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子ども時代の慢性的なトラウマ経験がもたらす5つの後遺症と4つの治療法

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サクラの生育歴は、子ども虐待の臨床に従事した経験がある者なら、これだけで直ちに性的虐待の既往と重度の解離性障害を強く疑う所見に満ちている。

今日、このような症例が子どもも大人も「統合失調症」「双極性障害」「境界性人格障害」などと誤診をされ、延々と精神科の治療を受けているという場面にしばしば出会う。(p124)

しい気分の浮き沈みや慢性的なうつ状態、幻覚、対人関係の不安定さや依存症。

こうした症状は、精神科では、双極性障害や統合失調症、パーソナリティ障害と診断され、大量の薬物治療につながることがしばしばです。

しかし、何度薬を変えても、いくら薬の量を増やしてもよくならず、むしろ悪くなるばかりで、より悲惨な状態になってしまうことがあります。

近年の研究では、こうしたケースは、一見、統合失調症や双極性障害のような有名な精神疾患に思えるかもしれませんが、実際には似て非なるもの、つまり発達障害やトラウマと関係していると考えられるようになっています。

発達障害はなぜトラウマを抱えやすいのか、双極性障害や統合失調症と間違われやすいどんな5つの後遺症が生じるか、治療には何が役立つか、という点を、講座 子ども虐待への新たなケア (学研のヒューマンケアブックス)という本を参考にまとめてみました。

これはどんな本? 

講座 子ども虐待への新たなケア (学研のヒューマンケアブックス)は、虐待など、子ども時代の慢性的なトラウマ経験を抱えた子どもたちを治療してきた専門家10人による、トラウマの影響や治療についての解説書です。

まだあまり馴染みのない、アタッチメント障害や解離性障害の病態や、その精神療法について、具体的に書かれています。

発達障害はトラウマにつながりやすい

子ども時代に慢性的なトラウマを抱えるきっかけは人それぞれであり、どんな子どもでもリスクはあります。しかし特にトラウマを抱えやすいのは発達障害の子どもたちだと言われています。

発達障害の子どもがトラウマを抱えやすいのはどうしてでしょうか。

子もに発達障害があり、しかも親がそれに気づいていないとき、子どもは「手のかかる子」とみなされる場合が少なくありません。

親にとって育てにくいだけでなく、親族や教育者から、しつけがなっていないと批判されると、家庭内で、厳しい言葉や体罰が飛び交うようになってしまう場合があります。極端な場合は、それがエスカレートして虐待の域になってしまうこともあるでしょう。

虐待された子どもの統計によると、その3割近くが発達障害の自閉スペクトラム症(ASD)を持っています。これは、ASDが虐待を引き起こすリスク要因になりやすいことを示しています。

実に3割近くの被虐待児がASDを基盤にしている。これらの子どものうち9割までが知的な障害を伴わない高機能群であった。(p10)

ASDは、ほとんど言葉でコミュニケーションができない自閉症から、知的能力が高く、コミュニケーションの問題も軽いものまで様々です。後者は、以前、高機能自閉症アスペルガー症候群と呼ばれていたグループです。

虐待につながるリスクが高いのは、意外にも、この高機能なタイプのほうだと言われています、なぜなら、一見ほかの子と変わらないので、発達障害だとわかりにくく、しつけの問題などと誤解されやすいからです。

ASDの子どもは、知覚過敏性があるため、特定の音や身体のふれあいを嫌がったりして、手のかかる子、育てにくい子、わがままな子とみなされがちです。

また他の人の感情を理解したり、共感したりするのが苦手なため、ごく当たり前と思われることがわからなかったり、できなかったりします。

学校でもいじめの対象になりやすく、生活のさまざまな場でトラウマを抱え込む危険があります。

さらに、親もまたASDだったり、ASDだと親子の絆の愛着(アタッチメント)の形成が遅れたりすることも、リスクを増す一因となっています。

またもう一つの発達障害であるADHDの場合も、落ち着きがなくじっとしていられない、集中できない、自制心がないといった傾向から同様の問題につながりがちです。

ADHDの場合、ADHDの問題行動の結果として厳しく扱われることもあれば、逆に虐待の結果として多動になることもあり、両者が複雑にからみあっていることもあります。

虐待を受けた子どもも多動性行動障害を示すことが多く、虐待による多動なのか、もともとのADHDなのかという鑑別は非常に困難で、両者がかけ算になっていると考えられるケースも多い。(p11)

