集中できないときと没頭しすぎるときの落差が激しい、計画を立てられない、いつも先延ばしにして期限に間に合わない、大事な予定を忘れてすっぽかす、単純作業が死ぬほど退屈だ、自制が利かず依存してしまう…
社会に出てから、こうした特徴に悩み、もしかすると自分はADHDなのではないか、と悩む大人が増えています。そのような症状はどの程度ADHDと関係しているのでしょうか。具体的に、どんな場面で困ることになるのでしょうか。
図解 よくわかる大人のADHDを参考に、大人のADHDの10の特徴をチェックポイントとしてまとめてみました。よく混同される自閉症スペクトラム障害(ASD)、特にアスペルガー症候群(AS)との違いについて、また大人のADHDへの対応についても簡単に付記しています。
大人のADHDの10のチェックポイント
大人のADHD(注意欠陥・多動性障害/注意欠如・多動症)には以下のような10の特徴があるそうです。
1.子どものころから悩んでいた
幼いころからその特性をよく知り、理解してくれる身近な人たちに支えられてきた小さな社会から足を踏み出したとき、初めて大きな壁にぶつかるADHDの人も少なくありません。
その時期が、成人してからという場合もあるでしょう。そして、そのときになってようやく、自分がADHDだと気づくこともあるのです。(p33)
ADHDは大人になってから突然生じるものではありません。ADHDは比較的遺伝することが多く、兄弟姉妹にADHDがある場合は25-35%、一卵性双生児では55-92%、両親ともADHDの場合は20-54%でADHDが現れるという各種研究があります。(p38)
大人になってからADHDと診断される人は、症状がそれほど強くないか、周囲が寛容だったかして、ADHDだとわからなかったケースです。また成績優秀なこともあります。
本書に出てくるAさんは、遅刻王、忘れ物王でしたが、授業の飲み込みは早く、テストではいつも好成績だったため、子供時代にADHDを疑われることはありませんでした。
しかし継続が苦手だったので、高校や大学でつまずき、社会人になってから、自分がADHDだと気づきました。(p140)
それに対し、もし子ども時代に症状が思い当たらず、親に聞いても、当てはまるような点が見つからず、大人になってから症状が出たと思われる場合は、うつ病、統合失調症、双極性障害など、別の要因を考える必要があります。
2.集中できない
「注意散漫」であることは、ADHDの特徴のひとつです。物事に集中できないために仕事や課題がはかどらなかったり、ミスをしやすくなったりし、結果として低い評価しか受けられなくなります。(p10)
ADHDのADは「Attention Deficit」注意欠陥、不注意を意味しています。
ADHDは、通常「不注意」「衝動性」「多動性」の3つの症状が強く表れますが、そのうち「不注意」は大人になっても残ることが多いそうです。
たとえば、授業を聞いていたり、人と会話していたりすると、自分の意思とは関係なく、意識がふっと飛んでしまい、話が頭に入ってこなくなることがあります。無意識のうちに集中が切れてしまうのです。
これは、ほんのささいな刺激にも過剰に反応して、気が散ってしまうためです。気が散ることはふつうの人にもありますが、ADHDの場合は度が過ぎています。
不注意のために事故に遭う可能性はとても高く、交通事故につながったり、労災事故を引き起こしたりします。(p26)
いっぽうで、ADHDの人は興味のある対象には過度に集中して没頭してしまうこと(過集中)があります。寝食を忘れて没頭してしまい、気づくと何かの予定や約束事、また寝る時間が過ぎていたということもあります。(p118)
この場合、不注意か過集中かの両極端になりがちです。集中できることと、集中できないことの落差が激しいため、「やればできるのに」「本当の力を出していない」と誤解を受けやすくなります。(p116)
▼前頭前野の血流
ADHDの人は前頭前野の血流量が通常の人より少なく、自分の注意や感情、行動のコントロール(実行機能)がしにくいというデータがあるそうです。(p36)
▼ボディイメージが弱い
怪我をする要因は不注意以外にもあります。発達障害のある人は、ボディイメージ(脳の中で思い描く、自分の体の部位の位置やその動き)が弱く、危険のないように動いたつもりが、体をどこかにぶつけて怪我をしたりしがちです。(p106)
3.計画的にできない
いくつかの課題や仕事を前にして、それをどの順番で、どのくらいの時間をかけてこなしていくかをイメージすることが苦手です。(p12)
