EMDRはどうやってトラウマ記憶を再処理するのかーレム睡眠を利用した負担の少ない治療法
本書で述べてきたように、「狂っている」または制御不能と思われる反応には理由がある。 問題の根本的原因、あるいは健全で満足度の人生を送ることができるかどうかを決めるのは、無意識の記憶の結び付きである。(p246) 昨年、EMDRの開発者フランシーン・シャピロによる過去をきちんと過去にする:EMDRのテクニックでトラウマから自由になる方法が翻訳されていたので読んでみることにしました。...
View ArticleACE研究が明らかにした「小児期逆境後症候群」ーなぜ子ども時代の体験が脳の炎症や慢性疾患を引き起こすのか
フェリッティとアンダは、各個人のACE項目の数と成人後の病気や身体の不調に相関関係があるかどうかを調べた。その結果、両者は密接に関わっていることが判明し、アンダは「驚いた」だけでなく胸が締めつけられた。 「思わず泣いた」とアンダは語る。「どれだけ多くの人が苦しんできたかということを知って、涙が出た」。(p36)...
View Article自分の身体が感じられない生ける屍になった人たちー解離とアイデンティティ喪失の神経科学
重篤で遷延的(慢性的)なトラウマのサバイバーたちは、自らの人生を「生ける屍」のようだと述べる。 …1965年の感動的な映画『The Pawnbroker(邦題:質屋)』の中で、ロッド・スタイガーはソル・ナザーマンという失感情状態のユダヤ人ホロコーストのサバイバーを演じている。 ナザーマンは、自分が抱く偏見をよそに、身を粉にして働く黒人の少年に愛情を育んでいく。...
View Article頭や内臓の異物感,手足を虫が這うような不快感の理由ー解離の体感異常を脳科学で分析する
解離のある人は、頭や体の中の異常な感覚にひどく悩まされることがあります。このような感覚の異常を「体感異常(セネストパチー)」といいます。 …感覚の異常は、主に頭部や脳、皮膚、手足の指などに感じることが多いといえます。体の深部、内臓に異常を感じることもあります。...
View Articleうつ病や自殺は心の弱さではない科学的理由―ウィリアム・スタイロンの闘病記から学ぶ
鬱病は偏りなく手を伸ばして来るが、かなりの信憑性で実証されているのは、芸術家的なタイプ(とくに詩人)がとりわけその病魔に弱いということだ。 そして、この病気が深刻な臨床的表われ方をすれば、犠牲者の20パーセント以上が自殺の形をとる。このようにして倒れた芸術家たちの例を現代と近代からほんのいくつか拾うだけで、悲しくもあるが、キラ星のような名簿となる。...
View Articleなぜデジタル機器はADHD症状を引き起こすのか―脳はテクノロジーに適応する
シカゴ美術館付属美術大学の臨床部長として、学生の心のケアにあたるマイケル・ピートラスはADHD評価の専門家でもあり、テクノロジーが作業記憶(ワーキングメモリ)や情報処理の能力に影響を及ぼしているのはまちがいないと言います。 「テクノロジーとソーシャルメディアは、これらの能力に害を及ぼす恐れがある。...
View Articleソマティック・エクスペリエンス(SE)を知る10ステップ―「凍りつき」を溶かすトラウマセラピー
子どもが逆境やトラウマを経験すると、闘争・逃走反応を起こすか「凍りつき」状態となり、体の感覚が鈍る。 …最も効果的な方法の一つに、身体感覚に注意を向ける「ソマティック・エクスペリエンス」というセラピーがある。(p258)...
View Articleカウンセリングではトラウマを治療できないのはなぜか―物語ではなく経験が必要な理由
セラピストは、話すことにはトラウマを解決する力があると考え、その力に絶対的な信頼を置いている。…残念ながら、事はそれほど単純ではない。(p379) 私たちの研究における最も重要な発見は、次の事実かもしれない。 1893年のブロイアーとフロイトの主張とは裏腹に、トラウマを、それと結びついた感情のいっさいとともに思い出しても、必ずしもトラウマは解消しないのだ。...
View Article無意識に人格が切り替わってしまう「スイッチング」とは?―多重人格をスペクトラムとして考える
その症状は劇的ではあるものの、解離性同一性障害に見受けられる内部分裂や異なる人格の出現は、幅広い精神生活の領域の極端な例にすぎない。 自分の中に相容れない衝動や部分がいくつもあるという感覚は誰しも抱いているが、トラウマを負い、生き延びるために極端な手段に頼らざるを得なかった人々には、とりわけ顕著なのだ。(p457)...
View Article心は脳だけでなく身体全体から作られる―神経学者ダマシオの自己意識の研究を読み解く
トラウマ研究の第一人者であるベッセル・ヴァン・デア・コークは、このブログで頻繁に引用している身体はトラウマを記録するーー脳・心・体のつながりと回復のための手法の中で、ある本のことを「私にとって最も重要な本」と呼んで紹介しています。 ダマシオは一連の見事な科学論文や書物の中で、体の状態と情動と生存との間の関係を明らかにした。...
