発達障害(注意欠如多動症[ADHD]/自閉スペクトラム症[ASD])の人が受けられる社会福祉制度の支援はいろいろありますが、その一つが精神障害者保健福祉手帳の取得です。
身体障害者手帳、療育手帳とくらべて、メリットが少ないと言われることの多い精神障害者保健福祉手帳ですが、取得することで、生活が便利になる部分は確かに存在します。
この記事では、発達障害で精神障害者保健福祉手帳が取得できるといえる理由、手帳を取得することによる10のメリット、手帳を申請するための具体的な方法についてまとめてみました。
これかく書く情報は2015年7月時点のものであり、各自治体によって微妙に違う点もあるので、あくまで参考程度にお読みください。
発達障害で精神障害者保健福祉手帳が取得できる
発達障害(注意欠如多動症[ADHD]/自閉スペクトラム症[ASD])が精神障害者保健福祉手帳の対象になる、ということは厚生労働省によるウェブサイト「みんなのメンタルヘルス総合サイト」に記載されています。
精神障害者保健福祉手帳|経済的な支援|治療や生活に役立つ情報|みんなのメンタルヘルス総合サイト
何らかの精神疾患(てんかん、発達障害などを含みます)により、長期にわたり日常生活又は社会生活への制約がある方を対象としています。
対象となるのは全ての精神疾患で、次のようなものが含まれます。
- 統合失調症
- うつ病、そううつ病などの気分障害
- てんかん
- 薬物やアルコールによる急性中毒又はその依存症
- 高次脳機能障害
- 発達障害(自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害等)
- その他の精神疾患(ストレス関連障害等)
もちろん、発達障害と診断されるだけで対象になるわけではなく、次のような条件を満たすことが必要です。
■初診から6ヶ月以上経過していること
■日常生活が不可能→1級
■日常生活に著しく制限がある→2級
■日常生活と社会生活に制限がある→3級
発達障害ゆえに日常生活、社会生活が制限を受け、発達障害の診断から6ヶ月が経っているようなら、少なくとも3級の資格は満たすことになります。合併症があれば、2級以上の可能性も高くなってきます。
1級から3級の詳しい判定基準については、こちらをご覧ください。
発達障害を対象とした手帳の交付については、今年に入って、自治体によって基準にばらつきがあるとのニュースがありました。
このニュースによれば、特に知的障害(IQ70-79以下)がない場合、療育手帳の対象とするかどうか、という点で、各自治体の意見が分かれているようです。
確実なことは言えませんが、少なくとも療育手帳に比べれば、精神障害者保健福祉手帳のほうは、比較的交付される可能性が高いと思われます。
精神障害者保健福祉手帳を取得するメリット
発達障害(注意欠如多動症[ADHD]/自閉スペクトラム症[ASD])の人が、精神障害者保健福祉手帳を取得するメリットにはどんなものがあるでしょうか。
タイトルでは10のメリットとしながら、それ以上の数の項目を集めました、しかし住んでいる自治体によって受けられるサービスと受けられないサービスがあり、発達障害では難しい1級限定のものもあるので、実質は10項目以下といってよいでしょう。
自分の住んでいる場所でそれぞれのメリットにあずかれるかどうかは、市区町村の窓口に問い合わせるなどして、必ず確認してください。
1.税金が安くなる
精神障害者保健福祉手帳を持っている人には、所得税や住民税の控除が適用されます。
■所得税の障害者控除
■住民税の障害者控除等
■利子税の非課税
■相続税の障害者控除
■贈与税の非課税
■自動車税・自動車取得税の減免
■軽自動車税の減免
各税の控除額については、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けられた方は│大阪府など、市区町村の解説ページをご覧ください。手帳の等級によって控除の対称となるか、控除額はいくらかといった点が変わります。
2.NHK受信料が免除される
精神障害者保健福祉手帳を持っている人がいる世帯で、世帯構成員全員が市町村民税 非課税の場合、NHK受信料が全額免除されます。
上記に当てはまらない場合は、世帯主が、障害等級1級の手帳を持っていて、受信契約者の場合のみ半額免除されます。
詳しくは放送受信料の免除について│NHKをご覧ください。
3.携帯電話料金が安くなる
