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解離性障害は脳の一部だけ眠る睡眠障害かもしれない―覚醒と夢のはざまの考察

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したがって解離の病態は覚醒を夢の方向に引き寄せ、夢を覚醒の方向へ引き寄せていると考えられる。

入眠時体験において解離の病態はもっとも顕著に現れる。(161)

近、さまざまな本を読んでいて、漠然と気になっていたことがありました。それは、解離性障害が、ある種の睡眠障害と酷似していることでした。

起きている間に別人格に切り替わる解離性同一性障害と、眠るとともに別の人格のように行動するノンレムパラソムニア

寝入りばなに入眠時幻覚を見るナルコレプシーと、起きながら幻視を見る解離性障害。

さらには睡眠不足の子どもがADHDに似る多動症状と、解離傾向の強い子どもがやはりADHDに似る反応性愛着障害

こうしたさまざまな睡眠障害と解離の共通点を探していくうちに、解離性障害とは脳の一部が眠る、ローカルスリープの睡眠障害ではないか?という着想を持ちました。

こうした理論が他にあるのかどうか詳しく知りませんが、冒頭に挙げた解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論の柴山雅俊先生の言葉をはじめ、さまざまな専門家の文献が、そのような考えを示唆しているように思います。

この記事では、<眠り>をめぐるミステリー―睡眠の不思議から脳を読み解く (NHK出版新書)など幾つかの本を参照しつつ、睡眠障害として考える解離のメカニズムを、あくまで個人の推測の範囲内でまとめてみたいと思います。

これはどんな本?

<眠り>をめぐるミステリー―睡眠の不思議から脳を読み解く (NHK出版新書)は、ナルコレプシーの原因物質オレキシンを柳沢正史先生と共に発見した櫻井武先生による睡眠のミステリアスな側面の解説書です。

解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論は何度も扱っているとおり、解離性障害の柴山雅俊先生が、解離の患者の主観的体験かに治療論までまとめられた詳細な本です。

このエントリではそのほかにも多数の専門家の本から引用しています。

睡眠時遊行症―眠っている間に出る別人格

まず、解離と睡眠障害の接点を明確にするため、解離が最も極端に現れていると考えられる解離性同一性障害(多重人格)と睡眠に関する話を取り上げましょう。

睡眠障害の分野で、解離性同一性障害と類似しているのは、ノンレムパラソムニアという病気です。

ノンレムパラソムニアは、睡眠時随伴症(パラソムニア)のうち、ノンレム睡眠中に起こるものを言います。

俗に言う夢遊病(睡眠時遊行症)もこの中に含まれますが、ノンレムパラソムニアの場合、夢を見ているわけではなく、無意識状態だと考えられています。

一方、レム睡眠中に体が勝手に動くレム睡眠行動障害のほうでは、夢を見ながら、夢と同様の行動を現実に実行してしまいます。こちらはレム睡眠中の夢らしく、突拍子もない行動が多くなります。

今回取り上げるノンレムパラソムニアでは、寝ている間に行動するとはいえ、その内容は突拍子もないものではなく、起きている日常生活のときとあまり変わらない行動を無意識のうちに行います。

<眠り>をめぐるミステリー―睡眠の不思議から脳を読み解く (NHK出版新書)には、次のように書かれています。

実は、睡眠中に歩き回るどころか、料理をしたり、クルマを運転したり、果てには芸術的な絵を描いてしまう、など非常に複雑な行動をとる例すら報告されている。(p56)

ノンレムパラソムニアでは、寝ている間に、知らないうちに、料理をしたり、車を運転したり、絵を描いたりもしてしまうのです。

これはもはや、寝ながら無意識に行っているというより、自分の知らない別の人格が活動しているかのようにも思えます。

殺人を犯したのは彼の人格ではない

その極端な例が、1987年にカナダ・トロント郊外で老夫婦が殺害された事件です。この事件の犯人は、すぐに23歳のケン・パークスだとわかりましたが、彼はなんと無罪になりました。

しかし、事情聴取でケンは一切の殺害の記憶がないと語った。そしてなんと裁判の結果、彼は「無罪」となったのである。

殺人と傷害を睡眠中に無意識下で起こしてしまったため、殺人を犯したのはケンの人格ではないので、罪に問うことはできない、という結論を司法が下したのである。

つまり彼は「ベッドを抜け出し、クルマを運転し、義父母の家を訪れ殺人と傷害を起こす」という行為を「睡眠中に」起こしたと判断されたことになる。(p60)

この事件を審議する際、睡眠障害などの専門家たちは、ケンの親族に睡眠障害の病歴があり、ケン自身ノンレムパラソムニアの経験があったことから、殺人を犯したのはケンの人格ではないと判断したのです。

ノンレムパラソムニアは、解離性同一性障害とは異なる部分もありますが、いつの間にか別の人間のように行動していて、しかも記憶がない点は、両者ともに共通しています。

解離性同一性障害―別人格に交代する瞬間

ノンレムパラソムニアと解離性同一性障害の類似点をさらに深く調べるため、今度は逆に、解離性同一性障害の側から見てみましょう。

ノンレムパラソムニアでは、眠りにつくことで、あたかも別の人格が現われるようでしたが、じつはそれは解離性同一性障害も同じです。

解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論にはこう書かれています。

解離性同一性障害の患者の多くは、人格交代の際に、目を開けたまま無動状態となり動かなくなる。

次にダラリと力が抜け、眠り込んだかと思うと、再び目を開ける。

その時には人格が交代している。

このような人格交代の一連の過程は「覚醒」から「入眠」、さらに「夢」への移行を思わせ、それぞれはこれら三つの私に類似している。

つまり解離の意識変容と人格交代は「覚醒・入眠・夢」の病理が関与していると推察される。(p200)

