何よりもしてはいけないのが、新年の抱負をリストアップすることだ。(p55)
毎年元旦になると、一年の目標や抱負をリストアップする人もいるでしょう。ほとんどの人は一年の目標をリストアップしたりブログに書いたりするのが大好きです。
しかし、年末になるころには、すっかり目標を忘れていたことに気づいて後悔し、「来年こそ本気だす!」と決意して、また新しい年を迎えるかもしれません。そうして毎年毎年、同じような目標を立てては挫折を繰り返します。
なぜ新年の目標をリストアップすると達成できないことが多いのでしょうか。目標や抱負を達成可能なものにするには何が役立つでしょうか。
意志力について長年研究してきた、ロイ・バウマイスター博士による、WILLPOWER 意志力の科学という本から3つの理由を考えてみたいと思います。
これはどんな本?
バウマイスター博士は、これまで捉えどころのないものだと考えられていた意志力について、具体的な実験を行い、意志力の科学的研究を切り開いた人です。
WILLPOWER 意志力の科学では、意志力は筋肉と同じように鍛えることもできる、使うと消耗する(自我消耗)、意志力の強い人とは実は意志力を節約している人である、といった最新の研究が紹介されています。
1.夢をリストアップしても現実にはならない
バウマイスター博士は、冒頭の「新年の抱負をリストアップしてはならない」というアドバイスの後にこう続けています。
毎年新年の朝になると、何百万人もの人たちが希望を抱いて、あるいは二日酔いを抱えて目覚め、今年こそ食べ過ぎを控える、もっと運動をする、無駄遣いをしない、仕事や掃除にまじめに取り組む、その上奇跡的にもロマンチックなディナーやビーチでのんびり散歩をするための時間をもっと持つという決意をして、抱負のリストをつくる。
そういった人たちは、2月1日になるころにはリストを見るのも恥ずかしくなっている。(p55)
これと同じような状況を経験した覚えがあるでしょうか。
1月1日に作った目標のリスト、新年の抱負を書いたブログ。もしかしたら、その後永久に見なかったかもしれません。
しかしたとえそうなるとしても、問題の原因はわたしたちの意志力にあるわけではありません。
だが、自分に意志力が足りないと嘆くことはない。
責めるべきは諸悪の根源、リストだ。リストにずらりと並んだ目標を実現するだけの意志力を持った人などいないのだ。(p55)
達成できない原因の一つ目は、むやみやたらと実現不可能なものをリストアップしていることです。それは夢と目標を取り違えていることに起因します。
夢はいくつでも思いつきますし、現実離れした内容でもまったく気になりません。いくらでもリストにずらりと並べられます。だってそれは夢なのですから。
でも目標は、達成するためのものです。自分のリソースを考えに入れなければなりません。
意志力や体力は有限なので、あれもこれも、と欲張ってリストアップするわけにはいかないのです。
それでこう勧められています。
それよりも目標を絞って集中したほうがいい。それだけでも相当な努力が必要とされる。
やがて一つだけでも多すぎると思うときがきっと来るだろうが、台の上で彫像になり続けたアマンダ・パーマーの勇敢さを思えば、あなたもきっと乗り越えられるだろう。(p56)
この本のアドバイスに基づけば、目標はできるだけ少なくしぼり、多くとも3つまでにとどめるなら、いくらか現実味を帯びてきます。
→ 夢をたくさんリストアップしているだけだから
解決策
→ 自分のリソースを考慮して現実的な数の目標にしぼる
2.理想と現実の折り合いをつけるスパン
しかし、新年の目標を3つ以下に絞ったところで、大晦日に後悔せずにすむかというと、おそらく、そううまくはいかないでしょう。
目標を達成可能なものにするためには、さらに別の要素に目を向ける必要があります。
みんなが「今年の目標」を立てるのが好きなのはなぜでしょうか。なぜ誰もがこぞって抱負を語りたがるのでしょうか。
「今年の目標」という言葉に甘美な響きがあるのは、一つには、一年間も時間があれば、きっとあんなことやこんなこともできるかもしれない、という夢が膨らむからです。
裏を返せば、一年間という長さは多くの人にとって具体的なイメージするには長すぎるから、空想を膨らませる余地があるのです。
一年間というのは、現実的な目標を立てるには、決して適切なスパンではありません。