大手携帯電話会社は、精神障害者保健福祉手帳向けの割引サービスを実施しています。詳しくはリンク先の解説ページを見てください。
■Y!mobile(ハートフルサポート) (※2014/7/31に終了)
4.障害者求人に応募できる
精神障害者保健福祉手帳を取得すると、精神障害者として、障害者雇用促進法に基づく「障害者雇用率制度」 の対象となります。
「障害者雇用率制度」とは、「常用労働者数が50人以上の一般企業は、常用労働者数の2.0%以上の身体・知的障害者を雇用しなければならない」というものです。
精神障害者を雇用することは義務づけられていませんが、雇用すれば、上記の2.0%の中に含まれるようになりました。そのため、あまり積極的ではないものの、精神障害者を雇用しようとする企業も出てきました。
そのようなわけで、精神障害者保健福祉手帳を持つことにより、障害者求人に応募できるようになり、仕事に就いて生計を立てやすくなるというメリットがあります。
公共職業安定所(ハローワーク)には、障害のある人を専門に担当する職員がおり、手帳の有無にかかわらず援助を受けることができますが、手帳を持っているほうがメリットが大きくなります。
障害者求人を探すには、障害者求人検索│ハローワークインターネットサービスも利用できます。
5.さまざまな施設への入場料金の割引やサービス
精神障害者保健福祉手帳があると、公共・民間のいろいろな施設で、入場料金・利用料金などの割引が受けられたり、障害者向けサービスにあずかれたりします。
割引については、それぞれの施設のウェブサイトを見れば、大抵は料金表のところに書いてあります。
具体例を幾つか挙げましょう。
■東京国立博物館
手帳を見せれば、本人とその介護者各1名は無料です。
■ユニバーサル・スタジオ・ジャパン
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は、「障がい者向け割引スタジオ・パス」を販売していて、手帳を持っている本人と、同伴者一名は、半額価格で入場できます。
■東京ディズニーリゾート
ディズニーリゾートは、チケットの割引制度はありませんが、アトラクション待ちの列に並ばなくてよくなるゲストアシスタンスカードを発行しています。
■ちゅら海水族館
手帳を見せれば、本人とその介護者各1名は無料です。
こうした各種施設の障害者手帳交付者向けサービスについては、以下のサイトに詳しく載せられているので、自分の地域のどの施設が対応しているか参考にすることができます。
もちろん、これらのサイトに載せられていなくても対応している施設はありますから、施設のウェブサイトで確認するか、問い合わせてみることも必要です。
こうした施設の割引は、ひとつひとつは微々たるものですが、引きこもりがちな発達障害者にとって外出するきっかけになるかもしれません。
6.鉄道、バス、タクシー等の運賃割引
基本的に、精神障害者保健福祉手帳では、身体障害者手帳や療育手帳と違って、公共交通機関の運賃の割引はありません。
しかし自治体によって、独自に割引制度を設けているところがあります。幾つか例を挙げておきます。
■東京都
東京都では、都内に住所を有し、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人を対象に「精神障害者都営交通乗車証」を発行しています。
これを持っていると、都交通(都電、都バス、都営地下鉄及び日暮里・舎人ライナー)の全運行区間を無料で利用できます。
■大阪市
大阪市では、大阪市内の「障害者手帳」を持っている人のみを対象に、等級に応じて、市営交通(地下鉄、ニュートラム、バス)料金を割引する「無料乗車証(割引証)」を発行しています。
■神戸市
神戸市では、市内交通機関(神戸市が運営しているバス、地下鉄、ポートライナーなど)を無料で使用できる「福祉乗車証」を交付しています。
多くの場合、これらのサービスは、その自治体の地域に住んでいる人限定です。自分の自治体に同様のサービスがあるかどうかはお住まいの市区町村のウェブサイトを参照してください。
7.NTT電話番号案内が無料に
NTTの電話番号案内(104番)を利用する際、最初に「ふれあい案内」と申し出て、あらかじめ届け出た電話番号と暗証番号をコミュニケータに告げると無料になります。
NTTふれあい案内担当 フリーダイヤル0120-104174へあらかじめ申し込んでおく必要があります。
8.生活福祉資金の貸付