ノンレムパラソムニアと同様、解離性同一性障害の場合も、やはり人格交代の際には一瞬眠るのです。

ノンレムパラソムニアの人が普通に夜眠ったときだけ変容するのとは違い、解離性同一性障害の人は、起きている間も、時と場所に関わらず人格交代しますが、人格のスイッチングの際には、入眠が関係しています。

ナルコレプシー、マイクロスリープ、催眠

時と場所に関わらず入眠する、というのは奇妙に思えますが、じつはそれに対応する睡眠障害もやはり存在します。それは、ナルコレプシーです。

ナルコレプシーでは、起きているときに、突然寝てしまう睡眠発作が生じます。そして睡眠発作のときは、まるで解離性障害のような入眠時幻覚や睡眠麻痺(金縛り)が起こるのです。この点は後で詳しく取り上げます。

ナルコレプシーでなくても、一瞬眠ってしまう現象は睡眠不足状態などで頻繁に生じ、交通事故の原因などにもなる「マイクロスリープ」として知られています。これは数秒から数十秒の瞬間的なノンレム睡眠です。(p193)

さらに、解離性同一性障害の人格交代が睡眠と関係していることは、人為的に別人格に交代させる方法からもうかがえます。それは催眠です。

解離性障害の治療者たちは、診察室で催眠的な手法を用いることで、人格交代を誘発させます。

催眠というとだれかを操る技法のように思えますが、解離の専門家である岡野憲一郎先生は、続解離性障害の中でこう述べています。

ちなみにこの人格を呼び出すプロセスは、実は催眠と似ているようでいて、そうではないことを強調しなくてはならない。

催眠は、「あなたは◯◯になります」「××と感じるようになります」という示唆を与えることになる。

しかし人格の呼び出しはあくまでも、交代人格との対等なコミュニケーションなのだ(p173)

催眠というと、暗示や操作を感じさせますが、解離性障害の人格交代に用いられるものは、単に、その言葉どおり「眠りを催す」ものにすぎないということです。

やはりこの場合も、睡眠に近づけることで人格交代が生じることがわかります。

眠っている間に絵を描く画家

このようなノンレムパラソムニアと解離性同一性障害の類似性は、専門家もやはり指摘していて、<眠り>をめぐるミステリー―睡眠の不思議から脳を読み解く (NHK出版新書)では、両者の合併と思われる症例が紹介されています。

英国の北ウェールズ在住のリー・ハドウィンさんは睡眠中に、非常に精細かつ個性に富んだ絵を描く。

だが、本人は自分が絵を描いたことすら覚えていない。

眠っている間、いろんなものに落書きをしてしまうことに気がつき、寝室にスケッチブックを用意するようにしたという。(p73)

この例は、さきほど少し触れた、眠っている間に絵を描く症例です。

絵には、その人の人となりが現われるはずですが、興味深いことに、リー・ハドウィンは、起きている間はまったく絵が上手でなく、自分が寝ている間に描いた絵を模写することさえ困難です。

しかも、彼は起きているときは同性愛者ですが、寝ているときに描いた絵は、明らかに異性愛者であることを示しているといいます。

それで櫻井先生は、このようにコメントしておられます。

もしかしたら、睡眠中には別の人格が発動しているのかもしれない。

だとしたら、同一性解離性障害(いわゆる二重人格)とノンレムパラソムニアを合併した非常に興味深い例だといえよう。

もう一つの人格は眠りの世界に閉じ込められているのかもしれない。(p74-755)

こうした例を考えると、ノンレムパラソムニアという睡眠障害と、解離性同一性障害は、決して別々に考えられるようなものではなく、どこかで重なり合っているものではないか、という疑問が生じます。

ローカルスリープ―脳は一部だけ眠ることがある

そもそも、ノンレムパラソムニアで、眠っている間にも、日常的な活動ができる、というのは、いったいどのようなメカニズムによるのでしょうか。

ノンレムパラソムニアと解離性同一性障害が似ているとすると、睡眠の仕組みを知ることで、解離の構造を理解できる可能性があります。

すでに述べたノンレムパラソムニアの例では、脳波を調べることによって、睡眠中に脳で何が起きているかがある程度わかっています。

たとえばリー・ハドウィンのケースでは、ノンレム睡眠時にも、脳の一部で覚醒時に記録されるベータ波が生じていて、一部だけ目覚めている状態であることがわかったそうです。

ケン・パークスの場合も、おそらくは、理性や判断をつかさどる前頭前野は眠っていたものの、脳の別の部分は起きていたと考えられています。

脳の一部が起きていて、一部が眠っているなどということがありうるのでしょうか。

脳は局所的に眠る

じつは近年の研究によると、それは不思議なことではありません。<眠り>をめぐるミステリー―睡眠の不思議から脳を読み解く (NHK出版新書)にはこう書かれています。

睡眠というのは「脳全体」の機能が低下した状態、と考えられていたが、実はこうした部分的な覚醒、あるいは部分的な睡眠が最近の研究によっても明らかにされつつある。

病的な状態までいかなくても、実は日々の正常な睡眠においても私たちの睡眠は、「脳全体」ではなく「脳の部分」で起こるというのである。(p68)

脳は、全体が一度に眠るわけではなく、部分的な睡眠の集合体として、夜の睡眠が生じているのです。

それでは、夜に一斉に眠るはずの、それら部分的な睡眠同士のスケジュールがずれてしまうとどうなるのでしょうか。次のような実験があります。

ウィスコンシン大学のトノーニらは、ラットを用いて、睡眠が「局所的に」起こりうることを報告している。

ラットの脳のさまざまな部分に電極を埋め込み、脳波の上で覚醒しているように見えるラットでも部分的に睡眠が起こっているということを示した。

特に、断眠をしたラットでは、覚醒状態においても脳の各部が部分的に眠ってしまうということが頻繁に見られることが明らかになった。(p68)