これが「明日の目標」となればどうでしょう。空想や夢は消え去って、途端に現実的でこぢんまりとした目標になることでしょう。
では、どの程度のスパンの目標を立てるのが、理想と現実の折り合いをつけるのに適切なのでしょうか。
人によって個人差はあると思いますが、こんな研究が載せられています。
第1グループは毎日、何を、いつ、どこで勉強するか細かく計画を立てる。第2グループは、毎日ではなく、月ごとに同様の計画を立てる。そして第3グループは対照群で、何も計画を立てずに勉強する。
実験者は、毎日計画を立てたグループが、一番よい結果が出るはずだと予測した。
しかしそれは間違いだった。月ごとの計画を立てたグループが、勉強の習慣を身につけるという点でも、勉強への姿勢という意味でも、一番成長が見られたのだ。(p99)
1年間の目標を立てることは、何も悪いことではありませんが、それだけでは長期的すぎて具体性がありません。
かといって毎日、計画を立てるなら、具体的すぎて融通が利きません。
最善なのは、その中間、週ごと、月ごとに目標や計画を立てて進捗を管理することです。
こうした考えは、有名な仕事術GTD(Getting Things Done)にも組み込まれていて、週次レビュー・月次レビューを予定に組み込むよう勧められています。
月ごとに大きな目標を立て、週ごとに小さな計画にチャンキング(細切れに分けること)し、スモールステップを繰り返して一つずつ着実に達成していくのです。
→ 一年という期間が長すぎて現実的な目標になっていないから
解決策
→ 月ごとの小さな目標、週ごとの小さな計画にチャンキングする
3.「計画錯誤」に気をつける
さらに、目標を立てる場合に気をつけるべき3つの目の点があります。
目標を決めるときは、心理学で言うところの「計画錯誤」に気をつけよう。
若い学生からベテランの企業役員まで、誰でもこの症状に冒される。
ハイウェーや建物が、予定より6ヶ月早く完成したという話を聞いたことがあるだろうか?
予定は遅れ、予算はオーバーするのがふつうだ。(p314)
わたしたちは、自分の能力を高く見積もり過ぎたり、仕事量を低く見積もり過ぎたりする傾向があります。
これは「計画錯誤」と呼ばれ、計画が途中で資金不足になって頓挫したり、延期に次ぐ延期を繰り返したりする原因です。
学位論文を書く学生たちに対する調査によると、学生たちの見積もりでは平均34日で完成するということでしたが、終わってみると平均56日でした。
(ただしほんの一握り、最短で書き終えた人もいました)
こうした「計画錯誤」は、自分の過去の経験を思い出しながら計画を立てるよう言われると、ほぼ現実的な予想に修正されるそうです。
さらに、自分以外の学生がその目標に取り組む場合、どれくらい時間がかかるだろうか、と考えてみるのも、現実的な計画を導く助けになるといいます。
ですから、目標を立てる際には、夢物語をリストアップするのではなく…
■「自分のこれまでを考えると、どの程度のレベル、期間を設定すれば現実的だろうか」と自己吟味する
■「わたしの立てた目標のレベルや期間設定は妥当だろうか」と身近な家族や友人に尋ねて意見をもらう
といった客観的な方法が役立ちます。
→ 計画錯誤によって、自分の能力を過大評価し、必要時間を過小評価しているから
解決策
→ 過去の自分を思い出したり、他の人の意見を聞いたりして現実的なものに調整する
ただのイベントで終わらせてはもったいない
新年の目標をみんながこぞって立てたがるのは、それが一つのイベントになっている、という事情もあるでしょう。
自分の夢を語るのは楽しいものですし、新年を迎えた気持ちの高揚感も、いつもより雄弁に語りたい気持ちにさせるものです。
そのように自由に夢を語れる新年のイベントに、現実的な視点を持ち込むと、浮かれた気持ちが削がれて、一気に現実に引き戻されて、興ざめするかもしれません。
しかしせっかくなら、実現する望みもない希望をただリストアップするだけの一日きりのイベントで終わらせるのではなく、しっかり夢を現実にして大晦日を迎えたいと思うのではないでしょうか。
今回紹介した3つの方法を意識して目標を組み立てれば、来年の今ごろ、前の年と同じ目標を立てて「今年こそ本気だす」と決意する必要はありません。
むしろ、「今年もさらなる新しい目標に挑戦しよう」という、わくわく感に興奮していることでしょう。
バウマイスター博士の意志力についての研究は、自分の生活を見直す助けになるのでおすすめです。