東京大学科学技術振興機構(JST)の研究によると、神経難病、多発性硬化症(MS)において、免疫細胞が脳や脊髄の中枢神経組織に侵入し、炎症が生じる仕組みが明らかにされたそうです。
脳や脊髄に炎症が生じる自己免疫疾患
多発性硬化症(MS)は、脳や脊髄の中枢神経系を免疫系が攻撃し、脱髄性の炎症が起こることで生じる自己免疫疾患とされています。
全世界に250万人もの患者がいる難病ですが、病態はまだ十分に解明されておらず、根本的な治療法もありません。日本では、落語家の林家こん平さんが闘病しておられることで有名です。
MSは、慢性的な強い疲労感や視力障害など多彩な全身症状を伴うことが多く、慢性疲労症候群(CFS)との鑑別が必要な病気でもあります。CFSも近年、脳の慢性炎症が見つかっています。
本来、脳には血液脳関門(BBB:ブラッド-ブレイン・バリア)が存在して異物の侵入を防いでいます。しかし多発性硬化症では、炎症細胞がBBBを突破して脳の中枢神経系を攻撃するため、その理由について疑問に思われていたそうです。
サイトカインRANKLが関係
今回、多発性硬化症のモデルマウスを使った研究によると、RANKLというサイトカイン(免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質のこと)が、炎症性細胞を呼び寄せて、BBBを突破させ、脳の炎症を引き起こしていることかわかりました。
RANKL遺伝子を破壊したり、RANK受容体を欠損させたり、RANKLの阻害剤をマウスに投与したりすると、炎症細胞はBBBを突破できなくなり、症状の発症が抑えられたそうです。
RANKLは骨粗鬆症や関節リウマチとも関係しているそうで、すでにRANKLをターゲットにした薬(骨粗鬆症の治療薬デノスマブ(商品名:プラリア)など)が開発されています。今後はそうした領域の薬も多発性硬化症の治療薬として検討されるのかもしれません。
多発性硬化症というと、今年11月に新しい治療薬として、コパキソン(グラチラマー酢酸塩)が発売されていました。また免疫系が自分を攻撃してしまうようになる理由としては、腸内細菌や衛生仮説との関わりが注目されています。
多発性硬化症の研究が進んで良い治療法が見つかるとともに、同様の自己免疫異常や、脳の慢性炎症を伴う、さまざまな周辺疾患の病態解明の糸口が見つかってほしいと思います。