この実験では、断眠状態というストレス環境に置かれたマウスでは、起きている状態でも、脳の一部が眠ってしまうのが確認されたということです。

脳は、全体が同時に眠るのではなく、部分ごとに眠るゆえに、ストレスなどの原因によって足並みが揃わず、起きている間に一部が眠ることもあるのです。

このような問題が生じる理由について、こう説明されています。

脳は覚醒時に行った「学習」を最適化するために、徐波睡眠をとる必要がある。そして、たくさん使った部分ほど深い睡眠をとるのである。

つまり、実は、睡眠は脳全体に起こるグローバルなものではなく、局所的に起こるものだったのだ。こうした脳の一部で局所的に見られる睡眠を「ローカルスリープ」という。(p70)

この説明によると、たくさん使った部分ほど深く眠るので、部分的に眠りが浅かったり深かったりすることがあるようです。

こうした局所的な睡眠「ローカルスリープ」は、これまで見てきたノンレムパラソムニアと、解離性同一性障害のメカニズムと深く関係していると考えられます。

ノンレムパラソムニアは、リー・ハドウィンの脳波のように、脳が眠ってノンレム睡眠の状態にあるのに、ある一部だけ局所的に起きている状態だと考えられます。

それに対し、解離性同一性障害は、脳は基本的に起きている状態なのに、脳の一部分だけが眠りについている状態かもしれません。

解離性同一性障害の人は、起きながら、半分夢の中に生きている可能性があるのです。

ローカルスリープと精神疾患

ローカルスリープが、精神疾患とも関係しているかもしれない、という可能性は、やはり<眠り>をめぐるミステリー―睡眠の不思議から脳を読み解く (NHK出版新書)の中で櫻井先生が指摘しています。

実際、夢の中の精神活動は一部の精神疾患に似ている。夢は幻覚だと述べたが、幻覚は一部の神経疾患に見られる症状である。(p103)

たとえば統合失調症では幻覚が生じますが、それはあたかも起きながら夢を見ているようなものだと解説されています。

統合失調症は自分の奇抜な妄想を妄想だと認知できませんが、それは、夢の中にいる人が、夢の荒唐無稽な内容に疑いを抱かないのとそっくりです。

統合失調症は、起きているのに、理性をつかさどる前頭前野が一部寝ている状態なのかもしれません。

また、1959年のピーター・トリップという人の200時間不眠マラソンでは、断眠が長引くにつれ、妄想や幻聴が顕著になりました。やはり睡眠が阻害されると、幻覚などの精神異常が生じるようです。(p191)

しかしながら、ここまで見てきた内容のとおり、ローカルスリープと最も関係が深いと考えられる精神疾患は、間違いなく解離性障害です。

冒頭で引用した言葉が示すように、解離性障害の人の日常は、夢と現実が織り合わさっているかのようだと言われます。

解離性障害の人は、あたかも起きながら夢を見ているかのようであり、夢の中で現実を生きているかのようなものです。

これから、解離性障害の人の日常生活に現われるさまざまな奇妙な問題と、ナルコレプシーなどの睡眠障害との類似点をさらに細かく考えてみたいと思います。

夢と覚醒のはざまで何が起こるか

解離性障害のメカニズムが、起きているのに脳の一部が眠るローカルスリープにあるとしたら、それはあたかも、半分眠り、半分起きているような状態です。夢と覚醒のはざまにいると表現してもいいでしょう。

わたしたちは、だれでも、そのような夢と覚醒のはざまを体験したことがあるはずです。それは、寝起き、また寝入りばなの、うとうとしてまどろんでいる状態です。

解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論によると、そのような入眠時体験が次のように描写されています。

覚醒と睡眠の中間である入眠時には、覚醒時の思考の秩序がしだいに失われ、思考は緩み、半ば自動的となる。

思考や知覚、表象はまとまりを欠き、脱線、混乱、断片化し、体験は受動的になる。

幻覚を伴うことも多く、入眠時幻覚(hypnagogic halluciantion)の初期には光や色彩、幾何学模様、要素的な音が瞬間的に感じられる。

自分の名前を呼ばれるという体験も多い。

中期には顔や動物、景色などがみられ、後期にはエピソードが鮮やかな映像になると言われている。(p155)

半分起きて、半分寝ている状態では、さまざまな不思議なことが生じます。

多くの人にとって、そのようなまどろみは一瞬でしょうし、中には寝つきが良くて、入眠時体験を意識しないままバタッと寝入る人もいます。

しかし解離性障害の人にとっては、その入眠時体験が、起きている間中、ときには寝ている間もずっと続いています。

6つの点を詳しく見てみましょう。

1.入眠時幻覚

まず入眠時体験として特徴的なのは、入眠時幻覚、および出眠時幻覚です。

寝るときに奇妙な幻覚を見るというのは、さほど珍しいことではなく、昔からさまざまな人が言及しています。

脳神経学者のオリヴァー・サックスによる、見てしまう人びと:幻覚の脳科学という本によると、1883年、ダーウィンのいとこのフランシス・ゴルトンが入眠時幻覚について体系的な調査を行い、比較的ありふれたものであることを示しています。(p240)

