実は私の夫である龍介も、長年、深刻な副腎疲労を患っていました。(p37)
そう書くのは、しつこい疲れは副腎疲労が原因だった ストレスに勝つホルモンのつくりかた (祥伝社黄金文庫)の著者でスクエア・クリニックの医師、本間良子先生です。
ご夫婦で副腎疲労を扱うクリニックをされていることは、このブログでも何度も取り上げていますが、この本ではその成り立ちが触れられています。
病気について知るとき、統計的なデータも貴重ですが、ときに個人の体験談はより大きな説得力を持ちます。自分もそうだった、似ている、ここは自分と違う、ということが簡単に分かるからです。
わたしも副腎疲労については色々調べてきたつもりですが、先入観として、副腎疲労は体質的なものではないのか、発症しても寝たきりになるような慢性疲労症候群とは症状の重さが違うのではないか、などと思っていました。
しかしこの本に載せられている、本間龍介先生の闘病記を読んで、副腎疲労について、理解が深まったように思います。その経験はp37-53というわずかな部分にありますが、簡単に考察したいと思います。
これはどんな本?
この本は副腎疲労(アドレナルファティーグ)の解説本です。とても読みやすい文庫版で、値段も600円ほどと手頃です。
この記事で扱う夫の龍介先生の体験談に加えて、5人の副腎疲労のケースが載せられています。症状はそれぞれ、慢性便秘、過労、更年期症状、産後うつ、ブレイン・フォグと多様です。
最後のブレイン・フォグ(脳に霧がかかったような感じ)については慢性疲労症候群でよく聞く用語ですが、アドレナルファティーグに典型的な症状の一つと解説されています。(p225)
副腎疲労とは何か具体的に解説してある章では、慢性疲労症候群の名前も出てきます。慢性疲労症候群の患者は副腎疲労と同様コルチゾールが低下していて、発症のきっかけにも類似点が見られると書かれています。(p63)
線維筋痛症やリウマチについても副腎の機能低下が一因ではないかと書かれています。(p95)
後半は、副腎疲労を回復させる食習慣と生活習慣に多くのページが割かれていて、副腎疲労を克服した人たちの実例で締めくくられています。
類書に夫の龍介先生ご自身による「うつ?」と思ったら副腎疲労を疑いなさいがあります。内容はよく似ているので、どちらかを読めば十分です。そちらの本の書評は以下の記事です。
本間龍介先生の副腎疲労体験記
本間先生の副腎疲労体験記は、最終的に回復した例として、いろいろな洞察を与えてくれます。副腎疲労の患者みなが同じような症状とは限りませんが、典型例として理解しやすいと思います。
もともと疲れやすい体質
龍介さんは、もともと疲れやすい体質だったといいます。学業やアメリカンフットボールに精力的に取り組んでいましたが、休暇になるとぐったりしていました。気分の落ち込みもよくあったそうです。
しかし、一見矛盾するようにも思えますが、体力には自信があったとも書かれています。要するに、過活動しては寝こむような、精力的なタイプだったということかもしれません。
また、子どものときから湿疹やアトピーや喘息、花粉症など、アレルギーがいろいろあったといいます。この点からも、もともと体があまり強くないことが窺えます。
過労から突然寝たきりに
大学を卒業した後は、医師としての激務がはじまり、たまの休日は昏々と眠り続ける日々を送ったそうです。
そんな生活が数年経過したころ、朝起きてもまったく体が動かず、ベッドから自力で起き上がることもできなくなってしまったといいます。そのときはなんとか復帰しましたが、数年後には、さらにひどくなり、トイレや食卓の椅子にさえ座ることもできなくなり、しばらく入院したと書かれています。
わたしのイメージでは、副腎疲労というと、かろうじて仕事ができるくらいの「慢性疲労」だったのですが、このような症状であれば、今なら「慢性疲労症候群(CFS)」と診断されていたかもしれないと思いました。過労の末に発症したタイプの人は、同じような転帰をたどっているのではないでしょうか。
検査で異常なし
入院するほどひどひどい体調不良なのに、検査ではことごとく異常なしで、うつ病と診断されたそうです。しかし抗うつ薬を使ってもますます悪くなっていくだけでした。
妻の良子さんは、うつ病に見える症状にもかかわらず、薬が効かず、ぐったりしたままになる病気は何か、必死でインターネットで調べました。英語でも検索したところ、アドレナルファティーグという言葉がひっかかり、ジェームズ・L・ウィルソン博士の研究にたどりついたそうです。
その研究を参考に、唾液検査キットを海外から取り寄せ、龍介さんに検査させると、コルチゾールのレベルが極端に低下していることがわかったそうです。そのことから、龍介さんの症状は副腎疲労だという確証が得られました。
検査で異常がなく、うつ病と言われ、ネットでいろいろ可能性をあたるというのは、慢性疲労症候群の患者の多くが経験してきたことではないかと思います。
ウィルソン博士との出会い
最初はアドレナルファティーグという概念に不信感を持っていた龍介さんですが、指示通りに生活習慣や食習慣を改善し、不足しがちな栄養素をサプリメントとして補ったところ、数ヶ月すると、少しずつ体を動かせるようになり、疲労感も和らいできたそうです。
