これは認知行動療法を用いて、さまざまな疾患を治療する手法を紹介した本、臨床が変わる! PT・OTのための認知行動療法入門に基づく記事の最後です。
線維筋痛症(FM)や慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎(CFS/ME)と、認知行動療法についての情報をまとめています。
前回の部分では、CFSやFMの患者が過活動と過度の休息の悪循環に陥りやすいこと、それを打ち破るには認知行動療法によって信念を調節し、段階的運動療法に取り組むことが大切であることを説明しました。
この3番目の部分では、日記をつけることや否定的な自問自答を改善することについて書きます。
信念を無効化する積極的データ記録
載せられている線維筋痛症の症例では、段階的運動療法のエクササイズプログラムと並行して、否定的かつ自身を何もできない状態にする信念構造を無効化する訓練がとられました。
たとえば彼女は、次のような、「不良な予後をもたらす可能性が極めて高い信念」をもっていました。(P147)
◆予後に関する否定的な信念
◆線維筋痛症に関連した問題はすべて純粋に身体的なものであり、ストレスとは無関係であるという信念
◆心理社会的因子に目を向けると、病気が「本物である」ことが否定され、問題を「すべて心の中のもの」とみなして、苦痛が認められなくなるという信念
◆症状を軽減するには受動的な方法しかないという信念
◆身体的な活動は症状を悪化させるという信念
◆活動によって生じる遅発性の筋肉痛や疲労を症状の増強と誤解していること
このような信念をもっていると、認知行動療法や段階的運動療法を拒み、ひたすら休養するだけで筋力が低下し、自分では何もできないと考えて主体的な行動がなくなってしまいます。
それで、彼女が勧められたのは、線維筋痛症の中枢神経系の調節の概念について学び、ストレスも体調に影響することを知ること、そして、ストレス/疼痛日誌をつけることでした。
ストレス/疼痛日誌では、記録を続けた結果、ストレスを感じてから1-6時間後に痛みが悪化しているという関連性がわかったそうです。そのことにより、自分の努力次第で、症状を改善することも可能なのだ、という認識(内的統制)が強まりました。(P148)
慢性疲労症候群(CFS)の症例でも、
◆「私はダメだ、私は決してよくならない」
◆「疲労を少しでも感じたら、すぐに運動をやめなければいけない」
といった否定的考えを抱いていたことが書かれています。(P166)
この場合も、正しい知識を取り入れることと、活動・休養・睡眠パターンを記録することとが勧められました。これは、できごとが起きたときごとに記録することで、何が疲労の症状と関係しているかを知る記録です。
何を行っているかを記録し、パターンを見つけ、少しずつ活動を増やすことによって、身体の調子が改善しました。自分は無力で何もできない、と考えることもなくなりました。(P168)
否定的な自問自答を認識し、挑戦する
認知行動療法には、否定的な思考サイクルを認識し、それに挑戦することも含まれます。
たとえば、以下のような否定的なサイクルがあるかもしれません。(P128)
みんなで海岸に出かけようとしている。自分自身に言い聞かせる。「私はドライブなどできない。海岸へは2時間もかかり、そんなに長いこと座っていられないから」。
以前に海岸へドライブした後には3日間も疼痛の再発で寝こんでいた。海岸のドライブに参加しない。…行けないことでひどく惨めに感じられ、疎外感、絶望感そして憂うつになる。
否定的な思考サイクルに挑戦するとこうなります。(P129)
みんなで海岸に出かけようとしている。自分自身に言い聞かせる。「私はドライブなどできない。海岸へは2時間もかかり、そんなに長いこと座っていられないから」。
そこであなたはこう考える。「私は、2時間連続で座っていられないけれども、40分ごとに車を止めて、休むなどすれば海岸まで行ける」。
海岸に行くということに気分がとてもよくなる。…海岸までドライブをして、家族と外出できたことにあなたは充実感をもつ。
否定的サイクルを認識し、挑戦することは簡単ではありません。「それは技能であり、練習を要する」とあります。
否定的なサイクルに気づくには、ソクラテス的質問法によって、自分に問いかけてみるのが役立つかもしれません。
ソクラテス的質問法(誘導的発見法)は、認知行動療法の大きな特徴の1つで、自分の感情や自動思考への気づきをもたらす一連の質問形式のことです。(P10)
自分に対して(本来はクライアントに対して)以下のように問いかけてみることができます。(P175)
◆何が頭のなかをよぎりましたか?
◆それについてあなたはどう思いますか?
◆それはあなたにとって何を意味しますか?
◆それを支持する証拠は何ですか?
◆そのことについて他にどのように考えられますか?
◆そのことについてどのように説明しますか?
◆あなたの選択の何が利点で何が欠点ですか?
◆そのことについてあなたが理解していることは何ですか?
◆もしそれが真実とすると、あなたにとって何を意味しますか?
◆もし誰か他の人があなたにそのように言ったら、たなたはどのように答えますか?