ゴルトンは入眠時に幻影を見る傾向を病的なものとは考えなかった。

むしろ、眠りにつくたびに経験する人はわずかかもしれないが、(すべてではないにしても)ほとんどの人が少なくとも一度は経験している、と考えていた。

実現するには特別な条件―暗闇か目を閉じた状態、心が不活発な状態、もうすぐ眠りに落ちる状態―が必要であるとはいえ、それは正常な現象なのだ。(p242)

このような入眠時幻覚、および少しまれな出眠時幻覚は、経験しやすい人とそうでない人がいますが、決して珍しいものではありません。

この入眠時幻覚が特に極端に現われるのは、すでに触れたナルコレプシーという病気です。

ナルコレプシーでは、瞬間的に眠りに落ちるため、まるで日常に重なるようなリアルな幻覚が生じます。

<眠り>をめぐるミステリー―睡眠の不思議から脳を読み解く (NHK出版新書)にはこうあります。

ナルコレプシー患者は覚醒状態からの連続でレム睡眠に陥ってしまうという症状があるため、このときに見る夢は、本人すら夢と思えない。

現実の中で起こったことと区別のつかない「幻覚」として認知されてしまう性質のものになることがある。(p129)

このナルコレプシーと同じような、日常と区別のつかないレベルの幻覚は、解離性障害でもよく見られます。

特に解離性障害では、統合失調症と違って、幻聴だけでなく幻視も多く、それは夢の視覚イメージととてもよく似ています。

記憶に残る夢を見るのは、特にレム睡眠のときだとされていて、鮮やかだったり奇抜だったりするものが多いそうです。

レム睡眠のときは、視覚連合野が活発に働いていて、目からの情報ではなく、記憶の情報を視覚化しています。(p97)

解離性障害の人は、現実の映像も見えていますが、幻視も重ね合わさって見えるので、視覚連合野が目からの情報と記憶からの情報を両方処理していることになります。

つまり、確かに起きているのに、脳が局所的にレム睡眠状態になっていると考えれば説明がつきます。

2.リアルな夢

次に考えたいのは、解離性障害の患者が、とてもリアルな夢を見やすいことです。

以前の記事で取り上げたとおり、解離性障害の人は、現実と夢の区別もつかないほど鮮明で五感の感触を伴う夢を見やすいそうです。

解離しやすい人の変な夢ー夢の中で夢を見る,リアルな夢,金縛り,体外離脱など | いつも空が見えるから

これは、やはりナルコレプシー患者の入眠時幻覚と、その後に続く夢の特徴と似ています。

ナルコレプシー患者は、寝入りばなにすぐにレム睡眠に入ってしまうことがある。

このときに見る夢は、大脳皮質がまだ覚醒状態に近い状態で活動しているため、非常にリアルで実在感に富んだものに感じられるのだ。(p129)

ナルコレプシーの場合、瞬間的に眠ってしまい、まだ大脳皮質が活動している間にレム睡眠が始まるため夢がリアルになるようです。

解離性障害の場合は、ナルコレプシーのように瞬間的に眠るわけではなくても、夜の普通の睡眠の夢がリアルな夢となります。

これは、おそらく、目が覚めているときに脳の一部が眠っているのと同様、寝ているときも脳の一部が起きていることを示しているのではないかと思います。

起きているときも、寝ているときも、局所的に起きたり眠ったりしていて、冒頭に引用した柴山雅俊先生の言葉どおり、「覚醒を夢の方向に引き寄せ、夢を覚醒の方向へ引き寄せている」状態になっているのではないでしょうか。

ちなみに解離性障害の特徴を色々示していたと思われる夏目漱石は、リアルで奇妙な夢を見ることが多かったようで、「夢十夜」という作品を書いています。

3.金縛りと体外離脱

解離性障害の人が経験しやすい睡眠問題の中には、ほかに金縛りや幽体離脱があります。

これらはオカルト的に説明されがちですが、実際には睡眠障害と関係があります。

特に、金縛りはナルコレプシーの人に生じやすく、「睡眠麻痺」という名前で知られています。

また、入眠時幻覚を見ているとき、多くの場合、通常のレム睡眠と同様に筋肉の力は完全に脱力状態にあり、当人は「金縛り状態」(睡眠麻痺)を体験することになる(詳細は第五章参照)。

健康な人のレム睡眠では前頭前野の活動が低下しているため、金縛りを実感できないが、ナルコレプシーの患者さんの場合は入眠直後に経験するため、金縛り状態を明確に自分で感じ取ることになる。(p130-131)

金縛りのメカニズムは、ここまで考えてきたローカルスリープと関係があります。

通常、レム睡眠中は、夢をたくさん見ます。夢の中で、飛び跳ねたり走り回ったりすることもあるでしょう。

そのときに、もし脳と体の情報伝達がつながったままだと、夢の中でサッカーボールを蹴ったら、同時にとなりに寝ている奥さんを蹴りかねません。

それで、夢を見ているレム睡眠の間は、体と脳が切り離され、骨格筋を脱力させるように指示が出されています。

このレム睡眠中にたまたま意識が目をさましてしまうと、目は覚めているのに骨格筋の脱力のため体が動かない金縛り(睡眠麻痺)として認識されるのです。

逆に、レム睡眠中に、骨格筋の脱力がうまくいかず、脳と体がつながったままになっていると、先ほど例に挙げたように夢と同期して奥さんを蹴ったり殴ったりしてしまう「レム睡眠行動障害」が起こります。

そして、脳と体の感覚が切り離され、感覚統合が働いていないときには、幽体離脱や体外離脱と呼ばれる現象が生じやすく、霊体験と誤解されることがあります。

いずれにしても、脳がレム睡眠状態にあるのに、一部だけ起きていると金縛りや体外離脱といった奇妙な現象が生じます。

解離性障害の患者が寝るときにこれらの現象を感じやすいことは、やはり寝ているときに脳の一部が起きていることを示しています。

また解離性障害では、起きているときに何かの拍子で幽体離脱が起こる人もいますが、これは逆に起きているのに脳の一部が瞬間的に眠ってしまっていることによると考えられます。