生活福祉資金貸付制度は、低所得者、障がい者または高齢者の世帯に対し、安定した生活を営むために、国や自治体が資金を出し、低利で必要な資金を貸してくれる制度です。
審査により、返せる見込みがあると見なされると貸付が行われます。
貸付される資金の種類には、冠婚葬祭費、移転費、教育費、生活費などがあります。詳しくは大阪市市民の方へ 生活福祉資金などの自治体のページなどを参照してください。
9.生活保護の障害者加算
精神障害者保健福祉手帳が1級または2級であり、初診日から1年6ヵ月を過ぎていて、生活保護を受給している場合、受給額にいくらかの金額が加算される場合があります。金額は地域によって異なります。
10.自立支援医療費給付手続きの簡素化
自立支援医療(精神通院医療)を申請するとき、手間が簡略化されます。(自治体によっては対象外の場合があるそうです)
自立支援医療とは、精神疾患で通院している場合、診察費、薬代などの医療費が3割負担から1割負担になる制度です。
自立支援医療そのものは、障害者手帳がなくても申請することができます。
自立支援医療の解説、申請の方法、精神障害者保健福祉手帳との同時申請のメリットなど、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
11.駐車禁止除外指定車標章の交付
精神障害者保健福祉手帳の1級を持っている人のみ、住所所轄の警察署の交通課にて申請することで、 「駐車禁止除外指定車標章」が交付されます。
「駐車禁止除外指定車標章」があれば駐車禁止区間でも駐車できるようになります。
12.公営住宅の優先入居
一部の自治体では、公営住宅への優先入居策として、抽選回数を増やすなどの取り組みをしているところがあります。
たとえば大阪府では府営住宅の総合募集に応募する場合、福祉向けの区分(4月・6月・8月・10月・12月・2月 年6回)に応募することができます。
13.上下水道料金の割引
一部の自治体では、上下水道料金などの割引制度を設けているところもあります。
たとえば枚方市では、精神障害者保健福祉手帳1級の所持者がいる世帯に対し、水道料金と下水道使用料の基本料金を免除しています。
14.心身障害者医療費助成
一部の自治体では、医療費の助成制度を設けていることがあります。
たとえば大和市では、1級の精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人を対象に、健康保険適用分のうち自己負担分を助成しています。
15.手当の支給など
一部の自治体では、手帳を持っている人に少額の手当を支給していることがあります。
たとえば常滑市では、精神障害者保健福祉手帳1級には月額3600円、2級には月額1350円、3級には900円が支払われています。
16.通所交通費の助成
一部の自治体では、精神障害者保健福祉手帳を持っている人が自立訓練(生活訓練)事業所など、指定された施設に通うのに必要な費用を助成しています。
たとえば大分市では、1ヶ月の交通費が2,000円以上かかった場合、その2分の1の金額を助成しています。
そのほかのメリット
そのほか、自治体によって、ここには載せきれない独自の制度を設けている可能性があります。
自分の住んでいる地域での精神障害者保健福祉手帳のメリットを確認するには、市区町村の福祉担当窓口に問い合わせるか、市区町村のウェブサイトを参照してください。
精神障害者保健福祉手帳のデメリット
発達障害者が精神障害者保健福祉手帳を取得することに特にデメリットはありませんが、「精神障害者」とみなされることに、本人や家族が不快感を感じる場合があるそうです。
そのようにして精神障害者に偏見を持つことは好ましくありませんが、どうしても気持ちの折り合いがつかないのなら、精神障害者保健福祉手帳を申請しないという選択肢を選ぶことも必要でしょう。
申請する方法・手順・やり方
ここからは、発達障害(注意欠如多動症[ADHD]/自閉スペクトラム症[ASD])の人が精神障害者保健福祉手帳を申請する手順を書いていきます。
これは2015年7月の時点での情報であり、制度は変更される場合があります。また、各自治体によっても、手順が微妙に異なる可能性もあります。
あくまで参考程度にとどめ、必ず、市区町村の窓口の担当職員に、手順や詳細を尋ねるようにしてください。
1.かかりつけの医師に相談する
まず、自分が発達障害またはその併存疾患にためにかかっている医療機関の主治医に、精神障害者保健福祉手帳を取得したい旨を相談します。このとき、初診日から六ヶ月以上経過していることが条件です。
