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ささいなことにも傷つく「拒絶感受性(RS)」の強い人たち―傷つきやすさを魅力に変えるには?

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自制はなぜ、どのようにしてこのポジティブな影響を及ぼすことができるかについての研究はこれまで、「拒絶感受性(RS)」と呼ばれる、多くの人に見られる有害な弱点に的を絞ってきた。

…「高RS」の人は、緊密な関係にある相手から拒絶されるのを極端に気にかけ、自分が「見捨てられる」のではないかと心配し、自らの行動を通して、自分が恐れているまさにその拒絶を誘うことがよくある。(p176)

の人のささいな言葉に深く傷ついてしまう、いつも見捨てられるのではないかと不安を感じている、つい感情的に反応して人間関係を台無しにしてしまう。

あなたは、そんな「傷つきやすい」人ですか?

このような「傷つきやすさ」は、心理学の世界では、「拒絶感受性」(RS:Rejection Sensitivity)と呼ばれ、かねてから研究されてきました。

「拒絶感受性」(RS)とは、文字通り、拒絶されることに対する敏感さを意味していて、高RSの人は、ささいな言動に傷つき、人間関係のトラブルを起こしてしまいます。

ささいなことに傷つきやすい高RSは、注意欠如多動症(ADHD)境界性パーソナリティ障害(BPD)とも密接に関連しているようです。

こうした傷つきやすさの問題は、一見、その敏感さ、つまり感受性の強さにあると思われがちです。傷つきやすい人たちは「気にしすぎだよ」とか、「もっと鈍感になればいいのに」といったアドバイスを受けるかもしれません。

しかし研究によると、実際の問題は、心が敏感か鈍感かではなく、別の点にありました。鈍感になるよりももっといい解決策があるのです。

この記事では、マシュマロ・テスト:成功する子・しない子という本から、「拒絶感受性」の強い人が、人間関係をうまくやっていくための秘訣について考えたいと思います。

これはどんな本?

この本は、心理学の世界で最も有名な実験のひとつ、「マシュマロテスト」の考案者、コロンビア大学のウォルター・ミシェル教授による本です。

マシュマロテストは、目の前に置かれたマシュマロを食べるのを我慢できたら、もう一つマシュマロをあげる、という子どもを対象にした実験です。

そのときに誘惑を我慢できたか、あるいは誘惑に負けて食べてしまったかが、その子の将来とも関係しているというデータが増えるにつれ、マシュマロテストは一躍有名になりました。

しかしマシュマロテストには、一般に考えられているよりはるかに深い意味があり、わたしたちの日常生活にさまざまな形で応用できる、ということをこの本はとても興味深く教えてくれています。

傷つきやすさ「拒絶感受性(RS)」とは何か

今回紹介する、「拒絶感受性」(RS)に関する研究も、マシュマロテストの実験が波及した、意外な分野の一つです。

冒頭で、「拒絶感受性」(RS)とは、いわゆる傷つきやすさのことだと述べましたが、具体的にはどんな特徴があるのでしょうか。

例として紹介されているビルという男性は、「拒絶感受性」が強い人の典型です。

彼はとても傷つきやすく、見捨てられるのではないかといつも不安なので、妻が会話のときちょっと上の空だっただけで、怒ってスクランブルエッグを投げつけてしまいました。

ビルのような高RSの人は、自分が「本当に」愛されているかどうかですぐ頭がいっぱいになり、一人で思いを巡らせているうちに、見捨てられるのではないかという恐れが募り、ホットシステム由来の怒りと憤慨がほとばしり始める。(p177)

ビルの妻は、いたって普通に接しているだけですが、ビルの受け取り方は異なります。

妻が少しあくびをしただけで、自分の話には関心がないのだと腹を立てたり、ちょっとそっけない反応をしただけで、冷淡だと決めてかかったりするのです。

若い世代の人たちは、メールやSNSで似たような経験があるかもしれません。友だちから届いたLINEのメッセージのちょっとした言葉に傷ついたり、返事がなかなかこないことにショックを受けたりする人もいます。