4.自生思考

夢と覚醒のはざまにある、入眠時体験には、他に「自生思考」と呼ばれる、どんどん考えが自動的に湧いてくるような体験があります。

頭がさわがしい,次々と考えや映像が浮かぶ「思考促迫」とは何かー夏目漱石も経験した創造性の暴走 | いつも空が見えるから

自分の意志に反して、次々に考えが湧いてくるこの現象もまた、入眠時だけでなく、解離性障害でもよく報告されるものです。

続解離性障害の中で、岡野先生はこう語っています。

自生思考というのは睡眠に関係していて、寝入りばなと、起きたときの自生思考というのは健全な場合に起きるわけですから。

でもそれが、夜、睡眠に関係して、DIDで起きやすいというのもあるでしょうね。(p199)

DIDとは解離性同一性障害のことですが、解離性障害の分野では、こうした自動的にイメージが湧き上がってくる現象は、「思考促迫」とも呼ばれています。

「自生思考」や「思考促迫」的な現象は、ときに創造的な役割を担うこともあり、多くの偉人たちが、この現象によってアイデアを思いついたと述べています。

天才の脳科学―創造性はいかに創られるかという本では、数学者アンリ・ポアンカレの話が載せられています。

ある晩、いつもと違って、ブラック・コーヒーを飲み、眠れなくなった。いくつもの構想が雲のように湧いてきた。

それらが互いにぶつかり合い、何組かが組み合わさり、いわば安定した組み合わせができた。

翌朝までに私は、超幾何級数から生ずる一連のフックス関数が存在することを証明できた。(p71)

このような夜寝る前や朝起きたときに、幾つもの構想が雲にようにポコポコと湧き上がってくるのは、健全な範囲での自生思考の一種です。

このような自生思考は、半分寝た状態で、前頭前野のコントロールが緩み、夢の記憶想起が自由に行われはじめたのを、半分目が覚めていて認識している状態なのでしょう。

解離性障害や統合失調症、アスペルガー症候群では、この自生思考が起きている間も頻繁に起こり、ときには苦痛になる場合さえあります。

ちなみに、今書いているこの記事の内容も、今年の元日の夜に、自生思考のようにしてアイデアがやたらと浮かんできたのでまとめました。

5.過敏

夢と覚醒のはざまに起こる体験の中には、「過敏状態」もあります。

一見、過敏というと、脳がしっかり覚醒しているときに起こる状態のように思えますが、そうではありません。

解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論にはこう書かれています。

「存在者としての私」は現実世界の中の私であり、「眼差しとしての私」の前に浮かび上がる私であるとともに、周囲空間に対して過敏に反応する私である。

それは一見過剰覚醒的であるが、一方で入眠時の実体的意識性に類似しており、「入眠(浅い眠り)の病理」ともいえる特性をもつ。

そこでは周囲に対する不安とともに、意識野は拡大していることが多い。(p200)

解離性障害では、さまざまな過敏症状が生じます。たとえば後ろにだれかいるという気配に敏感になったり、他者の言葉に過敏に反応したり、さまざまな感覚が鋭くなったりします。

こうした過敏症状もまた、しっかり目が覚めている状態ではなく、入眠時体験のように浅く眠っている状態に特有のものです。

たとえばナルコレプシーの患者は、入眠時幻覚に非常に強い恐怖を覚えることがあります。

入眠時幻覚がリアルだったり金縛りを伴ったりという点も関係していますが、脳の一部が眠って理性的な判断が弱まっていることとも関係してると思われます。

人間の恐怖などの感情は、扁桃体などのXシステムを、理性をつかさどる前頭前野などのCシステムが抑えこむことで機能しています。(詳しくはこちら)

しかし、前頭前野が半分眠っている状態になると、普通以上の劇的な感情を感じやすくなり、過敏状態になるのかもしれません。

鮮明な夢の中で、だれかに追いつめられて凄まじい恐怖を感じたり、反対に何でもないようなことに信じられないほどの喜びを感じたりした経験のある人もいるでしょう。

夢と覚醒のはざまにいる解離性障害では、悪夢を見るときの切羽詰まった感情に似た過敏さを日常的に感じることがあるのです。

現実感がない「離人症状」とは何か―世界が遠い,薄っぺらい,生きている心地がしない原因 | いつも空が見えるから

6.多重人格

最後に、夢と覚醒のはざまの最後の特徴として、多重人格を取り上げます。

解離性同一性障害の人格の変容は、非常に不思議な現象ですが、これは脳が半分目覚め、半分寝ている状態だと考えると、幾分理解しやすくなります。

なぜなら、わたしたちは、誰もが、夢の中では、別の自分になりきる経験をしているものだからです。

夢の中では、現実とはまったく違う経歴や見た目、性別の自分になっていることも多く、しかも自分ではそれに疑問を感じません。多重人格も、それと似ています。

別の人格が現われることが、脳の一部が眠ることとどれほど関係しているのかについて、詳しいことはわかりません。

脳をスキャンすれば、はっきりとどこか脳の一部が活動せず眠っているというレベルの変化は解離性障害では起きないのかもしれません。

(※解離による転換性障害で目が見えなくなったり歩けなくなったりする場合は、はっきりとした変化があるかもしれません。→人格が切り替わるとスイッチのように視覚が復活する盲目の女性 - GIGAZINE )