ADHDの人は、複数の課題や作業を並行して進めることが苦手です。段取りを組むことが不得意なのです。
それなのに、いろいろなことに目移りしやすく、複数の作業を一度にかかえて、同時にやりたがる傾向があります。どれも中途半端に手をつけたまま、結局すべて完成しないといった事態に陥りがちです。
これには、優先順位をつけられないという問題も関係しています。あるレポートの提出期限が明日に迫っているのに、長期的に取り組めばいい卒業論文のほうが気になってしまい、そちらにとりかかってしまうといったことが起こります。
自分の興味や関心のあることにすぐ取りかかってしまい、逆に急がなければならないことでも、つまらないものだと感じたら、手をつける気持ちがわかず、後回しにしてしまうのです。
このような特性から、「自分勝手な人」「気分屋」「信頼できない人」と思われてしまいます。
▼ドーパミンの働きの低下
ADHDの人はドーパミンやノルアドレナリンの働きが低下しているといいます。ドーパミンは目的をもって行う行動に重要な役割を果たしています。ADHDの人の3割はドーパミンの再取り込みが過剰に働いてしまい、神経伝達がスムーズに行われません。(p37)
4.人の話が聞けない
ADHDがあると、人の話を最後まで聞けないことが少なくありません。説明を聞かないまま始めて失敗したり、聞き手でいることができないために人間関係に溝をつくってしまうこともあります。(p14)
ADHDの人は、前述のように人の話に集中することが苦手です。自分には関係がない、つまらないと感じると気もそぞろになってしまいます。
また、ADHDの人は、ワーキングメモリー(作業記憶)の容量が少ないので、一度にたくさんの情報を処理できず、長い説明や指示に混乱することもあります。人の話や本の内容を途中まで理解して、すぐにわかったと早合点してしまい、浅はかな理解のまま行動することもしばしばです。
さらに、話したいことが頭に浮かぶと、相手の言葉をさえぎって話し始めてしまうこともあります。
そうなるのは、自分の言いたいことを思いついたら、すぐに言わないと忘れてしまうからです。またひとつのこと(自分の考え)に集中すると別のこと(相手の話)に集中できなくなります。加えて、自制が聞かず、衝動のままに行動してしまいます。
5.先延ばしにする
手間のかかる仕事にとりかかろうとするとき、なかなか着手できずに先延ばしにしてしまう傾向があります。(p16)
大事な仕事、集中力がいること、時間のかかりそうなことをつい後回しにするのもADHDの特徴です。
その際「めんどくさい」「気が乗らない」「まだ時間はある」などと言い訳します。そうしているうちに期限ギリギリになり、追い込まれることでやっと集中力が発揮されるようになりますが、とき既に遅しということもあります。
この背景には、ADHD特有の見通しの甘さがあります。ふつうの人なら計画的に時間配分し、期限から逆算して予定を立てることができるのに、ADHDの人は「大急ぎでやればなんとかなるだろう」と楽観的にかまえているのです。
実際に、過集中という特技があるので、人なら5時間かかる仕事を3時間で終わらせることができる場合があります。そのため妙な自信を持つのですが、いつもそううまく運ぶとは限りません。さらにうまくいったとしても体に大きな負担をかけてしまいます。
また、前述のようにいろいろなことに目移りしやすく、やりたいことを沢山かかえるために、やるべきことが後回しになってしまうことがよくあります。いろいろなことに手を出さずにはいられないのです。
▼実行機能の障害
脳には、目標達成のために自らの注意や行動を制御する能力、状況や場面に応じて適切な反応や行動をとる能力があり、これを実行機能と呼びます。アメリカの精神科医、トーマス・E・ブラウンは、特にADHDでは、取りかかり・焦点化・努力・記憶・行動の実行機能が低下しているとしました。(p40)
▼報酬系の働きが弱い
脳の報酬系の働きが弱いため、何かを達成する十分な動機付けが得られないという研究もあります。
6.忘れっぽい
長期的な記憶力は比較的良好ですが、いま聞いたことや頼まれたことがすっぽりと頭から抜けてしまうことがあります。これにはワーキングメモリの不調が関与していると考えられます。(p18)
ADHDがあると、忘れ物をしやすく、ものをよく失くします。出かけるたびに、財布や鍵などの必需品を忘れて家を出ますし、かばんなどを外出先に忘れてきます。用事をしながら、何気なくものをいろんなところに置き、そのまま忘れてしまうのです。
