うつと間違われやすく、日本の医者の9割が知らない症状「副腎疲労」(アドレナル・ファティーグ)。
副腎が疲労し、適切なコルチゾールが分泌できなくなると、だるさや無気力などの不調が起こりやすい。
副腎疲労に関する2014年11月に発行された最新書籍「うつ?」と思ったら副腎疲労を疑いなさい 9割の医者が知らないストレス社会の新病 (SB新書)をやっと読みました。
慢性疲労症候群や線維筋痛症、不登校などにも関わっているとみられる副腎疲労。幸いにもメカニズムや治療法はある程度分かっており、自宅でできるセルフケアもあります。
副腎疲労とはいったいどんな問題なのでしょうか。ほかの難しい病気とはどう関わっているのでしょうか。このブログで何度か取り上げてきた副腎疲労ですが、今回もこの本に基づいて簡単に紹介したいと思います。
これはどんな本?
この本は、スクエアクリニックの本間良子先生、本間龍介先生ご夫妻によるものです。
本間龍介先生は、自身が副腎疲労(アドレナル・ファティーグ)で苦しんだことをきっかけに、米国の副腎疲労の権威、ジェームズ・L・ウィルソン先生に師事し、日本でも副腎疲労の外来を開きました。
この本は、副腎疲労とその周辺の話題について簡単にまとめた本です。
悪く言えば、これまでのいろいろな健康法のいいとこ取りの本ですが、副腎疲労という概念を中心に手堅くまとまっているとも言えます。
食生活やストレスマネジメントのアドバイスは簡潔ながらもポイントはついていて、しっかり実践すれば効果があると思います。
アドレナルファティーグの本には、前にこのブログでまとめたウィルソン先生の医者も知らないアドレナル・ファティーグ―疲労ストレスは撃退できる!もありますが、読みやすさの点ではこちらが格段に上です。
また、日本人に合わせてウィルソン先生のアドバイスを修正しているところもあります。(p133)
ひとつ気になったのは、この本では、これまでよく見かけた「副腎疲労症候群」という名称は使われていないことです。一貫して「副腎疲労」であり、医学的に認められた疾患群や症候群でははないことが強調されています。(p7)
副腎疲労は病名ではなく、体の状態、症状を指す概念である、ということも書かれている点に、注意したいところです。(p20)
副腎疲労の3つの原因
副腎疲労を説明するには、以下の3つの点が大切だと思います。
1.ストレスによる副腎の疲労
副腎は左右の腎臓の上にある小さな臓器です。まんじゅうに例えると皮の部分が副腎皮質と呼ばれ、コルチゾールなどのステロイドホルモンを作っています。あんの部分は副腎髄質と呼ばれ、ノルアドレナリン、ドーパミンなどのカテコールアミンを作っています。(p45)
どちらも大事なホルモンや神経伝達物質ですが、さまざまなストレスによって副腎の機能が低下すると、これらの生産が悪くなり、疲労などの全身の不調が現れてしまいます。
特にコルチゾールは、体の炎症などが生じたときに「火消し」として作用する抗ストレスホルモンなので、それがうまく分泌されないと慢性的な疲労状態に陥りがちです。
ちなみに慢性疲労症候群では血中コルチゾールが低下し、うつ病では増加することが分かっています。
2.リーキーガット症候群
腸内細菌叢の乱れ、カンジダ菌、IgGなどのフードアレルギー、飲み薬などによって、腸の粘膜が傷つくと、有害物質が吸収されやすい状況になります。これをリーキーガット症候群(腸漏れ症候群)といいます。
リーキーガット症候群になると、未分解の分子などが腸を透過してしまい、異物だと認識されて炎症が起こってしまいます。
炎症にはコルチゾールが使われるので、結果として副腎が疲労してしまいます。(p75)
3.重金属の蓄積
最近の研究で、腸と脳は互いに相関関係にあることがわかってきたといいます。これを腸脳相関といいます。
これまで、脳にはBBB(ブラッド・ブレイン・バリア、血液脳関門)があるので、腸と脳は互いに独立していると考えられてきましたが、どうやらBBBは万能ではないことが明らかになりつつあります。
たとえば、死後脳を解剖すると、アルツハイマー型の認知症の人では、アルミニウムが蓄積していたり、パーキンソン病の人では水銀や鉛が蓄積していたりすることが判明しているそうです。(p80)
これは、有害物質である重金属が、腸で吸収されて、その後、脳に蓄積されている可能性を示すものです。
イタイイタイ病や水俣病といった急性の重金属中毒と違い、食品などからじわじわと吸収される重金属の害は気づかれにくいといいます。
検査によっても分かりにくく、多く排出されているために蓄積が判明する人もいれば、そもそも排出能力が弱っていて、検査に現れない人もいます。(p162)
このように、副腎疲労には、さまざまなストレスによる副腎の疲労と、腸内環境や食事内容によるダメージが関係しています。
対処するには、ストレスマネジメントと、食生活の見直しが必要であり、本書の大部分は具体的なアドバイスで占められています。
慢性疲労症候群と副腎疲労の関係
さて、このブログとして気になるのは、慢性疲労症候群と副腎疲労の関係ですが、その点についてははっきりこう言明されています。
副腎疲労と慢性疲労症候群も非常によく似ています。そして、肝心なのは慢性疲労症候群にあてはまる人は、ほぼ間違いなく副腎疲労を伴っているという事実。(p21)
副腎疲労か慢性疲労症候群かという問題ではなく、慢性疲労症候群には必ず副腎疲労が関わっているとされています。
しかし、副腎疲労を治療すれば、速やかに慢性疲労症候群が治ると誇大広告を打っているわけではありません。
