、多様性の評価などを行ったところ、以下の3点が明らかになりました。
MS患者は健常日本人にほぼ匹敵する種数・多様性をもっていた。
■細菌種の構成
MS患者同士の構成のばらつきが大きい。中等度の細菌叢の構造異常(Dysbiosis)があると考えられる。
■有意に増加・減少している細菌
MS患者では、健常者より減少している細菌種が19種、増加している細菌種が2種あった。特に減少している菌種の大部分はFirmicutes門クロストリジウム属の菌だった。
MSで減少しているクロストリジウム属の菌は、炎症性のリンパ球を抑制する役割に関与していると考えられているそうです。
そのため、腸内フローラの変化が、自己免疫疾患としての多発性硬化症の発症の原因と密接に関係している可能性があります。
多発性硬化症の増加は食習慣の変化?
特定疾患受給者数の推移をみると、多発性硬化症は、過去30年間で患者数が約1000人から2万人近くまで10倍以上に増加しました。
他の自己免疫疾患やアレルギーも、近年、患者数が爆発的に増加していることが知られています。
研究チームは、
患者数増加の背景には、日本人の食生活の変化などの環境因子の変化が腸内細菌に影響を及ぼし、発症しやすくなったのではないかという仮説
を立てています。
今後、MSの類縁疾患である視神経脊髄炎や、炎症性腸疾患や関節リウマチなど他の自己免疫疾患の腸内フローラの状態とも比較して、病態解明を進めるそうです。
マイクロバイオームと「抗生物質の冬」
このブログで取り上げてきた情報からすると、腸内フローラの変化は、単なる食習慣の変化による問題とは考えづらい気がします。
腸内細菌の研究の権威マーティン・ブレイザーによる失われてゆく、我々の内なる細菌では、腸内細菌叢(腸内フローラ)は、マイクロバイオームと呼ばれています。
これまで細菌は植物相(フローラ)に分類されていましたが、現在では微生物相(マイクロバイオータ)に分類されているため、より広い概念であるマイクロバイオームのほうがふさわしいとされています。
人の腸内細菌を含めたマイクロバイオームが劇的な変化を示し、難病が増加している背景には、単なる食習慣の変化のみではなく、抗生物質のような人工的な化学物質の乱用が関係しているとされています。
抗生物質はヒトの腸内細菌を殺しますが、同時に成長促進剤として家畜のエサなどにも含まれていて、家畜の肉や乳製品、ひいては、家畜の堆肥を使って作られた作物の土壌にも浸透しています。
抗生物質が自然界のあらゆるところに行き渡ることで「抗生物質の冬」が生じ、自然界全体のマイクロバイオームが貧しくなり、バランスが破壊されていると考えられています。
加えて、親から子に受け継がれる腸内細菌の減少や、子どものころから「清潔」な環境で育つことも、腸内細菌の貧困につながっているとされています。
もしそうであれば、多発性硬化症をはじめ、自己免疫疾患の増加を、単なる一国、個人の食習慣の変化の結果ととらえるのは、問題の本質を見誤っているようにも感じます。
今回の報道では、MSは「生活習慣病」ではないか、という表現も散見されましたが、そのような表現で、個人の生き方に原因を求めるのは不当なのではないでしょうか。
いずれにしても、腸内細菌、マイクロバイオームの研究がこれから進むにつれ、さまざまな難病、現代病の原因が明らかになると思われます。
最近の多発性硬化症に関する別のニュース
最後に、最近見つけた多発性硬化症に関する別のニュースを載せておきます。
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