View Article発達障害やトラウマの過敏性,不眠,凍りつきなどに降圧薬(インデラルやカタプレス)が効くのはなぜなのか
トラウマ性疾患や発達障害の過覚醒などによく使われる薬の中に、「交感神経遮断薬」として分類される、一群の降圧薬があります。 たとえば、身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法には、こうあります。 プロプラノロール(インデラル)やクロニジン(カタプレス)のように自律神経系に働きかける薬は、過覚醒やストレスへの反応を抑える助けになりうる。(p369)...
View Articleヨーガで身体の声を聞く―トラウマや慢性疼痛に身体セラピーが役立つ理由
ヨーガは東洋において数千年前から実践され、その達人たちは多くの身体的、情緒的精神的恩恵を手にしてきた。 しかしながら、つい最近まで、それらの効果が科学的に定量化されることはなかった。 だが、トラウマ治癒におけるヨーガの有効性と明確な生理学的効果に対するベッセル・A・ヴァン・デア・コークの説得力ある研究によって、この永遠の健康増進術のきわめて新しい適用法が示されたのである。...
View Articleもはやトラウマは心の病ではなく内臓の微生物群集(マイクロバイオーム)を取り巻く生態系の問題だというパラダイムシフト
たいていの患者と同じく、ジェニファーは、身体や情動に関する一連の症状が相互に関連している可能性や、幼少期のストレスに満ちた暮らしに結びついている可能性を、まったく考えていなかった。 まして、幼少期の経験が、腸と腸内微生物と脳の関係を不健康な方向にプログラミングしたなどとは、彼女には思いもよらなかった。...
View Article植物もトラウマを記録する―逃げられない環境だから発達する受動的な生き残り戦略
コセンダングサは針で刺されたという「トラウマ」的経験を何らかの方法で保存し、頂芽が切り取られたとき―それが何日もあとのことでも―過去のトラウマを想起するしくみをもっているに違いない、とテリエは考えた。 その後の実験は、コセンダングサの芽はどの葉が損傷したかを憶えている、という彼の推測を確定させた。(p144-145)...
View Article本当は何も知らないことに気づけない―だれもが陥る「知ってるつもり」の認知科学
「自分は何か知っていると思う人がいたら、その人は、知らねばならぬことをまだ知らない」。(新共同訳) およそ2000年前、新約聖書の筆者はそのように書いたそうです。 この言葉は、知識が飛躍的に進歩した今日でも真実であり、知ってるつもり――無知の科学の著者である認知科学者スティーブン・スローマンとフィリップ・ファーンバックは、次のように書いていました。...
View Article大自然から感じる「畏怖の念」を科学するー凍りついた人を生き返らせる逆PTSD効果
2014年の夏、この峡谷をアメリカの帰還兵の一団が下っていった―こんどは全員が女性で、兵役中に心身に深い傷を負っていた。…彼女たちもまたアメリカの大自然を探検すべく川の旅を始めたのだ。 …畏怖の念にほんとうにPTSDとは反対の効果があるなら、そうした効果をもっとも必要としている人たちの脳にも効能はあるのだろうか? (p272-273) 「畏怖の念」と聞くと、あなたは何を思い浮かべますか?...
View Articleオリヴァー・サックスが左足を取り戻したときの「畏怖の念」およびヨブ記から学べる教訓
この記事は、危機的状況下における凍りつきから回復するときに感じる畏怖の念について考察した以下の記事の補足です。長くなったので別記事として分割しました。 大自然から感じる「畏怖の念」を科学するー凍りついた人を生き返らせる逆PTSD効果...
View ArticleADHDは「自然欠乏障害」なのだろうか?ー自然の欠如が脳,自律神経,愛着,腸内微生物にもたらす影響
自然セラピーがADHDの症状を緩和させることが真実だとすると、その逆も言えるかもしれない。 つまり、ADHDは自然との接触を欠くことで悪化させられた一連の症状なのではないだろうか。 薬物療法の恩恵を受けている子供たちはたしかに少なくないかもしれないが、本当の障害は、子供たちの中にあるというよりは、むしろ人工的な環境で暮らすことを余儀なくされていることにある。(p120)...
View Article原因不明の「慢性的な息苦しさ」の理由―自律神経系のポリヴェーガル理論から考える
あなたは慢性的な息苦しさに悩まされていますか? たとえば息が深く吸えない、深呼吸しても奥まで入っていかない、胃腸が張って圧迫されている、といった感覚です。 わたしは慢性疲労症候群で不登校になった学生時代から、ずっと息苦しさや頻繁に出るしゃっくりに悩まされていました。そして、どんな医者に話しても、納得のいく説明も有効な解決策も得られませんでした。...
View Article自分が「空っぽ」に感じるのはなぜか―実存の空虚という恐怖を神経科学から説明する
ブレーズ・パスカルは、恐ろしい幻想を周期的に見た。ときどき、自分の左側に穴か峡谷がぱっくりと口を開けているように思った。自分を安心させるために、そちら側に家具を置くこともよくあった。 ……この周期的な幻想については、同時代の人たちが「パスカルの深淵」として触れている。(p 199) 人間は「考える葦」であるというパンセの記述で有名な物理学者ブレーズ・パスカル。...
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