診断書を書くことに同意してくれるなら次のステップに進みましょう。もしその医療機関の医師が同意してくれなくても、別の医療機関の医師(特に大人の発達障害をよく診ている専門家など)は同意してくれることがあります。
2.市区町村の窓口で必要書類をもらう
お住まいの市区町村の障害福祉担当課(地域によって名前が異なる場合があるので、わからなければ職員に聞いてください)に出向き、精神障害者保健福祉手帳の申請のための用紙二点をもらいます。
■精神障害者保健福祉手帳 申請書
■精神障害者保健福祉手帳 診断書
このとき、医療費が軽減される自立支援医療(精神通院)も同時に申請したいなら、以下の記事のほうの手順に従ってください。
また、次の二つのうちいずれかに該当する人は、診断書が必要ありません。その場合は次の3つ目のステップを飛ばしてください。
■精神障害を理由に「障害年金」をもらっている人
■精神障害を理由に「特別障害給付金」を受けている方
3.診断書を書いてもらう
医師の指示にそって、かかっている医療機関に診断書を提出し、必要事項を記入してもらいます。(自立支援医療を同時申請する場合は、診断書の裏面右下の項目も記入してもらいます)
4.写真を撮る
顔写真(縦4cm×横3cm)を用意します。申請日より1年以内に、無帽で上半身を撮影したもので、デジタルカメラの場合は光沢紙以上の用紙を使用します。
5.市区町村の窓口に提出する
以下の必要な物を揃えて、最初に書類をもらった市区町村の担当課に出向きます。
■精神障害者保健福祉手帳 申請書
■精神障害者保健福祉手帳 診断書(医師の記入済み)
■顔写真
■印鑑
「障害年金」「特別障害給付金」をもらっている場合は、診断書の代わりに以下のものを用意します。
障害年金の場合
■障害年金の年金証書・年金裁定通知書の写し・ 直近の年金振込通知書または年金支払通知書の写しなど
■ 同意書
特別障害給付金の場合
■ 特別障害給付金受給資格者証(特別障害者給付金支給決定通知書)の写し・ 直近の国庫金振込通知書の写しなど
■ 同意書
同意書は年金事務所等へ照会するためのものであり、窓口でもらえます。
以上のものを持参して窓口についたら、担当職員の指示にそって、必要事項を記入し、印鑑を押します。
6.交付通知を受け取る
申請から数ヶ月経って、審査が終わると、手帳を交付するかどうか記した通知書が送られてきます。交付が認められた場合は、通知書と印鑑を窓口に持って行って、手帳を受け取ります。
7.手帳を活用する
さきほど挙げたさまざまなメリットを用いるには、自分から手帳を提示したり、利用を申し込んだりする必要があります。携帯電話料金の割引など、毎日の出費に関わるものから順に取り組んでいきましょう。
8.更新手続き
手帳の有効期間は2年で、有効期限の3か月前から更新手続きを行うことになります。更新申請の手続きは、新規申請と同様です。
以上が、発達障害の人が精神障害者保健福祉手帳を取得するための手続きの概要です。
すでに述べたように、手順が異なる可能性もあるので、必ず担当職員に確認するか、以下に挙げるような、お住まいの市区町村のウェブサイトに書かれている手順を確認してください。
精神障害者保健福祉手帳を賢く使って発達障害とつきあう
発達障害は、生まれつきの脳の傾向であり、基本的にいって治癒するということはないので、さまざまな医療をうけたり、生活を工夫したり、スキルを身につけたりして、うまくつきあっていくことが大切です。
生きづらい状態を少しでも緩和するために、利用可能な社会福祉制度に頼ることは、決して弱さのしるしではなく、後ろめたいことでもありません。
中には、「精神障害者」というレッテルを快く思わない人もいるかもしれませんが、「発達障害」という診断を受け止め、順応していく必要があるように、必要なら自分の心の中の偏見を取り除いたり、周囲からの偏見に臆せず堂々とできるよう考えを調整したりすることも必要です。
精神障害者保健福祉手帳は、税金や障害者求人の点で、生活資金の助けになる可能性があります。また、さまざまな機関・施設で受けられるメリットは、発達障害者の生きにくい現実を少しでも明るくする可能性があるものです。
取得を申請するかどうかは個人のは判断ですが、発達障害の診断を受けていて、今後もADHDやアスペルガーとして生きていくとしたら、一つの選択肢として考慮してみるとよいかもしれません。