また、ASDとADHDを両方持っている子ども(たとえばASDの積極奇異タイプ)もいて、その場合はコミュニケーション障害がある上に多動なので、対人関係のトラブルが絶えません。

子ども時代の辛い経験がもたらす5つの後遺症

残念ながら、小さな頃にトラウマ体験を抱えてしまった場合、どんな症状が現われるのでしょうか。ここでは特に5つの点を考えてみたいと思います。

1.アタッチメント障害(愛着障害)

子ども時代の辛い体験が一番最初に引き起こす問題、それは「アタッチメント障害」です。アタッチメントとは「愛着」を意味する言葉です。(p24)

愛着、すなわち子どもと親の絆が正しく育まれれば、子どもはいつでも温かい親のイメージを思い浮かべられるようになり、自尊心や感情のコントール、対人関係のコミュニケーションなどの点で安定した成長を遂げます。

しかし不安定な愛情や歪んだ愛情を注がれると、子どもは支え保護してくれる親のイメージを感じられず、いつも不安を抱え、他人を警戒し、心身のさまざまな不安定さを示すようになります。これが「アタッチメント障害」です。

アタッチメント(愛着)がどの程度しっかり機能しているかは、ボリス(Boris)とジーナ(Zeanah)は5つの段階に分類しています。(解説は要約しています)(p30,180)

アタッチメントの適応レベル

レベル1【安定型】親との健全な絆を育んだ子ども
レベル2【不安定型】親に対してよそよそしい(回避型)、あるいは依存的(抵抗・両価型)
レベル3【不安定型】親に対しての態度が一貫性がなく混乱している(混乱型)
レベル4【安全基地の歪み】親を突然失った状態。極度に不安定
レベル5【反応性愛着障害】虐待・ネグレクトによる重篤な心身の障害

愛着の不安定さは、過度の警戒や交感神経の緊張を引き起こすため、身体的には眠りが妨げられたり、多動になったりして、すでに述べたように、ADHDと区別しにくくなります。

よく似ているADHDと愛着障害の違い―スティーブ・ジョブズはどちらだったのか | いつも空が見えるから

また心理的には、親との安定した絆が育めなかったため、他の人との安定したコミュニケーションが苦手で、自尊心がなく、慢性的な不安やうつが生じます。

気分の浮き沈みも伴い、双極性障害と間違われることもあります。

2.反抗挑戦性障害と行為障害

子ども時代の辛い経験は、アタッチメント障害による対人関係の不安定の結果、大人にわざと逆らったり、周囲をわざといらただせたりする行動を繰り返す反抗的な態度につながる場合があります。

そのように権威に反抗し、トラブルを繰り返す状態は反抗挑戦性障害と呼ばれます。

また年齢が上がると、高確率で非行を繰り返す行為障害にもつながります。

反抗挑戦性障害と行為障害は虐待児の46%にも上ると言われています。(p17)

3.解離性障害

子ども時代のトラウマは、幻聴など統合失調症に似た症状を引き起こすことがあり、これは解離性障害として知られています。

解離とは、耐えがたい苦痛のもとで心を切り離す働きのことです。意識を切り離したり、記憶を切り離して封印したりします。

“解離”とは、心身の統一がバラバラになる現象である。

非常に苦痛を伴う体験をしたとき、心のサーキットブレーカーが落ちてしまうかのように、意識を身体から切り離す安全装置が働くことがもともとの基盤になっている。(p15)

たとえば、厳しく怒られているとき、意識が離れて、天井から、まるで傍観者のように自分を眺めていた、という体外離脱体験が生じることがあります。意識を体から切り離して苦痛を遠ざけているのです。

また辛い記憶が失われて封印されると、健忘が生じたり、それがフラッシュバックの形で突然再生される幻聴などの幻覚が生じたりします。

さらには人格を切り離して多重人格になることもあります。突然キレる現象や、キレたときの記憶が飛んでしまう状態は、多重人格としての人格交代が生じていると考えられます。