しかし脳のある部分の活動が目に見えないレベルで低下すると、それを補うように、別の部分の活動が活発になり、全体としての脳のバランスが変わることはあるのかもしれません。

あたかも、ちょっと地形が変わっただけで、川の流れの道筋が大きく変化するようなものです。

すると、「受動意識仮説」から考えれば、脳の用いられるネットワークが少し変化するだけで、それが織りなす人格は別のものとなる可能性があります。

わたしたちの人格は、固定されたものではなくて、用いられる神経細胞の内容に基づいて構成されているものだと考えられるからです。

多重人格の原因がよくわかる7つのたとえ話と治療法―解離性同一性障害(DID)とは何か | いつも空が見えるから

睡眠障害として考える解離のメカニズム

このように、解離と睡眠障害には、さまざまな共通点があります。

解離性障害は、起きているでもなく、眠っているでもなく、脳の一部が起きていて、脳の一部が眠っているローカルスリープの異常だと考えれば、多くの症状に説明がつきます。

それにしても、なぜ、覚醒中に、脳の一部が眠っているような状態になるのでしょうか。

覚醒中に記憶の処理が生じている?

この点で、興味深い意見と思えるのが、いま、小児科医に必要な実践臨床小児睡眠医学に載せられていた、熊谷晋一郎先生の考察です。

この考察はアスペルガー症候群などの自閉スペクトラム症(ASD)の当事者研究によるものですが、ASDで解離が生じやすいことはよく知られています。

綾屋の記述する夢侵入は、直近の覚醒時に取得された新規エピソード記憶を再活性化するフラッシュバックや、そのフラッシュバック内容の意味を抽象化・推論・洞察しようとするヒトリ反省会など、情報処理においては上記のシステム・コンソリデーションをなぞっていると考えられる。

しかし一般には、システム・コンソリデーションは徐波睡眠中に行われるものなので、その過程が意識に上ることはない。

綾屋の当事者研究から示唆されるのは、少なくとも一部のASD者においては、何らかの原因によって、システム・コンソリデーションの過程が覚醒期間中にも作動しており、それが意識に上って熟眠を阻害しているということである。(p101)

少し難しい内容ですが、簡単にいえば、ASDの人が起きている間に経験するフラッシュバックなどの現象は、本来、深いノンレム睡眠中に行われる記憶処理が、起きている間にも生じていることを意味しているのではないか、ということのようです。

<眠り>をめぐるミステリー―睡眠の不思議から脳を読み解く (NHK出版新書)によると、ノンレム睡眠は記憶の固定や強化、レム睡眠は残すべき記憶の選別の役割を担っているのではないかと書かれています。(p172)

自閉スペクトラム症の人たちは、五感から入力される情報量が多くて溢れやすいため、目が覚めているときも睡眠中の記憶の処理過程が働いていて、それがフラッシュバックなどの形で現れているのかもしれません。

自閉スペクトラム症の解離現象に、覚醒中にも睡眠のメカニズムが入り込んでいることが関係しているとすれば、解離性障害の場合も、同様の現象が起こっている可能性があります。

アスペルガーの解離と一般的な解離性障害の7つの違い―定型発達とは治療も異なる | いつも空が見えるから

あふれるネガティブ感情を処理するための適応? 

では、解離性障害で、起きている間も記憶の処理が行われなければならない理由とは何なのでしょうか。

あくまで推測でしかありませんが、<眠り>をめぐるミステリー―睡眠の不思議から脳を読み解く (NHK出版新書)の中の、レム睡眠の役割について書かれている部分が参考になります。

カリフォルニア大学バークレー校のマシュー・ウォーカーは「睡眠をよくとると、“嫌なこと”は忘れて、“良い思い出”は記憶として残りやすくなる」と言っている。

これなども、レム睡眠時に感情と記憶の関連が整理されていることの表れかもしれない。(p106)

ノンレム睡眠が記憶の固定に関係しているのに対し、レム睡眠は、感情に基づいて、ポジティブな記憶とネガティブな記憶を選別していると考えられています。

夢を見るのは、ほとんどが浅いノンレム睡眠かレム睡眠のときだと考えられていますが、レム睡眠中の夢は、さまざまな感情を伴うことが多いものです。

このレム睡眠による記憶の分別が正しく行われると、次のような結果がもたらされます。

ウォーカーによれば、ネガティブな感情に関わる記憶力は睡眠不足によってもそれほど影響を受けないという。

睡眠をとると、ポジティブな感情に関する記憶が、ネガティブな感情に対する記憶に比べてよく残るという。

しかし、睡眠不足では全体的に記憶力が低下するのに、ネガティブな感情に関わる記憶だけはしっかり残ってしまうというのである。(p174)

解離性障害では、目が覚めているときも、幻覚を見たり、過敏な感情を感じたりすることから、夢を見るレム睡眠に似た記憶処理のプロセスが常に働いていると思われます。

ノンレム睡眠のほうがどうなっているのかはよくわかりませんが、いずれにしても、起きている間にも、記憶を処理し、ネガティブとポジティブを選り分けなければならない状況が生じている可能性があります。

そもそも解離性障害とは、安心できる居場所を喪失し、持続的、慢性的なトラウマ状況に置かれたときに、記憶や感情を切り離して自分の心を守ろうとする防衛反応です。

圧倒さとれるような不安や、苦痛、悲しみ、といった感情を抱えきれなくなったときに心が解離しはじめ、記憶を分断したり、人格を分離させたりして、自分で自分を守るのです。

とすると、解離というのは、あたかも、自分で自分の脳の一部分をローカルスリープさせているようなものではないかと思います。

たとえば虐待された子どもの脳に関する友田先生の研究では、暴力を見ないように視覚野が変化したり、罵詈雑言を聞かないよう聴覚野が変化したりますが、それらは生き延びるための適応でした。

だれも知らなかった「いやされない傷 児童虐待と傷ついていく脳」(2011年新版) | いつも空が見えるから

そのような脳の変化がすなわち解離の本質であるとすれば、覚醒中にも記憶を処理する睡眠のプロセスが生じるのは、圧倒されるような不安情報を処理しようとする適応なのかもしれません。

脳が興奮することで睡眠のバランスが崩れている?

