■家の中でもまぶしい、明るすぎる
■いつも目が乾いてまばたきが多い
■まぶたがピクピクする
こうしたさまざまな目の不調を訴えて眼科を受診する人たちの症状が、睡眠薬や抗不安薬の副作用によって引き起こされている場合がある、というニュースがありました。
目に強い痛みと眩しさ…安定剤、睡眠導入薬で副作用 : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)
睡眠薬で目の不調…減薬・断薬 主治医と相談 : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)
原因となる主な薬は、ベンゾジアゼピン系と呼ばれるタイプで、このタイプの睡眠薬には、マイスリー、レンドルミン、ロヒプノール、サイレースなど、抗不安薬にはデパス、ソラナックスなど様々な薬が含まれます。
しかし、症状の原因は、神経伝達物質のひとつであるGABAの受容体に作用することにあると言われていて、GABAアゴニストというタイプに含まれるほとんどの睡眠薬で副作用として表れる可能性があるようです。
自覚症状の程度には軽重がありますが、こうした症状を持っている症例のかなりの人々が共通して使用している薬があったのです。
それは、安定剤や睡眠導入薬として多用されているベンゾジアゼピン系あるいは同等の薬理作用を持つ薬の連用でした。
同等の薬理作用というのは脳内の神経伝達物質受容体のうち、「GABA」の受容体に作用する薬物で、ほとんどの睡眠導入薬が含まれます。
睡眠薬・抗不安薬の副作用による目の症状は、薬を減らしたり、やめたりすることで改善されますが、服薬期間が長いほど治りにくくなるともいわれています。
井上眼科病院の若倉雅登 名誉院長はこの症状を「ベンゾジアゼピン眼症」と名づけ、薬の副作用として情報を広めていきたいと述べています。この記事では、薬剤性の眼瞼けいれんについてのニュースをまとめてみました。
「ベンゾジアゼピン眼症」とは
今回 報道されている目の副作用については、2011年、眼瞼けいれんの診療指針に「薬の服用で起こることがある」と記載されました。
このブログでも取り上げたように、2014年には、東京医科歯科大学などの研究によって、ベンゾジアゼピン系の薬を長期服用している人では、視覚情報などを処理する脳の部分である「視床」が過剰に活動するようになることがわかりました。
ベンゾジアゼピン系の薬は、かねてから依存症状が問題となっていて、イギリスの医師による離脱のための手引きアシュトンマニュアルが多国語対応で公開されており、国内でも線維筋痛症の専門医の戸田克広先生が電子書籍抗不安薬による常用量依存―恐ろしすぎる副作用と医師の無関心、精神安定剤の罠、日本医学の闇―で警告しておられます。
睡眠障害の第一人者である国立精神・神経センターの三島和夫先生も、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の漫然とした処方や多剤併用を問題視しておられました。
こちらの眼科医の方の記事では、睡眠薬や抗不安薬が目の症状を引き起こすメカニズムが推測されています。
清澤眼科医院通信:7298:視力検査「正常」なのに目がぼやける、服薬歴を聞いてみると…
それによると、GABAアゴニストは、脳内の神経伝達物質GABAを抑制することで神経活動を抑え眠気を催し、神経を落ち着かせますが、長期間服用しているうちに、目的以外の神経活動も抑えてしまうのではないか、と書かれています。
先程の東京医科歯科大学などの研究によれば、薬によって脳を抑制することが習慣化すると、脳が本来持っているはずの抑制システムが鈍ってしまい、視床の神経細胞の興奮を抑えられなくなって、逆に神経が過敏になってしまうのではないか、とされていました。
断薬後も消えない症状 : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)
その結果、服薬中の発症患者は、全身の感覚情報を大脳に中継する視床が、健康な人よりも激しく活動していた。
薬の影響で、視床の神経細胞の興奮を抑える働きが鈍り、神経が過敏になって目の症状が引き起こされたとみられるという。
残念ながらこの副作用は、眼科医にも精神科医にもほとんど知られておらず、ベンゾジアゼピン系の薬の添付文書にも詳しい記載はないそうです。
眼科医に受診して、一般の眼科的な検査をしても目そのものには異常がなく、心理的なものとみなされたり、原因不明の眼精疲労やドライアイと見なされたりして、通り一遍な点眼薬の処方をされるだけ、ということも少なくないようです。
眼瞼けいれんの3割強が薬剤性
今回のニュースの図表によると、眼瞼けいれんの症状があるかどうかは、次のような方法でチェックできるそうです。
■10秒間、できるだけ早く軽いまばたきをする
これらがスムーズにできなければ、眼瞼けいれんの可能性があります。
井上眼科病院では、2012年に眼瞼けいれんと診断した患者1116人について調べたところ。3割強の359人が、ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬を使用していることがわかったそうです。
薬剤性の眼瞼けいれんの患者のうち半数弱は薬をやめたことで症状が改善しましたが、5年以上薬を飲み続けている人の多くは、薬の使用をやめてもあまり改善しなかったとされています。
眼精疲労や明るさ過敏といった目の症状は、発達障害やさまざまな脳神経病気からくる過敏性によって生じることもありますが、睡眠薬を服用しはじめて以降に目立ってきた場合は、薬剤性の副作用を疑う必要があるでしょう。
詳しい医師を受診する
一方で、眼瞼けいれんをはじめ、多様な目の症状は、ベンゾジアゼピン系の薬の副作用ではなく、別の原因から生じていることもあります。
たとえ原因が睡眠薬にあるとわかったとしても、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬を突然やめると厳しい離脱症状に苦しむことがあります。
原因不明の目の症状があり、睡眠薬・抗不安薬を服用している場合は、詳しい神経眼科相談医の指導のもと、原因を見極めて減薬するかどうかを決めることが大切でしょう。
日本神経眼科学会のサイトには各地域の神経眼科相談医と連絡先が載せられています。
近年では、GABAに作用する以外の睡眠薬の選択肢として、メラトニン受容体作動薬や、オレキシン受容体拮抗薬といった、別の系統の薬も登場しています。
また、国立精神・神経センターの三島先生は、不眠症の多くは、薬を用いない認知行動療法によって治療できるとも述べておられました。
第4回 目からウロコの不眠症治療法 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト
さまざまな選択肢があることを知った上で適切な治療を選び、もしベンゾジアゼピン系の薬を使う場合でも漫然と長期服用したりせず、一時的な使用に留めるよう、よく医師と相談する必要がありそうです。