拒絶感受性が強い人、つまり高RSの人は、他の人のささいな言動にとても傷つきやすく、見捨てられ不安を抱いていますが、悲しいことに、自分の反応の仕方のせいで、恐れている通りの結果を招いてしまうことがしばしばです。

他の人の言動に必要以上に過敏に反応し、ささいなことにも怒ったり、逆に気を回し過ぎたりするので、相手は次第にうんざりして、遠ざかって行ってしまいます。衝動的に感情を爆発させて、トラブルを起こすこともあるでしょう。

これは一種の「自己成就予言」です。つまり、もしかしたら見捨てられるかもしれないという強い不安に駆られて行動するあまり、本当に見捨てられてしまうのです。

「拒絶感受性」研究の第一人者、コロンビア大学のジェラルディーン・ダウニー教授の研究では、高RSの人が自分の身に招く不幸について、次のようなことがわかっています。

その研究からは、高RSの若い男女の関係は、低RSの人どうしの関係ほど長続きしないことが明らかになった。

ミドルスクールでは、高RSの子どものほうが同輩たちから不当な扱いを受けたりいじめられたりしやすく、彼らは孤独感を抱いている。

長い目で見ると、この弱点が著しい人は、より多くの拒絶を経験し続け、やがて自尊心が蝕まれ、鬱になる可能性が高まる。(p178)

高RSの人は、自分の恐れているとおりの破局を引き寄せ、いじめられたり孤独になったりしてさらに傷つき、自尊心を失い、鬱になる場合があります。

特に「拒絶感受性」の特徴が強い人は、その独特な人間関係のトラブルパターンから、境界性パーソナリティ障害(BPD)の診断基準を満たすことがよくあるそうです。

2008年に再びオズレムが筆頭執筆者として同じチームで行なった関連の研究では、高RSの人は、境界性人格障害の特徴を併せて示すことが多かった。

この障害を持っている人は、些細な意見の相違を大げさに捉え、個人攻撃と見なし、他人ばかりでなく自分に対しても有害な反応を見せやすくなる。(p180)

問題は人間関係のみにとどまりません。

ストレスにさらされると、免疫系が炎症性化学物質を生み出します。そのため、高RSの人は、虚血性心疾患や、自己免疫疾患、がんなどに罹患するリスクが高まるとも言われています。(p178)

高RSに振り回されてしまう人は、心が敏感で傷つきやすいせいで、ささいなことにも大げさに反応し、自分の心だけでなく相手の心も、さらには自分の身体的な健康をさえ傷つけてしまうのです。

必要なのは鈍感さではない

こうした高い「拒絶感受性」のもたらす不幸な結果を見ると、そのような傷つきやすい人たちに必要なのは、もっと鈍感になることだと言う人がいるのも当然に思えます。

しかし、感受性の強さは、本来、悪いものではないはずです。強い感受性を、傷つきやすさではなく、強みにして成功している人は少なくありません。

尊敬され、慕われる医師やカウンセラー、指導者の中には、強い感受性をフルに発揮して、他の人の気持ちに共感したり、とても人間味あふれる優しさを垣間見せたりして、だれからも愛される人柄を発揮している人が大勢います。

脳神経科医オリヴァー・サックスによる色のない島へ: 脳神経科医のミクロネシア探訪記 (ハヤカワ文庫 NF 426)という本では、グアム島の原因不明の難病「リティコとボディグ」に苦しむ人たちを助けるため、わざわざトロントから島に移住したジョン・スティールという医師の話が出てきます。

「リティコとボディグ」はパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)のような重い症状を示す、極めて苦痛を伴う病気で、しかも治療法がありません。

原因は解明されておらず、一説にはウイルス性だとも言われていたので、現地に行けば、自分も難病に冒されるかもしれません。さらに地元の人たちは外国人に対する強い警戒心を持っています。

それでもジョンは、現地の人たちを助けたいと思いました。ジョンは敏感な心をもつ人で、だれもいない部屋で、患者たちの苦しみに対する自分の無力さに涙を流すことさえあります。(p195)

彼はその感受性の強さを活かして、難病患者たちに親身に寄り添い、今では島の人たちから、どんな病気でも診てくれる、よろず引き受け医として全幅の信頼を得ているとのことでした。(p172)