あるいは、もう一つの見方としては、圧倒的な不安情報などが脳に氾濫することで、脳が常に過度の緊張状態に置かれ、睡眠のバランスが崩れている可能性もあります。

扁桃体などが常に警告を発していて、一日中過度の緊張状態にあるため、脳が全体として夜に眠ることができず、眠りが不十分になるので、その分、昼間に眠りが部分的に生じているという考え方です。

夜の眠りが半分目覚めているかのようなリアルな感覚を伴うようになっていて、昼間の生活が、半分寝ているかのような幻を伴うものになっているということからすると、原因は夜の眠りの質の悪さにあると解釈することも可能でしょう。

実際に、解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論によると、 解離性障害の治療の一つに、鎮静系の薬物や安心できる環境を用意し、心身の緊張を和らげる方法があると書かれています。

解離の回復過程を振り返ると大きく二つの経路がある。眠りの経路と目覚めの経路である。

眠りの経路は他者の保護にょって包まれ、その中でまどろむことである。これは比喩的に言えば、母親に包まれ、安心できる居場所を獲得することである。

入院などの保護的環境や生活の制限、さらには鎮静系の薬物治療などもそれにあたる。他者に対する依存の中で癒され、眠りに入るのである。(p204)

脳をおびやかす さまざまな不安情報のせいで、脳の眠りが妨げられているのだとすれば、心身の緊張を解いて、副交感神経を活性化させ、夜の睡眠の質を確保することで、昼間の解離性障害の治療につながることもありそうです。

もちろん、心身が緊張しているおおもとには、安心できる居場所がないという不安情報が存在しているので、そちらの心の傷を癒やすことも大切な意味を持ちます。

こちらの観点からすると、解離性障害の睡眠障害は、記憶を処理しようとする適応ではなく、むしろ睡眠の構造が崩れて記憶を処理できなくなっていることの表れだといえます。

脳のほうは、なんとかして苦痛に満ちた記憶を処理したいのですが、交感神経の緊張に寄って、夜中の睡眠の質が悪いため、その過程がうまくいきません。

それで昼間にもレム睡眠に似たプロセスが生じて記憶を処理しようとするのですが、働きが不完全なため、エラーばかり吐き出してしまいます。それが解離性障害の幻覚などの症状かもしれません。

この点で、解離性障害の治療としてEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)に効果があることは注目に値します。

EMDRがネガティブ記憶の再処理に効果があるのは、レム睡眠と同じメカニズムを活用していると考えられています。

レム睡眠のREMは、「眼球高速運動(Rapid Eye Movement)」の略ですが、EMDRはそれと同様に、目を左右に高速に動かすことで、記憶の再処理を進めます。

解離性障害の場合、睡眠中のレム睡眠で記憶の処理がうまく行っていないのだとすると、睡眠の質を改善させたり、あるいはEMDRによって擬似的にレム睡眠を再現したりすることが治療に役立つのかもしれません。

解離から考える疲労、発達障害

ここまで考えてきたのは、おもに解離性障害や解離性同一性障害といった特徴的な病気と睡眠障害の関係ですが、そもそも解離はもっと一般的なものとして、さまざまな病気と関わっているのかもしれません。

解離の疲れやすさは睡眠障害から?

たとえば、解離性障害のメカニズムのところで、あふれる不安情報のため、交感神経優位になって夜の睡眠の質が悪くなり、日中に局所的な睡眠が生じる可能性を挙げました。

これは、学校を捨ててみよう!―子どもの脳は疲れはてている (講談社プラスアルファ新書)などの中で、三池先生が不登校の子どもの体調悪化のメカニズムとして示しているものと似ています。

不登校の子どもは、学校生活で自分の居場所のなさを経験し、不安や緊張を常に感じるようになると、神経が高ぶって夜眠れなくなり、概日リズム睡眠障害や慢性疲労症候群に至ると言われています。

不登校になる子どもが感じる居場所のなさは、解離性障害の人が感じる安心できる居場所の喪失とよく似ています。

実際に、この本に出てくる慢性疲労を訴える子どもたちの性格特性は解離性障害の場合とよく似ています。

空気を読みすぎて疲れ果てる人たち「過剰同調性」とは何か | いつも空が見えるから

不登校状態になると、頭が働かない学習記憶障害や、性格の変容、暴力を振るうことなどが見られるそうですが、これは解離性障害の離人症や、軽度の人格交代(スイッチング)に似ています。

さらに不登校の子どもは、睡眠障害をきっかけに、うつ状態や慢性疲労に陥るとされていますが、それらは解離性障害に特徴でもあります。

解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理 (ちくま新書)にはこう書かれています。

解離性障害の患者の多くがうつ状態を呈する。疲れやすい、だるい、憂うつで死にたいなどという気分については、程度の差こそあれ、患者のほぼ90%以上が肯定する。(p146)

さらに、続解離性障害の中で、セラピストの奥田ちえさんがこう語っていました。

日本に戻る前の幾年かは、behavioral medicine specialistとして、身体表現性障害の患者さんで慢性的なうつや機能障害を持つ患者さんを診るようになりました。

