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化学物質が引き起こす「免疫の反逆」

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ところが15歳のときに筋肉や関節が痛み出し、絶えず疲労感を覚えるようになった。「どうもインフルエンザにかかったばかりのような、どこがどう悪いのかはっきりしない感じ」だったとラシェキアはいう。症状は数週間続いた。

一ヶ月が過ぎ、二ヶ月が経過すると、母親は娘の憔悴しきった様子に心配を募らせた。10代の若さで能力以上に頑張りすぎたためのただの燃え尽き症候群ではないように思えた。(p97)

シェキアはその後、何度もかぜを引き、歩くだけで体じゅうに痛みが広がり、のどの痛みと鼻づまりが慢性化しました。徹底的なだるさを特色としたこの病気の正体はいったいなんでしょうか。

そのころニューヨーク州バッファロー市では、このようなひどい疲労を伴う病気が集団発生しました。その原因は、放置されていた化学物質の汚染にありました。病名はループス(全身性エリテマトーデス)と、他のさまざまな自己免疫疾患だったのです。

慢性疲労症候群(CFS)は自己免疫疾患とも関わりが深いと言われるので、自己免疫疾患と化学物質やウイルスとの関係に注目した本、免疫の反逆を読んでみました。

これはどんな本?

この本の著者ドナ・ジャクソン・ナカガワは、ギラン・バレー症候群や小径繊維ニューロパチー、甲状腺機能低下症といった自己免疫疾患と長年闘ってこられた方です。子どもを育てながらの闘病史は第一章に綴られています。

「からだの中で幾度も森林火災が起きると、そのたびに健全な状態に戻すのは難しくなる」との医師の言葉通り、再発を繰り返す困難な闘病生活です。(p7)

彼女はジャーナリストとしての職業柄、自己免疫疾患とは何か、という点を調べ始めます。その結果明らかになったのは、「自分の病気など、顕在化している世界的な健康危機のほんの一角にすぎない」ということでした。(p10)

なお、この本を読むことにしたのは、CFSを診ておられる三浦一樹先生が紹介しておられたからです。

黙殺されていた病気

自己免疫疾患とは、多発性硬化症や、1型糖尿病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、潰瘍性大腸炎、クローン病など、100近い数の病気の総称です。

自己免疫疾患は自分の免疫が混乱して自分を攻撃する病気ですが、そのメカニズムはほんのすこし前まで、医学界では認められていませんでした。

本書の第一章には、それが「黙殺された科学」だったと書かれています。科学者たちは免疫が自分に刃を向けることなどありえない、と凝り固まっていて、「自己中毒忌避」という前提を頑なに信じていました。

やがてローズとバイテブスキーが、定説を覆す発見を大変苦しみながら世に送り出します。それでも、医学教育で自己中毒忌避を叩きこまれた“スペシャリストたち”は決して自己免疫疾患を認めようとしません。(p39)

しかしその間にも、自己免疫疾患の患者は増加の一途をたどっていました。特に西側諸国でその数が急増し、自己免疫疾患は「西洋病」と呼ばれるようになりました。(p31)

自己免疫疾患の患者は医師をわたり歩き、正しい診断が下るまでに平均6人の医師を転々とし、45%は初期に気のせいと決めつけられていました。(p35)

いったい何が増加を引き起こしていたのでしょうか。

自己免疫疾患と化学物質

何がきっかけで起きるかわからない不思議な病気が多発しているのに、医学界が知らんぷりを決め込んでいた時期と、SUV車からテフロンのフライパン、家具に至るまで、難燃性の製品が社会の中に急速に広まった時期とが偶然にも重なったことは、大勢のアメリカ国民の幸福な生活を一変させる不吉な前兆だった。(p44)

一見なんの関係もなさそうなこの2つのできごとが密接にかかわっていることは、最初に挙げたバッファロー市での自己免疫疾患の大量発生などの事例から、明らかになりました。

自己免疫疾患の発症につながるきっかけは、ここ何十年かの間に、わたしたちの身の回りに急増しました。エコに気を使い、ごく普通ののどかな日常を送っている人でさえ、次のような事態に直面しているといいます。

