ネコさんが、「こーんな大きい魚を見たんだよ!」と必死に説明しようとしています。でもウサギさんは、笑って信じません。ウサギさんは、そのあたりにいる魚がどれくらいの大きさか知っているからです。
もう一つ例を挙げましょう。レッドウッドという世界最大の巨木があります。30階建て高層マンションと同じほど高い、100㍍にもなる木です。その樹木の林があるというニュースが流れたとき、はじめはだれも信じませんでした。木の高さがどれくらいか、バカでも分かると考えたのです。しかし実際それは存在しました。
知っていることほど想像できない
不思議なことに、わたしたちは、自分が経験していないことより、なまじ自分が経験していることのほうが、想像することができません。病気について説明しようとすると、そんな経験をたびたびします。
慢性疲労症候群という名前が誤解を招くのは、「疲れ」はだれでも経験のあることだからです。なまじっか経験があるために、さらに重い「疲れ」が、さらに長い時間続いたらどうなるのか、ということは想像しようがありません。
想像を難しくしている要素は2つあります。それは、期間と程度です。
同じ慢性疲労症候群という病気でも、慢性疲労症候群1年の人が10年の人の気持ちを想像するのは難しいことです。また、わたしのような中等症の人がベッドで身動き取れない重症の人の気持ちを想像するのもやはり難しいでしょう。
こうした理解しにくい慢性疲労症候群の症状を伝えるにはどうすればいいのでしょうか。
相手に聞かれたときに限りますが、重い荷物を引っ張りまわす様子を段階的にイメージしてもらうのはいいかもしれません。以前に、関西CFS協力会(現慢性疲労症候群 患者会(仮))さんのブログで読んだことがヒントになりました。
慢性疲労症候群のネコさんがウサギさんと話し合う様子を考えてみます。
ウサギ
「慢性疲労症候群ってどんな感じなの? やっぱり疲れやすいってこと?」ネコ
「そうだね。確かにとても疲れやすいんだけど、ふつうの疲れとは少し違うんだ。砂がいっぱいに詰まったおも~いリュックサックを背負って、これまた砂が満杯のキャリーバッグを引いているところを考えてみて。もしそのまま、一日中うろうろしなけりゃならないとしたら、どうなると思う?」ウサギ
「あー、それはすごく疲れそうだねー」ネコ
「だよね。でも、家に帰っても、その重いリュックサックを下ろしたらいけなくて、キャリーバッグも手に括りつけられている。料理をつくるときも、食事するときも、寝るときも起きるときもそのままだったら?」ウサギ
「それは大変だね…」ネコ
「そんな生活が一週間、いや、一ヶ月続いたら、どう感じると思いう?」ウサギ
「うーん、もう疲れ果てて、気が滅入っちゃうね」ネコ
「そんな生活が6ヶ月続いた人だけが、慢性疲労症候群って診断されるんだ。そして、それが10年続いたのがわたしなんだよ」
まずどれくらいの程度なのか(重い荷物)をイメージしてもらって、次に、どれくらいの期間なのかをイメージしてもらいます。
相手にイメージしてもらうことがカギなので、ゆっくり話せるときに限ります。また、長くなるので愚痴っぽくならないよう注意する必要もあります。それでも身近な人に説明する場合などに、単に「疲れる」というより、わかってもらいやすいのではないでしょうか。
はじめに登場したネコさんが大きな魚についてわかってもらうには、リアリティをこめてゆっくり描写する必要があります。レッドウッド国立公園について信じてもらうには、Googleイメージ検索で写真を見てもらう必要があるかもしれません。
相手が知っていることを話すには、“程度”や“期間”に注意して、じっくりイメージをふくらませてもらう必要があるのです。