福井大の友田明美先生のグループの、愛着障害(RAD)の子どもについての研究成果がニュースになっていました。
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福井)愛着障害児の脳の働きや形態を解明 福井大:朝日新聞デジタル
以前にこのブログで取り上げた点も含まれていますが、今回のニュースでは2つの点が扱われています。
1.ADHDと比較した線条体の働きの違い
愛着障害(RAD)は、自閉症やADHDとよく似ているため、鑑別診断が難しいと言われています。
しかし愛着障害は虐待や母親との関係に基づく症状であり、遺伝的要素が大きい自閉症やADHDとは原因が異なります。
愛着障害は、6歳から8歳の子どものうち、虐待や育児放棄が原因で1%あまりが発症するといわれています。
福井大、理化学研究所、生理学研究所などによる研究チームは、愛着障害の子ども5人、ADHDの子ども17人、定型発達の子ども17人に、カード当てゲームをしてもらい、報酬に対する反応について調べました。
この実験では、カード当てゲームで当たると、たくさんの小遣いがもらえる、少しだけ小遣いがもらえる、全くもらえない、という3種の場合を想定して、それぞれ脳の働きを機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で調べます。
すると…
…もらえる小遣いが多くても少なくても、意欲や行動の動機づけに関係する脳の線条体が活性化した。どんな状況でもやる気が高まるということがわかった。
■ADHDの子ども
…小遣いをたくさんもらえる時だけ線条体が活性化した。特定の状況でのみやる気が出ることがわかった。
■愛着障害の子ども
…小遣いが多くても少なくても活性化しなかった。やる気を引き起こすのが難しいことがわかった。
という結果になりました。
愛着障害の子どもは、自己肯定感が極端に低く、ほめ言葉も心に響かないという特徴があるそうですが、そのような脳の状態を反映しているのかもしれません。
(福井新聞のほうでは10~15歳の愛着障害児16人と健常児20人となっていますが、何回か別の実験をしているのでしょうか? こちらは1歳前後で虐待された子どもの線条体が特に活動の弱さを示したそうです)
このことから
そうした子どもは褒められても心に響きにくく、発達障害の子どもに対する一般的な治療の効果が小さい可能性がある
と書かれています。
2.左脳の視覚野灰白質の減少
また、福井大学の「子どものこころの発達研究センター」の友田明美教授と島田浩二特命助教授、滝口慎一郎医師の研究グループによる、もう一つの研究についても書かれていました。
10~17歳の健常児22人と、愛着障害の子ども21人の脳を磁気共鳴画像法(MRI)で撮影したところ、左脳の視覚野灰白質の容積が20.6%ほど小さく、発達が遅れていることがわかったそうです。視覚野は他人の顔の認識などに関係する部分だそうです。
対人コミュニケーション障害や情緒障害、うつ症状などが深刻なほど、灰白質の容積も小さくなっている傾向があったとのこと。
以前の虐待された子どもについての研究では、視覚野の容積の減少は、ショッキングな光景を見ないように脳が適応した結果だとされていました。
今回の研究結果も、今後、愛着障害の診断指標になる可能性があるとして、さらに人数を増やして研究を進めるそうです。
友田明美先生は、今回の研究についてこう述べています。
子どもの脳の研究は少なく、20%という数字もかなりインパクトが大きい。ただ、(愛着障害の)原因なのか、結果なのかは分からない
反応性愛着障害は経験のある精神科医でも診断と治療が難しい状況にある。
研究の成果は子どもを見守る人たちが適切な支援を行うための理解に役立つ
発達障害は確かに大きな問題ですが、発達障害の理解が進む陰で、愛着障害が混同され、適切な治療やフォローアップが施されていない現状があります。
発達障害と愛着障害では必要な対処も異なり、どちらも周りの支えがうまく働かないと、後の人生に深刻な影響を及ぼしかねない脳機能の問題です。
愛着障害のために深刻な自尊心欠如や自己否定感に苦しんでいる人は大勢いるので、これからも研究が進み、理解が深まってほしいと思います。