メタボローム解析によって、化学物質過敏症(CS)の患者の血中代謝物を解析したところ、 中鎖脂肪酸やアセチルカルニチンの異常が見られたという研究がありました。
日本衛生学雑誌Vol. 71 (2016)に載せられた化学物質過敏症研究へのメタボロミクスの応用 に基づく内容です。
カルニチン異常は、慢性疲労症候群(CFS)でも報告されています。
化学物質過敏症のメタボローム解析
「メタボローム」とは、生体内で作り出されるすべての代謝物質を意味する言葉で、「メタボローム解析」は、血液中の代謝によって生じる、それら4000もの化学物質を、一度に分析する技術です。
今回の研究では、京都市内の病院で化学物質過敏症(CS)と診断された女性9名と、健康な人たち9名の代謝物を比較したそうです。
すると、一般の血液検査レベルでは違いは見られませんでしたが、メタボローム解析では、CS患者は中鎖脂肪酸(ヘキサン酸、ペラルゴン酸)が高く、アセチルカルニチンが低いことが分かったとのこと。
■中鎖脂肪酸が高い
中鎖脂肪酸は、本来、消化吸収が早く、肝臓で分解されやすく、エネルギーとなりやすい物質です。
しかし、それらが高いということは、中鎖脂肪酸が分解されていないことを示しています。
そうすると各臓器に脂肪が蓄積して、心筋障害や筋力低下などを来たす可能性があり、化学物質過敏症の症状と一致していると書かれています。
■アセチルカルニチンが低い
アセチルカルニチンは、集中力や記憶力に関係する神経伝達物質アセチルコリンの合成に関わっている物質で、アルツハイマー病の初期症状を改善すると言われています。
アセチルカルニチンの減少は、化学物質過敏症の疲労感や不安、うつ状態と関わっているかもしれないそうです。
今回の研究では、アセチルカルニチンの原料となるカルニチンの不足も幾らかみられました。
マウスの実験では、カルニチンが欠乏すると、脂肪酸の代謝障害が起こり、活動量が低下したり、脂肪酸の毒性によって心肥大などの症状が生じたりする研究があるそうです。
そのため、化学物質過敏症患者で、中鎖脂肪酸とアセチルカルニチンの異常が見られることについて、次のような可能性が考えられています。
今回の研究結果は,サンプル数も少なく,断面調査のため因果関係には踏み込むことはできない。
しかしあえて推察すれば,化学物質過敏症ではカルニチン,アセチルカルニチンの減少が生じ,それらの直接的影響や,脂肪酸の利用障害による影響,そして脂肪酸そのものの毒性による自発活動量の低下や臓器障害が引き起こされている可能性が示唆される。
慢性疲労症候群との関係は?
本文中でも触れられていますが、カルニチンやアセチルカルニチンの異常といえば、慢性疲労症候群との関連が思い起こされます。
以前に慢性疲労症候群のメタボローム解析によって、客観的な診断に役立つバイオマーカーが見つかったというニュースがありました。
こちらのサイトのPDF資料「疲労科学におけるL-カルニチン」には、慢性疲労症候群(CFS)とアセチル L-カルニチンの関係についてこう書かれていました。
L-カルニチンとスポーツ/疲労/脳機能 | カルニピュア文庫
健常人における血中カルニチン類の総濃度は西欧人(スウェーデン人)と日本人で差が見られるものの、アセチル L-カルニチンが CFS 患者で低濃度であることには共通性があった。
以上の観察結果からアシルカルニチン量が疲労状態を診断するバイオマーカーとして利用し得る可能性について提案されている。
同時に、アセチル L-カルニチンが脳内に取り込まれること(34)、さらに取り込まれる脳の部位が疲労の知覚に慣用する部位(前頭葉前部、側頭皮質、前帯状、小脳)であること、CFS 患者では取り込みが低下していることが PET(positron emission tomography)を用いた研究で順次明らかにされた(35)。
慢性疲労症候群の患者では、カルニチン類の欠乏が、疲労症状と関係していると考えられています。
また、慢性疲労症候群の治療法として、サプリメントとしてL-カルニチンを服用する臨床試験が行われているというニュースもありました。
慢性疲労症候群を治療している下村登規夫先生による本見逃してはならないカルニチン補充療法チェックポイントでは、慢性疲労症候群や線維筋痛症において、カルニチン補充療法が効果的だとされていました。
一日に900~1800mgを服用したところ症状が改善したものの、長期間連続服用すると慣れが生じるので、ときどき休薬や減薬を挟むといいそうです。
今回の資料では、化学物質過敏症(CS)の場合も、カルニチン補充が症状の改善に効果があるかもしれないとされていました。
アセチルカルニチンはまだわが国では販売されていないが,カルニチンはサプリメントとして販売されており,その補給によって化学物質過敏症の症状が軽減される可能性が期待される。
実際のところどうなのかは、もっと大規模な研究が行われてみないとわかりませんし、費用面での負担を考えると、簡単に勧められるようなものではないと思います。
しかしながら、以前から類似した病態だと言われている慢性疲労症候群や化学物質過敏症に、カルニチン関係の異常が共通しているという結果は興味深いですね。