こうした状態は、表面的な症状だけみると、統合失調症と誤診されがちですが、実際には異なる原因によるものであり、治療法も違うので注意が必要です。

統合失調症と解離性障害の6つの違い―幻聴だけで誤診されがち | いつも空が見えるから

4.複雑性PTSD

子ども時代に慢性的に辛い状況に置かれると、トラウマの後遺症として、心的外傷後ストレス障害(PTSD)にも悩まされます。しかもそれは単なるPTSDではなく複雑性PTSDです。

ここで言うトラウマは、犯罪被害や震災被害のような一回だけのトラウマではなく、反復してトラウマに曝されるという複雑性トラウマである。

トラウマを心の骨折にたとえることがある。その言い方を用いれば、心の複雑骨折である。(p12)

PTSDでは、トラウマの影響で、過覚醒や頻脈など生理的な不安定さが生じます。またフラッシュバックが絶えず生じ、トラウマを思い出させる場所や状況を避けるようになります。

アタッチメント障害や解離性障害、PTSDは互いに重なり合う部分がありますが、PTSDは現在トラウマにさらされている状態ではなく、安全な環境に移されてから生じるという特徴があります。あとになって苦しむのです。(p16)

5.脳の変化

ここまで考えてきたアタッチメント障害、反抗挑戦性障害、解離性障害、複雑性PTSDは、単なる傷ついた心の問題なのでしょぅか。

決してそうではありません。近年の画像によって脳を調べる研究では、性的虐待や暴言、厳格な体罰、DVの目撃などよって、脳の容積が変化することがわかっています。

だれも知らなかった「いやされない傷 児童虐待と傷ついていく脳」(2011年新版) | いつも空が見えるから

たとえば性的虐待の被害者の大学生は、健康な人に比べて左の視覚野が8%、右の視覚野が5%も減少していました。(p42)

小児期に激しい虐待を受けると、脳の一部がうまく発達できなくなってしまう。

そうして脳に傷を負ってしまった子どもたちは、成人になってからも精神的なトラブルで悲惨な人生を背負うことになる。(p42)

ここまで挙げたさまざまな後遺症は、別個に生じるものではなく、一人の子どもに連続して生じます。

たとえば、子どものころはアタッチメント障害と診断されたのが、学童期には反抗挑戦性障害、青年期には解離性障害や複雑性PTSD、そしてうつ病や薬物依存などに発展することがあります。

一人の子どもの診断名が、あたかも出世魚のように成長とともに変わっていくことは、正式には「異型連続性」と呼ばれます。

これは脳にダメージが蓄積していくことで、発達がさまたげられ、成長とともに様々な問題が生じる結果です。

このように、子ども時代の慢性的なトラウマ経験は一般的な発達障害以上に脳の発達に甚大な影響を及ぼすことから、「第四の発達障害」とも呼ばれています。(p18)

本当に脳を変えてしまう「子ども虐待という第四の発達障害」 | いつも空が見えるから

子ども時代のトラウマを治療するには

子ども時代の慢性的なトラウマ経験による後遺症は、脳に器質的な変化をもたらすほど重大なものなので、治療には困難を極めます。

短い期間で克服できるようなものではなく、長い期間をかけて、多くの人との関わりによって、少しずつ回復していく以外に方法はありません。

子ども時代に刻まれたトラウマ経験の治療は戦争からの復興のようなものであり、生々しい爪あとを完全に除き去ることはできません。しかしその経験を受け入れて未来へと進んでいくことは、困難とはいえ不可能ではありません。

治療にはさまざまな方法が用いられますが、ここでは4つだけごく簡単にまとめてみました。

1.発達障害のペアレントトレーニング(PT)

まず最初に、家庭内の現在進行形のトラウマを防ぐ方法として、親が発達障害について学び、子どもの特性に配慮した接し方を知るペアレントトレーニング(PT)が重要だと言われています。(p77)

ASDやADHDなどの発達障害は、遺伝的要素が大きい先天的な脳機能の問題であり、しつけの問題ではありません。

しつけだと思って、厳しく叱りつけたり、体罰を与えたりしても、生まれつきの脳の機能に偏りがあるのであれば、子どもはなかなか親の言う通りにできません。そうするとさらにしつけが厳しくなり、虐待の域にエスカレートすることもあります。