ですから、問題となっているのは、感受性の強さではありません。感受性の強さはうまくコントロールすれば、強みとして活かすこともできます。必要なのはセルフ・コントロール、つまり自制なのです。

マシュマロ・テスト:成功する子・しない子にはこう書かれています。

そして、ここが肝心なのだが、高RSでも、自制能力の高い人はそうした影響を免れており、対人関係を維持できた。

…全体として、高RSだが自制スキルが優れている人は、低RSの人に劣らず、人生で物事にうまく対処できていた。(p85)

ウォルター・ミシェルは、自制するスキルを持ち合わせていれば、たとえ高RSでも人間関係が台無しになったりせず、うまくやっていける、という一つの例を紹介しています。

13歳のリタという学生は、高い拒絶感受性を持ちながらも、優れた自制心を発揮し人間関係に対処しています。リタはこう述べました。

私は批判を受けるのが好きではありません。

批判されたときには、それを書きとめます。

場所、相手の名前、その人が言ったこと、なぜ自分がそれほど傷ついたのか、なぜほかの人ではなく私がそう言われたのかを書きます。

それをカウンセラーに見せると、乗り越えるのを手伝ってもらえます。

批判した人の所に行って、自分が書きとめた疑問をぶつけます。相手と話して、なぜそう言われたのかを知ると役立つからです。怒りが和らぐのです。

誰もが批判されることを私は学びました。ですから、批判はうまく処理して、先へと進むしかありません。(p184)

リタは、とても傷つきやすく、批判に敏感である、という点で、まぎれもなく高RSに分類される女の子です。

しかし彼女が高RSに振り回されないのは、優れた自制スキルを身に着けているからです。

リタは鈍感ではないので、確かに批判されると深く傷つきます。しかしすぐに怒りを爆発させたり、極端に反応したりするのではなく、まず冷静に状況を分析するのです。

どんな状況でどんなことを言われたのか、なぜそう言われたのか、さまざまな角度から考えて、ときには気持ちが落ち着いてから、批判した当人に直接尋ねに行ったりして、建設的に対処しています。

ウォルター・ミシェルは、リタの対処方法を見て、高RSの人にとって自制心がいかに役立つかをこう説明しています。

高RSの人はしばしば腹を立て、敵意を感じるものの、深呼吸したり、戦略的に自分の思考を調整したり、長期的な目標について考えたりすることで、自分を「冷却」して落ち着かせれば、優位に立てる。(p185)

高い感受性を持つ人たちは、自制するスキルを身につけることで、感受性を弱点ではなく長所として発揮し、優位に立つことさえできます。

まわりの気持ちに敏感であり、なおかつ誠実なコミュニケーションを取る人は、周囲から見捨てられるどころか、愛され、尊敬される人になれるでしょう。

自制するスキルを身につける方法

けれども、自制するのは簡単ではない、自分には自制心なんてない、と感じる人も少なくないでしょう。特に高RSからくる問題に長く苦しんでいる人の場合はなおさらです。

しかし嬉しいことに、この本では、自制は生まれつきの特質ではなく、訓練次第で、たとえ大人になってからでも身につけられるものだと説明されています。

子どものときに目の前のマシュマロを食べるのを自制できるかどうかを調べるのが、この本の表題にもなっている「マシュマロテスト」の趣旨ですが、その実験が明らかにしたのは、自制とは才能ではなくスキルであるということでした。

「マシュマロテスト」で目の前のマシュマロを食べる誘惑に打ち勝った子どもたちは、決して意志の力が強かったわけではなく、自制するためのさまざまなスキルを活用していたのです。

壁に止まったハエの視点

「マシュマロテスト」で、誘惑を退けた子どもの中には、物事の見方を変える戦略を用いた子どももいました。たとえば、目の前のマシュマロが実はただの写真や作り物だと考えるよう努めたのです。(p42)

違う視点を持つことは、自制にとって非常に重要な要素のひとつです。

イェール大学のスーザン・ノーレン=ホークセマは1990年代の初期以降20年にわたる研究によって、セラピーで感情的な問題が解決する人と悪化する人の違いを見つけました。