これらの患者さんのセラピーをしていると、相当な数の人に過去のトラウマの話が浮かび上がり、機能低下がトラウマに関係している印象を受けました。

特に、私からみると、幼少期から慢性的なネグレクトと思われる環境で育ったけれど、自分はそう思わずにがんばってやってきた人などは、1つの典型的なタイプと思われました。(p205)

いずれにしても、トラウマ記憶がもとで、慢性疲労、慢性疼痛などの身体表現性障害が生じることがわかります。

これは、(1)脳が緊張状態になる→(2)夜の睡眠の質が悪くなる→(3)昼間に部分的な睡眠が生じ、解離症状として現われる→(4)常に脳の一部が眠っている状態なので過敏状態にある→(5)疲れたり機能不調が起こったりする、という状態なのかもしれません。

そうすると、解離性障害の疲労感も、ある種の身体表現性障害の疲労感や慢性疼痛も、そして不登校の子どもの疲労感も、少なくとも一部分では同じようなメカニズムが関係している同じである可能性があります。

ただし、解離が、脳の局所的な睡眠状態だとすると、解離を引き起こすのは何もトラウマだけではありません。

すでに述べたように、自閉スペクトラム症(ASD)では同じようなメカニズムが生じている可能性が指摘されていて、慢性疲労の子どもにもASDが多いとされています。

慢性疲労症候群の子ども(CCFS)には発達障害が多いー治療にはADHDや自閉スペクトラム症の理解が不可欠 | いつも空が見えるから

とすると、脳の局所的睡眠としての解離は、トラウマが原因のものもあれば、発達障害のような脳の構造が原因のものもあるということになります。

ADHDと睡眠不足、愛着障害が似ている理由

発達障害と解離の関係を考える上で、ADHDは欠かせません。

たとえば、ADHDは、脳の覚醒度が低いとされています。脳の覚醒度が低く、部分的に眠っているために、自己コントロールが苦手だったり、刺激的なものに依存してしまったりします。

ADHDのあまり知られていない12の特徴―脳の未熟さや運動障害、覚醒レベルの低さ、過集中など | いつも空が見えるから

また、すでにみたとおり、ラットは断眠状態では、脳の一部だけ眠るローカルスリープを示しますが、慢性的な睡眠不足環境にある子どもはADHDのような行動障害を示すと言われています。

第7回 “働くママ”の子の約半数が22時以降に寝るという事実 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

つまり、ADHDは、生まれつきの特性として、もともと脳の一部の覚醒度が低く、日中にローカルスリープが生じていることにより、さまざまな問題が生じている可能性があります。

例えば、ADHDの不注意優勢型の子どもが白昼夢にふけりやすいことは、夢と覚醒のはざまに入り込みやすいことを示していますし、アイデアをたくさん思いつくのも、少し自生思考ぎみなのでしょう。多動症状も前頭前野が少し眠っていて、抑制が利かないのだと解釈できます。

何より、ADHDに用いられる薬であるメチルフェニデートは、睡眠障害のナルコレプシーに用いられる薬でもあります。どちらの場合も、脳が局所的に眠ってしまうので、覚醒作用のあるメチルフェニデートで目覚めさせることで症状が改善するのではないでしょうか。

また、ADHDは、反応性愛着障害(RAD)とよく似ていて見分けがつかないと言われます。

愛着障害は、虐待やネグレクトされた子どもが、不注意、多動などのADHD様症状を示すもので、解離性障害と深いつながりがあります。

よく似ているADHDと愛着障害の違い―スティーブ・ジョブズはどちらだったのか | いつも空が見えるから

この記事で考えてきたことからすると、なぜADHDと愛着障害が似ているのかは明らかです。

ADHDで、おそらく生まれつき睡眠の質が悪いなどの脳の特性のために、脳が一部だけ眠っている状態にありますが、愛着障害では、圧倒される不安情報により解離が生じて、脳が一部だけ眠っているわけです。

原因は違うにしても、起きている間に脳の一部だけ眠っている状態になっているのは同じなので、結果として症状はとても似てきます。

ADHDでは、慢性疼痛や慢性疲労を感じる人も多いようですが、これもすでに考えた解離性障害の過敏と同様の、夢と覚醒のはざまにある状態の現れかもしれません。

半分まどろんでいる状態だと注意力が低下するのは当然ですし、自己抑制も難しく、感情や痛み、疲労をうまく処理できず、実際より強く感じてしまうかもしれません。

ADHDの人は若くして慢性疲労症候群(CFS)になりやすい―治療で疲労や痛みが改善 | いつも空が見えるから

解離と睡眠障害の接点を考える

ここまで書いてきたことは、もちろん単なる推測にすぎません。そもそもわたしは専門家ではないので、単なる個人の思いつきです。

どこまでが真実に近いのか、それともまったくの的外れなのかもわかりませんし、何より、ここに書いたことはまだ荒削りすぎると思っています。

そもそも知識が圧倒的に足りませんし、既存の概念にとらわれすぎているのも確かです。

これまで、睡眠とか解離とか発達障害というのは、まったく別の分野として研究されてきた歴史があります。

すると、実は同じ現象であるのに、それぞれの研究者が別々に名前をつけて、別々に定義して、あたかも違うもののように認識されてしまっているかもしれません

複数の探検者が別々の新大陸を発見したと報告していても、調査が進むと、実は互いにつながっている一つの大陸だった、というようなものです。

そもそも、わたしがここに書いたようなことも、多分、どこかの研究者がすでにまとめているのではないかと思うのですが、今のところわかりません。

このブログは、今も昔も、わたしが他人を意識せず、自分の考えを自由にメモする場所なので、単に気になることを言語化してまとめてみただけです。

今後、さらに知識が増えて、色々なことがわかることを期待しています。


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