さらに、同じ問題行動でも、ASDが原因の場合と、ADHDが原因の場合では対処法が異なるという点にも注意が必要です。

たとえばADHDの子どもは冷静になればわかるのに、つい衝動的に不適切な行動をしてしまいます。対するASDでは、そもそも社会的な場面でどう行動すればよいのか対処法を思いつくことが困難です。

ADHDの子どもに適した方法が、ASDの子どもではまったく逆の結果をまねくこともあるため、専門家の指示をあおぎ、子どものタイプを見極めることは大切です。

また、ASDやADHDの子どもは、親子の愛着(アタッチメント)の絆を築くのが難しい場合もあるので、親が言葉や行動で愛情をしっかり伝えられるよう、子どもへの接し方を見なおす必要があります。

子どもが発達障害の場合、親も同様の特徴を抱えていることもあるので、発達障害について理解するペアレントトレーニングは、親自身のためにもなります。

2.「自分の物語」を作るTF-CBT

すでにトラウマ記憶が存在していて、さまざまな症状が現れている場合、アメリカで主流な治療法とされているのは、トラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)です。

TF-CBTは、成人のPTSDの治療法である認知行動療法と持続エクスポージャーをもとに開発された、トラウマと向き合い、それを乗り越えていくための精神療法です。

これまで、トラウマを抱えている人に対しては、過去を捨てて、新しい自分として生きていこう、といった励ましが行われることが少なくありませんでした。

しかし、それでは過去の辛い経験に蓋をしてしまってより重い解離症状につながりかねません。

近年の研究では、回復するにはむしろ、過去に受けた不適切な養育やトラウマと向き合い、それを乗り越えていくことが不可欠だとされています。

しかしながら、子どもにとってみれば、親のことが大切であると同時に、自分の過去はとても大切なものである。

誰しも、過去のさまざまな体験を抜きには、現在の自分を語ることはできないであろう。現在の自分は過去の蓄積である、とも言えよう。

であるにもかかわらず、「キミは大切な存在」という一方で、「キミの過去は忘れなさい」では、ダブルメッセージになってしまい、子どもは混乱するしかないだろう。(p60-61)

トラウマフォーカスト認知行動療法では、自分の過去と向き合い、虐待などのトラウマ経験も含めて、「自分の物語」として捉え直し、新たな視点を見つけることが重要視されています。

まずリラックスや感情のコントロールについて学んでから、セラピストの問いかけにしたがって辛い経験を思い出し、それを絵や文章で「自分の物語」としてまとめていきます。

自分の過去のトラウマ記憶の物語が完成したら、それよりも過去のできごとや、今の自分ともつなげていき、すべてをひとつながりの物語としてとらえなおし、最後に同じような経験をした人が元気づけられるようなメッセージを添えます。

そのようにしてバラバラになっていた自分の記憶を再編集し、封印していた過去とも客観的に向き合い、未来につながる自分の一部として受け入れていくことがTF-CBTの目的です。

TF-CBTは、日本では、兵庫県こころのケアセンターや東京女子医科大学女性生涯健康センターを中心にTF-CBTが実施されてきたそうです。  

TF-CBTの8つのステップ「PRACTICE」

P…心理教育とペアレンティングスキル(Psychoeducation、Parenting Skill)
親と子どもに症状や対処法などの知識を教え、回復できるという励ましを与える

R…リラクセーション(Relaxation)
呼吸法やマインドフルネス、グラウンディングなど、リラックスするためのトレーニングを行う

A…情動表現と調整(Affect Expression and Regulation)
感情を感じ取る方法や、ネガティブな感情のコントロール法を教える

C…認知のコーピングと修正(Cognitive Coping and Processing)
感情と思考、行動につながりがあることを教える。

T…トラウマの物語を創る(Trauma Narrative)
トラウマ記憶に向き合い、それを自分の物語の一部として、新しい見方ができるよう助ける

I…現実生活におけるトラウマリマインダーの克服(In Vivo Mastery of Trauma Reminders)
日常生活の中でトラウマを思い出させる状況を克服できるよう段階的に訓練する

C…親子合同セッション(Conjoint Parent-Child Session)
親子の関係を強化し、お互いにどう対応するとよいか教育する

E…将来の安全と発達の強化(Enhance Future Safety and Development)
将来にわたり安全な環境を維持できるよう必要なスキルを身につける