ポイントは、「壁に止まったハエの視点から」自分を見れるかどうかでした。(p167)

ハエなんて気持ち悪いという人は、足元にいるアリの視点から自分を見てもいいですし、空を飛んでいるスズメの視点から見ても構いません。

感情的に取り乱してしまったとき、自分の視点からでしか物事を見れないなら、自分の感情に呑み込まれてしまいます。しかし、少し離れた視点から自分を客観視すると、クールダウンできます。

「拒絶感受性」の強い人たちの場合も、「傷つけられた!」と感じたときに、深呼吸して、「壁に止まったハエ」になったつもりで、はるか遠くにいるかのように自分を客観的に見つめるなら、冷静さを取り戻す助けになります。

イフ・ゼン(If-Then)戦略

「マシュマロテスト」やその派生の実験で、誘惑に首尾よく対処できた子どもたちの別の戦略は、イフ・ゼン戦略と呼ばれるものでした。

これは、ある状況になったら(イフ)、そのとき(ゼン)こう反応する、とあらかじめ決定して練習しておくことです。たとえば、「マシュマロを食べなよ」と言われたら、即座に「だめ!」と言うようあらかじめ準備しておきます。(p78)

拒絶感受性の強い人の場合でも、このイフ・ゼン戦略を自分で組み立てて訓練することができます。

たとえば、さきほどの13歳のリサは、批判を受けたら、それを書きとめることを習慣にしていました。もし批判されたら(イフ)、そのときは書きとめる(ゼン)という紐付けシステムを作っていたのです。

これを意識的に練習し、習慣にすれば、ちょうど骨を見せるだけでよだれを垂らすパブロフの犬の条件反射と同じく、無意識のうちに実行できるようになります。

傷つけられたときに、ショックを受けたり腹を立てたりする反応が、メモに書き留める反応にすり替わるのです。

そうすると、直情的に反応して人間関係が台無しになることがなくなりますし、書き出す作業を通じて、ちょうど「壁に止まったハエの視点」から見るように自分の状況を客観視してクールダウンできるようにもなります。

イフ・ゼン戦略は、WILLPOWER 意志力の科学でも、実行意図として紹介されていました。

意志力のないADHDの人が少しでも自己コントロールするための5つの科学的アドバイス | いつも空が見えるから

先延ばしにするスキル

「マシュマロテスト」で成功した子どもたちが用いていた3つ目の戦略は、先延ばしです。

先延ばしにするということは、言い換えると、今目の前にあるホットな誘惑を冷却し、そのかわりに、もし自制できたら(あるいはできなかったら)将来どうなるか、という未来の見通しのほうをホットに加熱するということです。(p155)

目の前のマシュマロについて考えるかわりに、ちょっと想像力を働かせて、未来をのぞき見て、「もし今マシュマロを我慢すれば、10分後、自分はどんなご褒美をもらえるだろう」、あるいは「今もし我慢できなかったら、10分後、お母さんにどんな顔で会うことになるだろう?」と想像します。

これを応用して、拒絶感受性の強い人も、傷つけられたときに、しばし立ち止まって未来のことを考えてみることが助けになります。たとえばこう考えるのはどうでしょうか。

「ここで彼のメールに反応して、過敏な返信を送ったら、あとあとどうなるだろうか。あえて今返事せず、明日まで待ってから返事を書いてもいいのではないだろうか」。

すぐに反応するのではなく、将来のことを思い描いてクールダウンするなら、衝動的で後悔するような言動をとってしまうことを避けられます。

ベストセラースタンフォードの自分を変える教室 (だいわ文庫)では、自制心を働かせるためのアドバイスの一つとして、欲求を感じたら、ただ10分待ってみることが勧められていました。

人間だけが未来を思い描く 「スタンフォードの自分を変える教室」 | いつも空が見えるから

ADHDの素因がある場合

最後に考える必要があるのは、自制心がどれほど備わっているかは、生まれつきの性質にも左右されるということです。

生まれつき自制するのが苦手な子どもは、ADHD(注意欠如多動症)と診断されることがあります。もともと脳のアクセルが優勢で、ブレーキが効きにくい場合があるのです。

ADHDの子どもは、未来についてイメージするのが難しく、自制に不可欠な先延ばし戦略が苦手な可能性があります。

「時間感覚の障害」としてのADHD―時の流れを歪ませるのはドーパミンだった? | いつも空が見えるから

また愛着崩壊子どもを愛せない大人たち (角川選書)によると、ADHDの子どもは、親の愛情に対する感受性が強く、育てられ方によって、自尊心が強くなることもあれば、逆に不安を強めることもあると言われています。