分泌量を「適量」にするためのシステムは、脳の視床下部→下垂体→副腎皮質がデリケートに連携することによって成り立っています。
…うつ病や慢性疲労症候群、線維筋痛症、そのほか原因不明とされる病気の多くは、この機能不全が関与しているのではないかと考えられています。
また、脳の視床下部に問題がある場合は、副腎疲労の治療にも難儀します。(p67-68)
副腎疲労の治療としてストレスマネジメントや食生活の見直しを取り入れることは、慢性疲労症候群にとって助けになりますが、どのくらい効果があるかは人によって異なります。
それでも、原因不明で治療のしようがないと見られているこれらの病気でも、改善する見込みがあるということは確かです。
本書の執筆者である本間龍介先生は、中学校で不登校を経験し、大学院では、ほぼ慢性疲労症候群といってもよい状態になりました。
しかしアメリカの副腎疲労の第一人者ジェームズ・L・ウィルソン先生に「あなたは副腎疲労です」と言われて、
「……ということは、治る見込みがあるんだ!」
と思えたといいます。
▼頭にもやがかかったような感じ
慢性疲労症候群の特徴として、頭にもやがかかったような感じ(ブレイン・フォグ)がありますが、この本によると、そうした症状はリーキーガット症候群で生じます。
リーキーガット症候群があると、腸だけでなく脳にも悪影響を及ぼし、頭がボーっとしたり、必要なことをこなせなくなるとも言われています。(p78)
実際に具体例として、頭にもやがかかったような感じを訴え、若年性の認知症になったのではないかと悩んでいた40代のAさんが出ています。(p40)
この人の場合は、食生活の見直しにより、一ヶ月半後にスッキリしてきたそうです。
不登校と副腎疲労
前述の本間先生の経験が示唆するように、不登校やひきこもりにも、副腎疲労が関わっているといいます。不登校は慢性疲労症候群と深くつながっていることは、このブログに書いてきたとおりです。
不登校と関係する小児慢性疲労症候群や起立性調節障害の特徴の一つは朝起きられないことですが、それもやはり副腎疲労と関係しています。
朝、なかなか起きられないのは、副腎疲労の典型的な症状の一つです。(p186)
朝は本人が十分に寝たと感じられるまで眠ってから起きるのが理想です。…副腎疲労があると朝は起きるのがつらいもの。そういった人はどうぞ大いに朝寝坊をしてください(p154)
こうした特徴はしばしば、心の弱さと混同されがちですが、この本では、はっきりと否定されています。
本人の性格などに帰着されることにずっと苦悩してきたのです。私に限らず、副腎疲労で苦しんでいる人は、「気の持ちようだ」などと言われた経験がある人がほとんどです。(p86)
彼らが特に心が弱いというわけではありません。自己防衛本能として引きこもりやニートにななっているのだとすれば、副腎疲労を取り除き、社会生活のストレスに対抗できる心身を作り上げることが、いい結果につながると思います。(p188)
たとえ心の問題があるとしても、副腎疲労のケアは役立つといいます。本書では、イラクに派遣された米兵のPTSDなどに対して、ウィルソン先生が副腎疲労の考え方を用いてストレスケアしていることが書かれています。(p189)
また発達障害が由来の問題についても、前述の腸脳相関の関係から、副腎疲労のサポートが役立つと書かれています。
学習症あるいは自閉症といった病気に対して、「脳に異常があるからどうしようもない」とあきらめたり、「性格だから、個性だから、ありのままを受け入れよう」という方向に走るのも問題です。(p198)
自閉症と腸が関係するという話は最近のニュースでもありました。
不登校と小児慢性疲労症候群に関する三池先生の研究によると、不登校の子どもはコルチゾールの分泌が少なくなり、分泌リズムがずれたり平坦化したりしていることが示唆されていますが、この本でも、コルチゾールの分泌リズムが乱れて、心身の不調になることが触れられています。(p69)
衝撃的だったのは、コルチゾールの一生の分泌量には限りがあるかもしれないという点でした。これは、インスリンの一生の分泌量が決まっているのではないか、という説から導かれている推測ですが、もしそうなら、大きなストレスを浴び続けてしまうと、慢性的なコルチゾールの分泌低下という副腎疲労に陥ってしまい、回復が難しいということになります。やはりストレスマネジメントは大切です。(p70)
副腎疲労は改善できる
ここまで、本書に書かれている副腎疲労のメカニズムや、副腎疲労と他の疾患との関係にしぼって取り上げてきましたが、本書の大部分は、前述したように、副腎疲労を改善するアドバイスから成り立っています。
■どんな食品を摂ればいいか
■どんな食品は避けるべきか
■副腎疲労につながる生活習慣にはどんなものがあるか
■ストレスを減らすための技法
■考え方に関するアドバイス
などが書かれています。
副腎疲労に悩んでいる人はぜひ、自ら本書を手にとって、それぞれのアドバイスを実践してほしいと思います。生活習慣を見なおせば、少し問題が軽くなるかもしれません。
少し内容が物足りないと思う場合はウィルソン先生の本があり、このブログでは以下にまとめています。
また、この本の内容の一部が、何回かにわたって連載記事になっています。本間先生が副腎疲労について解説した動画もあります。
2013年に発売されたこちらの本は、本間龍介先生が書いた本書と異なり、本間良子先生のほうが執筆されています。