何より、長年苦しんできた症状に「アドレナルファティーグ」という名前があったということが気持ちを楽にしました。
ある程度よくなったころ、アメリカのウィルソン博士に会いに行ったそうです。博士はこう言いました。
本当につらかったでしょう。今までよく頑張りましたね。13時間も飛行機に乗って、よく来てくれましたね。もう大丈夫ですからね。アドレナル・ファティーグは必ず治るから。
実は博士自身、アドレナルファティーグを患っていたそうです。それどころか、博士が参加する米国抗加齢医学会のセミナーに参加する医師の多くがアドレナルファティーグの経験者でした。彼らは自分たちが苦しみを経験したからこそ、同じように苦しむ患者と向き合うようになったと述べたそうです。
龍介さんはアメリカで本格的な検査を受けましたが、検査の結果は惨憺たるもので、まだ副腎疲労の治療は始まったばかりでした。
生活習慣を大きく変える
その後、スカイプによるウィルソン先生の指導で、以下のような点を注意したそうです。
■睡眠不足・飲酒・添加物の多い食事を避ける
■部屋の照明は間接照明にする
■精製した砂糖、白米、うどん、そうめん類は避ける
■無農薬の玄米、ライ麦パン、そばなどに切り替える
■コーヒーの代わりにハーブティーを飲む
■化学物質を避け、洗剤やシャンプー、歯磨き粉などは無添加に替える
■元気になってきたら、運動をはじめる
その結果、数年が経った今では、疲れることはあっても回復力が違うようになったといいます。回復するのにかかった年月は4-5年だったと回想されています。(p219)
副腎疲労を治すには
ここまで書いてきたところ、本間龍介先生の慢性疲労と、わたしの症状はけっこう似ていると思います。
体験談を読んだ限りでは、慢性疲労症候群と診断された人と、副腎疲労の患者を大きく分ける要因は特にないように思います。ネットで必死に調べた結果、ある人はたまたま慢性疲労症候群の病院を受診し、別の人は(英語に堪能だったためか)アドレナルファティーグに行き着くだけではないでしょうか。
もちろん、副腎疲労の対策で、慢性疲労症候群が治るかといえば、簡単にはいかないと思います。ネット上で、副腎疲労の対策をしている慢性疲労症候群の方のブログを見ていても、治っていない人が多いように思います。アメリカで慢性疲労症候群患者がみな治っているかというと決してそんなことはありません。
わたしも本間先生がされたような対策は、すべてやってきました。精製された食品や睡眠不足に注意し、化学物質や添加物を避けるなどひと通りのことはやりました。
それでもまだ治っていないのは事実です。しかし、ある程度体力があり、気分が落ち込むことがまったくないのは、こうした対策のおかげなのかもしれません。
少なくともこの本に書かれているような事柄は、医療機関に行かなくても、個人で実践できることばかりです。本間先生の経験談では、医療機関がまったくない中、個人で試行錯誤していましたが、同じ手法が今日でも通用するのではないかと思います。
栄養療法などの高額なクリニックに行かずとも、個人で知識を蓄え、生活習慣を変化させることは、ある程度、生活を楽にする効果があるかもしれません。特にこうした生活習慣が関わる問題では、医者任せにせず、自分の意識を変えることが不可欠です。
慢性疲労症候群の患者はただでさえ、心身にかかる負担が大きいですから、負担を軽くするために生活習慣を見直すのは意味のあることだと思います。
最後に、この本のアドバイスが簡単にまとめられた、「回復のために今日からできる7つのこと」の部分を引用したいと思います。興味のある部分があれば、本書を手にとってみることをおすすめします。(p102-103)
小さじ2分の1ほどの海塩を入れた水を飲むだけです。ナトリウム不足による立ちくらみ解消や気力アップに役立ちます。→108ページ
2.ビタミンB群を摂る
副腎が疲弊すると、ビタミンB群を消耗します。あなたに起こりやすい症状別に、足りないビタミンを補いましょう。→129,180ページ
3.タンパク質と野菜・果物をたくさん摂る
タンパク質は体のエネルギーレベルや血糖値を安定させ、野菜や果物は副腎疲労の治療に効果を発揮する抗酸化物質を多く含みます。→110,117ページ
4. 5分でいいから昼寝をし、夜は極力11時までに寝る
最高の治療薬は睡眠と休息です。日中もつらいときには我慢せず、昼寝をしましょう。短時間の昼寝は仕事の効率アップにも役立ちます。→122ページ
5.小麦と砂糖、牛乳を減らす
小麦に含まれるグルテン、また牛乳に含まれるカゼインはアレルギー源となりやすく、腸に炎症を引き起こすことがあります。また小麦のような白い炭水化物は血糖値を急激に上げます。→163,165ページ
6.毒素を摂らず、排出する
有害な重金属や化学物質が体内にあると副腎が疲れてしまいます。お腹の調子を整えて排便をきちんとする、汗をかく、薬味をたくさん摂取するなど、デトックスを心がけましょう。→142ページ
7.精神的ストレスをコントロールする
ストレス源を探り、上手に対処する方法を身につけましょう。→130ページ