また、いろんなものに目移りするあまり、今何をやっているかを忘れることがあります。料理をしていて砂糖が切れていたので買い物に出かけると、タイムセールにでくわして野菜を買い込み、砂糖を買い忘れるといったようなことです。部屋の片付けをしていると見つけたマンガに熱中したり、ネットで調べ物をしていると、いつの間にかまったく別のものを見ていたりします。
刺激にさらされるたびに関心や意欲の対象がコロコロ変わるので、作業や仕事はいつまでも終わりません。
これも脳の中のワーキングメモリーの機能に問題があるためと考えられています。
7.飽きっぽい
デスクワークや単調な仕事が苦手というのも、ADHDの特性のひとつです。刺激や変化の少ない状況に置かれることが耐えがたく、そわそわしたり、仕事を途中で放ってしまったりします。(p20)
ADHDの人は変化や刺激に乏しい単純作業(伝票の打ち込みや点検の繰り返しなど)が苦手です。
過集中があるため、短時間にぐっと集中力を高めてこなす仕事は得意ですが、何日もかけて完成させるプロジェクトや、週単位、月単位で取り組む地道な作業の繰り返し、受験勉強、レポートや論文の作成はうまくいきません。過集中は長くても一日~数日が限度なのです。
長期的な仕事になると、途中で気力が途切れてしまい、そのころには別のことに興味が移っていることもあります。忍耐が続かない、責任感がないと思われてしまいます。
8.何事にもはまりやすい
一度「はまる」とほどほどのところでやめることができない。(p23)
ADHDの人はさまざまな欲求をコントロールするのも苦手です。ほしいと思うものには執着しがちで、買い物依存症になったりします。また、インターネットやSNSやゲームにはまってやめられなくなることがあります。ほどほどのところでやめることができないのです。
さらにADHDの人はすぐにカッとなることがあります。感情のコントロールが利かないというのも、ADHDの特性のひとつです。些細なことで、突然かんしゃくを起こして当たり散らしたりします。
こうしたコントロールが利かない背景には、前頭前野の血流低下や、ドーパミンの減少があるようです。
9.思いついたら実行する
ADHDがある人は、アイデアが豊富な人が多く、独創性のある企画力を発揮します。しかし、アイデアを企画書にまとめることが苦手なため、せっかくのアイデアを生かし切れないことがあります。(p24)
ADHDの人は多彩なアイデアを湯水のごとく湧き上がらせます。そのため「思いついたら実行する」というパターンは得意です。
ところが、逆に言うと、実行するためのプランを立てたり、話しあって、じっくり計画を練り上げたりすることができません。
計画も立てずに、すぐアイデアを実行に移すので、他の人と足並みをそろえて、地道に取り組むということができません。
これは、調和と秩序を重んじる日本社会では疎まれやすい傾向です。
10.二次的に別の精神疾患などを抱えやすい
長年、さまざまな心的ストレスにさらされてきたADHDの人の中には、表だって現れる症状が不安障害やうつ病であり、ベースにあるADHDが隠れてしまっている場合があるからです。(p43)
大人のADHDは、子どもと違い、社会や家庭で担う役割や責任が重く、失敗などからくるダメージが大きくなります。
さらに、ADHDとの付き合いが長いため、困難を感じながら生きた年月も長く、長期間ストレスを感じていることがよくあります。そのため、自尊感情(セルフエスティーム)が低下し、二次的に別の精神疾患などを引き起こすリスクが高くなっています。
アンターソンの研究によると、うつの57%、バードの研究によると、うつの48%にADHDが見られるとさえ言われています。
▼重ね着症候群
統合失調症やパーソナリティ障害、摂食障害、さまざまな治りにくい精神科疾患、いろいろな身体症状を訴える心身症。その背後に、子どものときから見過ごされていた未診断の発達障害があるという概念は「重ね着症候群」として注目されています。
「重ね着症候群」について詳しくは以下の記事をご覧ください。
▼疲れや痛みに過敏なことも
過度の疲れや痛みを感じる場合、ADHDのせいで不快刺激を隔離できないためにそうした感覚が生じていることがあります。
自閉症スペクトラム障害(ASD)/アスペルガーとの違い
ここまで大人のADHDの特徴10個を見てきましたが、発達障害と呼ばれるものには、ADHDのほかに、学習障害(LD)、広汎性発達障害/自閉症スペクトラム障害(ASD)などがあります。自閉症スペクトラム障害のうち、アスペルガー症候群は、しばしばADHDと比較されます。ADHDの人はASDの併存率が5-6%あるそうです。(p47)