環境によっては親との愛着関係が不安定になりやすいのです。

発達障害と似て非なる「愛着崩壊 子どもを愛せない大人たち」 | いつも空が見えるから

そして親との愛着関係の安定性の度合いは、「マシュマロテスト」の結果とも密接に関連していると言われています。愛着が不安定だと、「マシュマロテスト」でも自制することが難しくなることがわかっています。(p65)

この愛着の不安定さは、「拒絶感受性」の強さとも関係しています。

たとえば支配的で構いすぎる親のもとで育つと、見捨てられ不安が強く、人間関係でトラブルを起こしやすい「抵抗/両価型」(不安型)と呼ばれる愛着スタイルになります。

そして「抵抗/両価型」の愛着スタイルは、成長すると、境界性パーソナリティ障害につながりやすいと言われています。

白と黒の世界を揺れ動く「境界性パーソナリティ障害の人の気持ちがわかる本」 | いつも空が見えるから

つまり、「拒絶感受性」の強さと、自制心の欠如の両方が、生まれつきのADHD傾向と関連している可能性があるわけです。

しかし幸いにも、今回紹介したようなさまざまな自制スキルを身につける戦略は、ADHDの子どもたちにとっても有効であるという研究が、この本で幾度も紹介されています。(p79,80,263)

もちろんADHDには医学的な薬物療法なども含めて、ほかにもさまざまな治療の選択肢があります。

いずれにしても、生まれつき自制が苦手で、感受性が強い場合でも、意識的に訓練すれば、自分をコントロールするスキルは身につけられることが保証されています。

傷つきやすさを魅力に変える

「拒絶感受性」(RS)の強さは、コントロールできなければ非常にやっかいな問題であり、一生を通して振り回されることもあります。

生まれつきADHD傾向を持っていたとされ、境界性パーソナリティ障害も発症したと言われており、「人間失格」を書き著し、最終的には自殺した作家、太宰治の人生を見れば、いかに由々しき問題であるかが容易に見て取れます。

しかし太宰治の書いた小説が今なお大勢の人の心に訴えていることから明らかなように、彼は魅力的な感受性の強さを持っていて、もし彼がそれをコントロールできたなら、さらなる才能として開花したことでしょう。

その秘訣は、ここまで書いたとおり、自制心、すなわちセルフ・コントロールのスキルを身につけるため、努力を傾けるかどうかなのです。

太宰治が生きていたころ、まだ自制についての研究は存在していませんでしたが、今ではマシュマロテストの登場以来、広範囲にわたる研究がなされ、効果的な訓練法も確立されてきています。

何十年もの間、「マシュマロテスト」の研究を通して、数々の自制できる子、できない子を見てきたウォルター・ミシェルはこう書いています。

「とはいえ、私は本当に変われるのだろうか?」という疑問につながるのであれば、ジョージ・ケリーがセラピーを受けにきた人たちに言った言葉で答えよう。

彼らは、自分の人生をコントロールできるようになるだろうかと、彼に執拗に尋ねることがよくあった。

すると彼は相手の目を真っ直ぐ覗き込んで言った―

「その気がありますか?」と。(p307)

もし、「その気がある」なら、今回紹介した本マシュマロ・テスト:成功する子・しない子はおすすめです。

科学的な研究成果に基づいて自制心を身につける方法がわかりやすく書かれていますし、著者のウォルター・ミシェル自身、自分は自制心に乏しい子どもだったと述べてはばかりません。

自分が苦手だったからこそ、人一倍熱を入れて自制心について研究し、この分野の第一人者となった彼の語り口は、とても温かく積極性に満ちていて、自制スキルを身につけたいと願う人の背中を、力強く後押ししてくれると感じました。


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