しかし、である。侵入者や感染症などからベッキーを守る免疫細胞の立場から眺めると、この火曜日がのどかな一日だったとはとてもいえないようだ。

この日もまた、化学物質や工業用剤の猛攻を受けて、免疫システムは常に警戒態勢を強いられていた。ベッキーのからだは、新しい刺激物に遭遇するたびに細胞レベルで絶妙な連鎖反応が起き、外からの侵入物に対して闘うか否かの判断を瞬時に下していた。

一日中、ベッキーのからだはいつもどおり、接触した物質の悪影響が及ばないように必死に働いていたのである。(p50)

ここでいう刺激物とは、テフロン加工フライパンや加工食品、ペンキや接着剤など、わたしたちが普段の生活で触れるものです。

わたしたちがどれほど化学物質にさらされているかは、誕生した子どもを調べた研究からもわかります。2005年のアメリカ赤十字の調査では、新生児10人の臍帯血から、287種の産業化学物質や汚染物質が検出されたのです。(p52)

免疫学者と毒物学者が協力した研究では、「少量でも環境毒物にさらされると自己免疫反応が起こる可能性がある」ことがわかっています。

あまりに化学物質が多いので、化学メーカーは病気と化学物質の因果関係は決して証明できないとしています。それでも、化学物質と慢性病を結びつける証拠は日ごとに多くなっているそうです。(p81)

こうした化学物質に耐える力は遺伝的に人それぞれなので、同じ環境でも発症しやすい人と無感覚な人がいます。4人に1人の免疫システムは、からだの中にごくわずかなの量の化学物質があるだけで混乱してしまうと考えられています。(p83)

食事に気をつける

第六章「ライフスタイルを見直そう」では、クローン病と潰瘍性大腸炎の医師でもあり、寝たきりの患者にもなったジェラルド・ムリンのアドバイスに基づいて、食餌療法をはじめとした対策が書かれています。(p262)

なぜ食餌療法が大切なのでしょうか。なぜなら、免疫システムを混乱させる化学物質の数ある侵入経路のうち、最も大きなものの一つが食事だからです。(p267)

保存料まみれのパン、ドーナツ、パック詰めのコーヒー、ケーキ、砂糖をまぶしたシリアル、加工肉製品、ジャンクフード、清涼飲料水、冷凍食品…。殺虫剤や殺菌剤、ホルモン剤、抗生物質づけの肉や野菜も少なくありません。(p268)

この本を読むと、自己免疫疾患との闘いにおいて、食餌療法がいかに最後の砦であるかがうかがえます。医師もお手上げの状態では最良かつ不可欠の治療法なのです。(p264)

食物アレルギーや食物過敏症の検査も勧められています。(p276)

良い食事と避けたい食事は一部、次のようにリストアップされています。

良い食事:水銀含有量の少ない魚(天然のサケ、サバ、イワシ、白身魚など)、成長ホルモン不投与のニワトリのタマゴ、有機栽培の野菜(ナスやトマトは避ける)、アボカド、新鮮な果物、無糖ヨーグルト、全粒粉パン、玄米、豆類、ナッツ、種子、スプラウト、有機バター、オリーブオイル、亜麻仁油、肝油、ごま油など。(p278)

ほかに抗酸化作用のある食品やサプリメント(p286-288)、必須脂肪酸(p288)、ビタミンD、クルクミン、イソギンチャク・エキス、ヘンルーダ、グルコサミン、プロバイオティクスなどが挙げられています。

また、ストレスを減らすために、瞑想などストレスコントロールテクニックが提案されています。(p300)

そして常識的な範囲で化学物質を避ける必要性が説かれています。(p310)

この本には、次のような希望が書かれています。

もしも明日の朝 目が覚めて、自己抗原がまったくない世の中になっていたら、どんなにいいだろう。環境から化学物質も重金属も姿を消し、食品は有機栽培されて常に新鮮で、汚染の心配のないものが手に入る。もはや自己免疫疾患を引き起こす多くの誘因を心配する必要はない。(p232)

そのような世の中は、今のところまだ実現しそうにありません。自分でできる限り身を守ることが欠かせいのです。 免疫の反逆は、わたしたちが置かれている現状に注意を喚起してくれる一冊です。


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