自分の体調については自分がいちばん詳しい専門家です。こうした自問自答を通して、具体的な問題点を明らかにし、実際的な解決策を見出すことができます。
そのほかにできること
そのほかにできることとして、次のようなものがありました。
慢性疾患をもつと、常に緊張していることがあるので、リラクセーション技法(漸進的筋弛緩法と腹式呼吸)を学ぶことは大切です。(P89)
また、長期間引きこもることによって恐怖回避や運動恐怖症が身についてしまったり、生活技能が失われたりするので、回避していた状況に徐々に身を置く現実暴露(P90)、日常生活のさまざまな技能を取り戻す技能訓練(P102)などについて説明されています。
また、これは、サイトを運営している身としては耳が痛いことなのですが、CFSの情報を集める際に、インターネットを利用することの危険に注意が喚起されています。
Wrightが1999年に調べた時点では、13のウェブサイトのうち、6つのサイトだけが、休息と活動について考察しており、2つだけが段階的な運動を推奨していました。
中には、長期間の休養を勧めるというふさわしくないサイトも2つありました。4-6週間のベッド上での休養は筋力を40%低下させることがわかっています。(p168)
また多くのサイトは、食事療法、代替療法、薬物療法の詳細を示していましたが、これらのアプローチについてのエビデンスは限定的です。
ほとんどの研究で、免疫物質、抗ウイルス薬は疲労やCFSの他の症状の治療に効果があるとはいえないと報告されているそうです。
また自助グループの働きに関しても、自助グループと専門家との間で意見の不一致がみられることが指摘されています。サポートネットワークから益を得ている患者がいることは事実ですが、そのメンバーであることは予後不良の一因になりうるという報告もあります。(p157)
わたしのサイトの内容にも、医学的論文に基づいていない部分はたくさんあります。多くは書籍に基づいて書いていますが、その書籍の著者が勝手に書いていることかもしれません。
そのようなわけで、治療法をインターネットで探す際には、気をつけることが必要です。
今のところ、CFSの治療法で医学的エビデンスがあるといわれているのは認知行動療法と段階的運動療法だけなのです。
認知行動療法と段階的運動療法について読んでみて
◆認知行動療法は万能ではない
今回読んだ本は、2008年のものなので、少し情報としては古くなっているかもしれません。90年代の論文からの引用も多かったため、今では状況が変わっている箇所もあると思います。
この本では、認知行動療法と段階的運動療法は、CFSの治療法としてエビデンスがあることが強調されていますが、その点について疑問が呈されているということを主治医から聞いています。
また、文中で触れましたが、認知行動療法が効くと言われると、心の問題ではないか、と考えられてしまうおそれも確かに危ういと感じました。
「病気には実態があり身体的なものか、あるいは精神病/心身症しかないとする社会環境で育ち、ゆえにデカルトの心身二元論の誤解をしている一部の臨床家」には理解できないと書かれていましたが、そんな人はごろごろいるものです。
この本自体も、線維筋痛症や慢性疲労症候群における精神面の影響を大きく考えすぎていて、特に重症者のことを考えていないような印象を受けました。
医師が患者の話をよく聞かず、多くの人に認知行動療法と段階的運動療法が効果があったから、あなたもできるはず、というような指導をするなら、(わたし自身そのような経験があるのですが)患者の実態にそぐわない的外れな治療になってしまう可能性もあります。
段階的運動療法といっても、1日5分が精一杯な人もいれば20分ないしはそれ以上できる人もいるので、画一的な指導をしようとすると、かえって患者を苦しめるでしょう。
慢性疲労症候群(CFS)という診断は除外診断であって、さまざまな患者を含んでいます。みんな同じ体調ではないのです。
もちろん、このような危うさがあるからといって認知行動療法を避けてしまうのは、患者にとって不利益となると思います。
健康な人でさえ自分の認知の歪みのためにストレスを抱えてしまうのですから、ストレスマネジメントの一環として、自分の思考パターンを制御する方法を知っているほうが、CFSと付き合いやすくなるはずです。
◆今回学んだ5つの技法
今回学んだことは、ペース配分、ゴール設定、段階的運動療法、日記をつけること、否定的サイクルの打破の5つに要約できるといえます。
ペース配分やゴール設定についてはあまり計画的に行動しているとはいえないので、無理のないベースラインを探したいと思いました。SMARTの法則は意識したいと思います。
段階的運動療法としては、1日10分の運動をしていますが、定期的なウォーキングをしたほうがよいかもしれないとも思っています。
疲労したときに、休むのではなく、段階的な運動をするというのを試してみました。わたしの場合、疲労感が強いときは、脳の覚醒レベルが低下しているようで、寝るより運動するほうが症状が和らぐ気がします。嬉しい発見でした。
日記をつけることは、一応続けていますが、非常に簡略化したものとなっています。もう少し書けるようになりたいところです。
否定的な自問自答については、社交的な場などを意図的に避けるようになる恐怖回避に陥りかけています。悪いサイクルに入ってしまっているので、気をつけたいと思いました。
文中で触れたように、認知行動療法も段階的運動療法もCFSを治すものではありません。CFSによる影響に対処しやすくするものです。しかも、本来は専門家による指導のもとで行うものです。
そう考えるとがっかりしてしまうかもしれませんが、少しでも内容を知っていて、個人で実践してみることは大切だと思います。たとえば、運動に対する正しい見方を知っているだけでずいぶん違います。
いつかもっと根本的な治療法が登場する日まで、認知行動療法や段階的運動療法を実践して、病気とうまく付き合っていくことは大切だと思いました。
慢性疲労症候群(CFS)と認知行動療法・段階的運動療法について書いた日本の文献には以下のものがあるのであわせてご覧ください。
また、簡単に認知行動療法をやってみたいなら、月額制ですが、ウェブベースの認知行動療法ができるサイトもあるようです。
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