自閉症スペクトラム障害の特徴には、以下のような特徴があります。
■コミュニケーションが苦手
■感情を読むのが苦手
■こだわりが強い
■パニックを起こしやすい
しかし、両者の症状は一見似ているように思えても、根本のところでは大幅に違います。その例を3つ挙げてみましょう
1.気持ちがわかる/わからない
図解 よくわかる大人の発達障害によると、ADHDの人と自閉症スペクトラム障害の人は、どちらも人に迷惑な行動をとってしまうため、一般の人からは一緒くたにされがちです。しかしその実情は大きく異なります。
ADHDの場合は、周囲に迷惑をかけるとわかっていながら、ついつい不注意と衝動性から他人に迷惑をかけてしまいます。
自閉症スペクトラム障害の場合は、他人の考えを汲み取りにくく、気持ちがわからないから、本人は良かれと思って他人に迷惑をかけてしまいます。(p21)
2.広く浅く/狭く深く
ADHDの人も、自閉症スペクトラム障害の人もどちらも興味のあることを追求するため専門家に向いています。しかしやはり知識の取り入れ方が異なります。
ADHDの人は「新奇性探求」といって、つねに新しいものに接していないと満足できません。同じことを繰り返し調べたりするのではなく、次々に新しいことを求め、広く浅い知識を持ちます。ひとつのことに過集中できるのは、1日などの短期間です。
自閉症スペクトラム障害の人はこだわりが強いので、興味の対象が限定的で、狭く深い知識を持ちます。長い期間、一つの対象に過集中しつづけることができます。(p21)
3.単純作業が得意/不得意
ADHDの人は、家事や事務などの単純作業は大の苦手で、すぐに気が散ってしまいます。
自閉症スペクトラム障害の人は単純作業を根気良く続けることが得意です。
大人のADHDに対処する
大人のADHDを診る医療機関は少ないので、インターネットなどで診断できる医療機関を探す必要があります。
大人のADHDの評価尺度としては、C・キース・コナーズ博士が開発した「CAARS:Conners’ Adult ADHD Rating Scales」(コナーズの大人のADHD評価スケール)が使われることもあります。これは66の質問から、ADHDの重症度を判別するものです。(p56)
ほかに地域の発達障害者支援センターや自助グループ、患者会が助けになります。
治療には、薬物療法、環境調整法、認知行動療法があります。(p60)
特に使われる薬物はコンサータ(メチルフェニデート)です。ドーパミンを活性化させる薬で、薬効が約12時間持続します。18mg(1錠)から最大72gまで増やせます。大人のADHDの78%に効果があったという研究もあるそうです。
次いで有効なのはストラテラ(アトモキセチン)です。こちらはノルアドレナリンを活性化させます。同様の作用があるカタプレス(クロニジン)も有効です。(p64)
ここで参照してきた図解 よくわかる大人のADHDの後半部分には、生活で役立ついろいろなアドバイスが書かれています。
■オンラインでスケジュールを確認でき、リマインダーのあるサービス(Googleカレンダーなど)を活用する。(p78)
■紙の書類はデータにする。(Evernoteなどを活用) (p80)
■苦手な分野はサポートを頼み、感謝の言葉を忘れない。(p83)
■環境音やBGMをかけて作業する。(p84)
■To doリストのサービス(ToodledoやRemember The Milk)を使う。(p87)
■過集中しすぎるのを防ぐためタイマーをかける。(p89)
■心に思ったことをすぐ口に出さないよう訓練。(p90)
■相手に聞かれるまで自分のことを話さないくらいがちょうどいい。(p141)
■ものを別の場所にもっていかない。定位置を決める。(p99)
■ソーシャルスキルを身につける。(p122)
詳しくは本書、あるいは類書を参考にしてください。
大人のADHDは、厄介な問題ではあるものの、サポートしてくれる医療機関や仲間をうまく見つけることができれば、長所として活かしていくこともできます。ADHDの人持つ、発想力、行動力、会話力などは、時代が求めているものです。
大人のADHDをよく理解し、適切な対処をすれば、さまざまな未来が開けるに違いありません。
▼アスペルガー、ADHDを自己チェックできるサイト
ADHDやアスペルガーを詳しい質問でチェックできるサイトがあります。自己診断はあまり望ましくありませんが、参考として役立てることはできます。どちらも、医療機関で使われているものを参考にしているようです。