3.自分の中のパーツと対話する「自我状態療法」

さらに症状が進み、トラウマ記憶が重い解離症状を引き起こしている場合には、自我状態療法が用いられます。(p113-132)

トラウマのフラッシュバックや人格交代により、普通に治療では歯がたたない、極度に解離が強い症例に有効であるとされ、バラバラになった各人格を交流させることで、心身の統一を目指します。

これまでの精神外来では、多重人格を無視したり、まともに取り合わなかったりする場合が少なくありませんでした。しかし、自我状態療法では、すべての人格を正面から扱い、一人の人間としてコミュニケーションします。

一般の精神科診療のなかで、多重人格には「取り合わない」というのが主流になっているように感じる。

…しかしこれは、すべての葛藤を切り離して処理をするという病理的防衛が身についているからに他ならない。

「見て、見て」と観客を求めているのではなく、「傷ついた私を何とかして」という悲鳴である。

…子ども虐待を生き延びるために身につけたこの病理に対し、治療者がそれに向き合うのを避けることによって、次の世代に病理の連鎖を送り込む役割を「治療者」自身が担うことになってもよいのだろうか?(p132)

自我状態療法では、まず安全な場所のイメージをふくらませて、トラウマが噴出したときのための避難場所を確保します。

次に、空想上の一つの部屋に各人格(パーツ)が集まるところをイメージしてもらい、それぞれのパーツ同士で話し合いをし、わだかまりを解決していきます。

いわばグループセッションを一人の頭のなかでするようなもので、それぞれのパーツが抱えているトラウマ、パーツ同士のいざこざなどを処理し、すべてのパーツが自然にコミュニケーションし合えるようになることを目指します。

最終的には、「産まれる必要があったから生まれたのであって、いらないパーツは一人もなく、みんな大切な仲間」として、すべての人格が互いを受け入れられるようになれば、記憶の断裂などのさまざまな症状が収まります。

自我状態療法には、トラウマ記憶を処理するためにテクニックとして、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)も併用されます。

詳しくはこちらをご覧ください。

トラウマを治療する自我状態療法「会議室テクニック」 | いつも空が見えるから

4.少量処方による薬物治療

そのほか、症状に応じて、薬物治療が行われることもありますが、統合失調症や双極性障害で用いられる大量の薬物はかえって症状を悪化させるといわれています。

発達障害や解離性障害では、薬への過敏性があるので、ごく少量の処方が原則であり、場合によっては漢方薬が効果を示すこともあるそうです。

しずれにしても、薬ではトラウマ記憶の処理はできないので、薬物治療だけでさまざまな症状を抑えこむことはできません。

精神科医はすぐに比較的大量の抗精神病薬を多用するが、副作用ばかりで有効性は乏しい。また、抗不安薬は抑制を外すだけで、禁忌と言ってよい。

トラウマは、統合失調症でも単なるうつ病でもないことを認識してほしい。(p131)

発達障害や解離性障害の薬物治療についてはこちらもご覧ください。

精神科の薬の大量処方・薬漬けで悪化しないために知っておきたい誤診例&少量処方の大切さ | いつも空が見えるから

トラウマ記憶を乗り越える

この記事で考えてきたことをまとめると、うつ病や統合失調症、双極性障害と診断され、長い間薬物治療をしてもよくならないとしたら、次の点を分析してみる必要があります。

■発達障害が関わっていないかどうか
■精神病ではなくトラウマが関与している症状ではないか
■トラウマや解離を専門とする精神療法や薬物治療を試したほうがよいかどうか

もちろん、さまざまな精神症状の原因は人それぞれであり、ここで考えたトラウマとはさらに別の原因がひそんでいる場合もあるでしょう。

しかし一つの可能性として、子ども時代のトラウマがうつ病や統合失調症、双極性障害、その他のさまざまな疾患と似た症状を引き起こすことを知っておくなら、適切な治療法を選ぶ助けになると思います。

今回参考にした講座 子ども虐待への新たなケア (学研のヒューマンケアブックス)には、アタッチメント障害(愛着障害)などのもっと詳しい説明や、自我状態療法やトラウマフォーカスト認知行動療法といった特殊な治療法の具体例なども載せられているので、関心のある人は読んでみてください。


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